助言
エイミはエルジオンで猫と戯れていたリィカを見つけた。
「こんにちは。リィカ」
「ア、エイミさん!」
「猫とお話中?」
「ハイ!お友達デスノデ!」
リィカはこの時代のアンドロイドだ。
そして足下でリィカに擦り寄ってる猫も正確に言えば猫ではなくアンドロイド猫だ。
しかしふたりの様子を見てると普通に人が猫と接しているのと変わらないように見える。
それ故エイミはリィカやヘレナをアンドロイドではなく、普通に人として接している。
「プレゼント、デスカ?」
「うん。男の人がもらって嬉しいものって何だかわかる?」
「ウーン。ワタシは乙女デスノデ、男の方が貰って嬉しい物はわかりマセン」
「そっか。だったら傾向とかのデータは調べられる?」
「それナラお任せくだサイ!データベースにアクセスしてみマス」
リィカはチャームポイントのツインテールをぐるりと回し、データベースへアクセスを試みる。
リィカはアンドロイドの中でも特別製で、他のアンドロイドや合成人間達よりはるかに高性能だ。
ただ、普段一緒に行動しているとよく方向を間違えたり、エラーを起こすのでただの高性能なアンドロイドより人らしく感じる事が多い。
「・・・検索完了。男の方が貰って嬉しい物はナント、美用品、デス!」
「び、美用品?男の人も化粧するの?」
「イイエ、化粧品デハなく美用品デス。人前に出る時に最低限求められるエチケットのための美用品デス」
「なるほど・・・。アルドもそういうの気を使ってるのかなぁ」
アルドがそういうのを気にしてるところは見たことがない。
でももし自分と逢ったりしてくれる時に気を使ってくれてたらそれはそれで嬉しい。
「エイミさん、プレゼントを渡すお相手はアルドさんなのデスカ?」
「え?あ、うん、そのつもりなんだけど。ほ、ほら、日頃お世話になってるから感謝の気持ちでね!」
口をついて出たアルドの名前にリィカが関心を示して聞き返してくる。
(どうして私こんなに慌ててるんだろう・・・?)
内心軽くパニック状態になっているエイミにリィカが少し困った様子で言う。
「ンー。お相手がアルドさんダトこのデータはあまり役に立たないかもしれマセン」
「どういうこと?」
「アルドさんはこの時代の人ではありマセン、ノデ!」
「あ・・・」
そこでエイミは気付く。
アルドは自分のいる時代とは違う、もっと過去の時代の人だった事に。
生まれた時代も違えばきっと欲しいものも変わってくる。
(つい忘れがちだけど、アルドは昔の人だったっけ・・・)
自然とエイミの視線が下へ下がる。
「デスがエイミさん!」
意気消沈しかけたところをリィカが大きな声で止める。
「な、なに?」
「長い歴史の中で変わらない物もありマス!」
「え?ホント?」
「それは・・・食事デス!」
バーンとポーズを決めてみせるリィカ。
「どんな時代デモ美味しい食事は嬉しいものデス!是非参考にしてみてくだサイ!」
「わ、わかったわ。ありがとう、リィカ」
リィカに礼を言ってその場から離れる。
(食事・・・ご飯か。それってやっぱり手作りってこと?)
料理。
それはエイミにとってあまり得意でない分野だ。
別にちゃんとやれば作れない事はないが、ついついいい加減に作ってしまい失敗する時が結構な頻度で起こる。
それに料理の話をする時、アルドはよく妹のフィーネの話をする。
妹が作ったあれが美味しかった、警邏に出かける時は妹の弁当を持って行ってたなど。
(ちょっと私には荷が重いかも・・・)
アルドならきっと嫌な顔せずに食べてくれるとは思うが、出来れば他の分野でアタックしてみたいとエイミは思う。
(・・・ん?今私何かに挑戦する気持ちだった?何故?)
