44 打ち上げ御免ッ!

 聖に飯を奢ってもらった後、一旦クラスに戻ろうかと思った俺は、二人に別れを告げた。その足で、メイド喫茶に向かっていたのだが、校庭で俺のことを捜索しているクラスメイトを発見。怖くなって逃げていたら、一日が終わったのだ。


 二日間学校側で日にちを取ってはいるが、二日目は片付けに割かれる予備日である。


 つまり、文化祭の実質的終了。


 ……売り上げはどうなったのか。


 勝負の結果が気になるところだが、このままとんずらさせてもらおう。

 二日目は事前に解体部隊と掃除屋も雇っているので、問題が無ければ学校に行かなくても済みそうだ。


 ということは、明日から三連休か。

 鍛錬に費やすしかない。

 燃えてきた。





 翌日、いつもの山でイバラキと魔法力の訓練をしていた。


「主君、このちっちゃいのが震えているぞ。なんなのだ」

「ん?」


 牛鬼が俺の携帯電話を背から生えている足で摘まんで持ってきた。

 受け取り、確認する。


 早乙女からメッセージが届いたようだ。


 最近では、あまりやり取りをしていなかったのだが、行き成りだな。

 ID交換当初こそ度々送られてきたメッセージであったが、その量にうんざりして、無視していたら段々と数が減ってきていたのだ。


【ヒロくーん!どこにいるの、会いたいよー(;▽;)】

【今日はお休みですか?心配です、連絡ください|ω·`)】

【15時から学校で打ち上げやるよぉ!三└(┐卍^o^)卍ドゥルルルルル】

【みんな待ってます!(゜ロ゜)】


 顔文字が煩い。


 ……打ち上げか。

 電波時計を確認する。15時10分。時間はとうに過ぎていた。

 この場で訓練していた方が非常に生産的だな。

 行く意味はない。


 だが、一応メッセージだけは返しておこう。

 既読が付いて反応しない奴は直ぐに排除される可能性があるからな。

 ましてや相手はクラスの人気者。策は打っておくべきだろう。


【忙しい】

【絶対楽しいよ~ヾ(○´囗`○)ノ゛ォーィ】


 話は通じないようだな。

 諦めて画面の電源を落とす。


「行かなくてもよろしいのですか」

「面倒だからな」

「……若様がそれでよろしいのでしたら」


 それよりも訓練だ。今は属性操作について学んでいる。


 人それぞれの魔法力の適正、すなわち魔力属性であるが、実のところ判りやすい目安が人体に存在している。


 頭から生えている髪だ。

 この世界、生まれた際に魔法粒子が細胞に取り込まれ髪色が変化する、と前に判明しているが、それは自分の属性にも影響される。簡単に言えば、赤であるなら火、青であるなら水という風に。

 もう少し細かく分けることもできるが、今はこの程度の理解でいいだろう。

 

 俺の髪は黒。

 色々試してみた結果は、何となく黒い力を操れるという事。

 適当に“黒属性”と呼んでいる。色が黒いから黒属性だ。

 安直なのには目を瞑ってくれ。俺にはネーミングセンスが皆無だからな。


 黒い力、と言ってもなかなかに難しい。

 火属性の様に火を起こすことも出来なければ、水属性の様に飲み水を作り出すことも叶わない。


 なら、何が可能なのか。

 俺の属性は便利系ではなく、ある一転に特化していた。

 戦闘である。戦う面に関してだけは、結構万能だと訓練課程で分かっている。


 運用法としては、身体や武器に属性を纏わせ、破壊力の増加を図るのだ。

 他には、体外に放出し遠距離からの攻撃もできる。

 未だ研究途中にあり、成長の見込みはあるだろう。

 なければ困る。使い道が極端すぎて普段では全く役立たずの能力なのだから。

 実のところ、無属性魔法の方が有用性は高かったりする。属性魔法は俺にとって、見た目だけなのだ。これからも模索していくつもりだが、あまり日の目は浴びないかもしれない。


 ……今日も今日とて、俺は式神たちと訓練に励む。

 連休は始まったばかりだ。

 猛特訓に費やすことは確定されている。

 まだ、俺は弱いのだから。





 あっと言う間に訓練期間は過ぎ、学校が始まった。

 文化祭の残り香は少しもなく、校内は元の姿に戻っている。

 あれだけ金をかけたメイド喫茶も、跡形もなく消え去っていて、何というか非常に虚しい。カッとなる癖は直した方が良いかもな。

 

 そのまま、普段通りの充実した個人訓練の一日を送り、放課後に差し掛かった時だった。


 俺は鞄を机の横から手に取り、下校しようと立ち上がる。

 すると、捕縛するかのように後ろから肩を抱かれた。


「よっしゃ、これから打ち上げに行くぞ支配人!」


 顔が近く、鼻息が荒い。

 この、妙に距離が近い慣れた手つきのコミュニケーション。

 誰とでもすぐ仲良くなり、人の内側に入り込むのが非常に上手いのは。

 ……伊藤だ。


「……行ったんじゃなかったのか」

「ははは! 主役がいなくて行けるわけねぇだろ!」


 どうやら、支配人である俺がいなかったために延期したらしい。

 社畜としての性根が深く沁み込んでいる様だ。

 これは良いのやら、悪いのやら。


 しかし、俺は特に行く気がない。

 知らない者が少なくはなったが、未だに恐ろしいからだ。

 急な総射撃などにあっては、今の弱々しい俺では太刀打ちできるかも分からない。

 せめて、あの藤堂を圧倒するぐらいにならなくては。


 ……悪いが、お断り願おう。


「……用事があるからお前らで勝手にやっていろ。売り上げは好きに使っていい」

「なーに馬鹿言ってんだよ! 早く行くぞぉ!」

「勝手にしていいと言っている。俺に行く気はない」

「行くぞぉ!」


 話が通じない。


「家が火事で」

「行くぞぉ!」

「親が危篤で」

「行くぞぉ!」

「腹が痛くて」

「行くぞぉ!」

「吉」

「行くぞぉ!」


 ゲームのノンプレイヤーキャラクターの様だ。

 決まった言語しか呟かなくなった。プレイヤーである俺には抗う術はないのかもしれない。


「……はぁ」


 息を一度吐き出す。

 こうなったのなら仕方ない。

 少しだけ顔を出して早々に帰ろう。それなら納得するだろう。


「わかった、い」

「行くぞぉ!」

「いや、だから」

「行くぞぉ!」


 まじで頭いかれとるんか。





 その後、ファミレスに行き、カラオケにも立ち寄った。

 予想以上に時間が経過するのは早く、気付いたらずっと付き合っていて。

 今日ぐらい、息抜きしても良いかなと。

 少しだけ、そう思ってしまったのだ。


「ヒロくん! 一緒に“大扉開けて”を歌いましょう!」

「断る」


 ただ、デュエットだけは勘弁してくれ。

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