分が悪いと思って別の分野へ転向したとはいえ、フィーネの料理に対して一度挑もうとした自分に不思議な気持ちを覚えた。
(まぁいいや。とりあえずサイラスにも話を聞いてみよう)
良くわからない気持ちは一回置いておいて、今度は仲間のサイラスを探しに行く事にした。
最果ての島。
エイミは海岸で瞑想をしていたサイラスを見つけた。
「こんなところにいたのね。随分探したわよ」
声を掛けるとサイラスは目を開け、無駄な動き無く立ち上がる。
「む、エイミ殿か。足労掛けたようですまぬ。どうも拙者はキカイというのが苦手でな。この地はそれが少なく拙者が過ごすには良いと思い時間があれば来ているのでござる」
「そうなのね」
「うむ。して拙者に何か用でござるか?」
「あぁ、うん。ちょっと聞きたい事があって。男の人が欲しいプレゼントってわかる?」
「プレゼント?贈り物でござるか、ふーむ・・・」
サイラスは顎に手を当て目を瞑り考える。
「うむ、やはり酒であろう。美味い酒はいつの時代でも喜ばれるでござる」
「お酒かぁ。アルドってお酒飲むのかな?」
「むむ?贈る相手はアルドでござるか!?」
「あ、うん、そのつもりなんだけど・・・」
「そうか。てっきり拙者は親父殿に贈るのかと思っておったでござる。しかし、そうか、相手がアルドであれば別の物の方が喜ぶやもしれぬでござる」
「・・・やっぱり料理とか?」
「料理でござるか。それも良いかもしれぬが、拙者なら武器が良いと思うでござる」
「武器?」
「うむ。アルドと共に行動するようになり感じる事は、アルドは何かと問題に首を突っ込むところでござる」
「あー・・・」
エイミにも思い当たる事が沢山思い浮かぶ。
アルドは天性の巻き込まれ体質と思う程様々な事に巻き込まれる。
巻き込まれるだけでなく、お人好しでもあるので困った人がいれば気軽に声を掛け、人助けをする。
「それがアルドの良いところでもあるのでござるが、その分危険に遭う事もあるでござる。いつオーガベインが力を貸さなくなるか分からぬでござる。そういう時何か武器と
なる物を持っていた方が良いのではないかと拙者は思うでござる」
「なるほど・・・」
さすが武人なだけあって戦う事を念頭に置いた考え方をしている。
エイミが思慮深く自分の話を聞いてくれてるのでサイラスは気をよくして目を細めながら話を続ける。
「拙者のいた国には懐刀<ふところがたな>という言葉があるでござる。今では重鎮の側に仕える者を指す事が多いでござるが、実際に武器としても存在しているのでござる」
「へぇ、どんな武器なの?」
「普通の武器より小さい携帯型の刀でござる。こっちの大陸で言えばナイフぐらいの形状と言えばわかりやすいでござる。他人には見せぬ暗器のようなものでござるな」
「他人に見せない武器ってこと?」
「うむ。しかし暗器と懐刀には大きな差があるでござる。それは武器の持つ意味が違うところでござる」
そう言ってサイラスは両腕を組んでウンウンと頷く。
「武器の持つ意味・・・?」
「暗器は他人に見つからぬよう殺すためのいわば暗殺用の武器の事でござる。だが懐刀はあくまで身を守るための武器、守り刀の意味をもっているのでござる」
「守るための武器、か」
「アルドはあのような性格故、己より他者のために命を張り、自らを危険に晒すことがあるやもしれぬ。それを少しでも減らせる物が良いと拙者は思うでござる」
「なるほど・・・ありがとう、考えてみる」
長話してしまったと少し自嘲気味に笑ってからサイラスは再び瞑想に戻った。
(守り刀か・・・。確かにそれなら邪魔にならずに持っていてもらえるかもしれない)
最初武器と聞いてあまり乗り気にならなかったが、サイラスの言葉でエイミの考えは変わった。
(でもどうやって作ればいいんだろう?)
料理よりウェポンショップの娘らしい自分に向いた分野にはなったものの、守り刀に向いた素材や製法までエイミには分かり得なかった。
(ひとまずお父さんに相談してみよう)
自分の父なら何か知っていると思い、エイミは父のいるイシャール堂へ足を向けた。
「ヘレナ?」
「あら、エイミじゃない、どうしたの?」
イシャール堂へ帰ると父の代わりにヘレナが居た。
「どうしたのってここは私のうちだもの。そういうヘレナこそどうしたの?」
「ちょっとメンテナンスパーツの調達にね」
「・・・調達に来たのになんでお店の手伝いしてるのよ」
エイミの眉間に皺が寄る。
それはヘレナが従業員に店の商品の整頓指示をしていたからだった。
「パーツが出来るまで時間が出来ちゃって店を見てたんだけど・・・エイミ、もう少し店の陳列はしっかりしたほうがいいわよ?」
溜息混じりにそう言うと一緒に整頓していた従業員が申し訳なさそうに頭を下げる。
確かにヘレナが指示したであろう棚とそれまでの棚では見易さが段違いに良くなっていた。
父や自分を含めどうにもこのイシャール堂の人達はそういう商売的な部分に無頓着なところがあり、ヘレナの言う事に苦笑いしか浮かべられなかった。
「あ、あはは・・・ありがとね。・・・ところでお父さん見てない?」
「ご主人?それなら今調達に出てるわ。何か用事でもあったの?」
「んー、まぁ、ちょっと相談かな・・・?」
「ふぅん?私でよければ代わりに聞くわよ?」
「ヘレナが?うーん・・・」
(そういえばヘレナってガリアードの側近だったっけ)
守り刀の別名である懐刀という単語を思い出す。
かつてガリアードとヘレナは自分達とは対立する立場であったが、色々あって今は仲間として共に活動している。
敵のときは厄介な相手だと思っていたが、仲間になると心強く、同時にその雰囲気からちょっと年上の姉のような感覚をエイミはヘレナに感じていた。
「じゃあ折角だしお願い」
どうせ父を待たなければならないのでその間の話相手としてヘレナにアルドへプレゼントとして守り刀を作ろうとする話をする。
「・・・はぁ。色気がないわねぇ」
「わ、悪かったわね」
「まぁ貴女らしくていいけど。そうねぇ、守る事を主体にするならバリア発生装置でも組み込めばいいんじゃない?」
「バリア発生装置って・・・それこそ色気が無いんじゃない?」
「あらそう?私はかっこいいと思うけど」
ヘレナは何かを想うように思案しながら言う。
その雰囲気はどこ懐かしそうな感じがしてエイミはヘレナがアルドではない別の誰かを想像して言っていることに気付いた。
「使うのアルドなんだけど・・・」
「あら、そうだったわね」
そんなやり取りをしながらヘレナとエイミはどういった物が適しているか話し合った。
そして話が少し途切れたところでヘレナが再び口を開く。
「そういえば前に情報収集してた時に硬質素材についての文献があったわね」
「そうなの?」
「えぇ。古い言い伝えのようなもので手に入りそうに無かったから除外したんだけど、聞く?」
「うん、お願い」
エイミが頼むとヘレナは自分の中に格納されている情報を検索する。
「読み上げるわよ」
"我らを求めよ、我ら精霊の加護を受けし者"
"我、山より出でし炎の水。流れ、集まり、結晶となる。それ即ち情熱の証"
"我、豊かな水の溢れる場にて全てを見守る。それ即ち慈愛の証"
"我、風靡く地にて草木と共に歩む。好きに飛び、時に休む。それ即ち自由の証"
"我、暗き地より万物を支える。我らの糧は万物の心。それ即ち意志の証"
"我らを求めよ、我ら精霊の加護を受けし者"
"我らは真理。我らは強固。我らは絆"
「・・・以上よ」
「随分と漠然とした文献ね」
「そうね。古い時代の石版に書かれていたものらしいわ」
「古い時代・・・」
「私がこれを見たときは何も思わなかったけど、今なら手に入るかもしれないわね」
「・・・」
今。それはヘレナが言うところの時間移動の事を指す。
アルドをはじめとしたエイミ達の仲間は生きてる時代が違う者達の集まりだ。
アルドも本来ならエイミが生まれるより前の人でサイラスはそれより更に前の人だ。
時間を移動する不思議な力、いや、不思議な縁によりエイミ達は出会い、仲間として活動している。
(絆か・・・)
先ほどへレナが読み上げた文献の言葉が心に残る。
「ちょっと調べてみようかな。データもらえる?」
「いいわよ。良い結果になるといいわね」
「ありがとう、ヘレナ」
「どういたしまして。がんばりなさい」
ヘレナに礼を言い、エイミはイシャール堂を後にした。
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