第55話 獣使いの少女
ドラゴンゾンビが消滅し、ついでに腐敗神の司祭も消滅。
これにて、まつろわぬ民が企んだ、国家転覆の陰謀は完全に潰えた。
冒険者たちに怪しい依頼を通じて支払われていた報酬は、まつろわぬ民の活動資金だったらしい。
それを失い、ガットルテ王国に反感を抱く者たちは行動ができなくなった。
さらに、腐敗神の司祭を失い、復讐の実行手段すらなくなってしまったのである。
「後は我が国の仕事だな。オーギュスト、感謝する」
ブリテイン王から直々に告げられ、俺は恭しく礼をした。
「さすがイングリッドだ!」
小鼻を膨らませて興奮している、ロンディミオン王子。
臣下が止めなければ、すぐにでもイングリドにしがみつき、お城に連れ帰りそうな勢いだった。
その後、王都はお祭り騒ぎになった。
我らラッキークラウンは、さんざん無料で飲み食いさせてもらい、ついには酔いつぶれ、酒場の床で朝日を迎えたのだった。
さて、もらうべき報酬はしっかりと。
ただし、支払い元のガットルテ王国も色々と建て直さねばならぬものがある。
まつろわぬ民たちによって傷つけられた国土や、今回の戦いで大きく崩壊した王都の入り口、などなど。
報酬は結局の所、消耗品を全部補充できる程度であった。
「あたいは満足だけどね? しっかし、凄いことになったねえ。あたい、買い物に行ったらどこに行っても英雄様だよ」
ギスカがけらけらと、嬉しそうに笑う。
鉱石魔法の力を知らしめるため、鉱山からやって来た彼女。
早々に目的は果たされてしまったらしい。
だが、俺たちとはまだ同行するようだ。
「それで、どうするんだオーギュスト?」
「それはもちろん。運がついているうちに、仕事を請ける。まあ、我らには幸運の女神がついているからね」
「む、むふふ、そ、それほどでもないぞ」
イングリドが照れる。
ついに幸運の女神を自負し始めたな。
さて、次なる仕事を探そうと、掲示板に手を掛けようとした時である。
朝のギルドに、堂々と現れる二人連れがあった。
「あんたらがラッキークラウンやね!!」
「いかにもそうだが、君たちは?」
それは、栗色の髪をお団子状にまとめた小柄な少女と、その後ろをついてくる、手枷首枷をつけられた、亜人らしき巨漢だった。
巨漢は鋭い目つきで、ギルドの中を見回している。
狼のような耳があり、白銀のたてがみのようなものが首周りから生えている。どこか肉食獣めいた印象を感じる男だった。
「うちは、フリッカ。そしてこいつは、うちが従えている獣の魔族ジェダ。そう、うちは獣使いなんよ!」
「ほう、獣使い!!」
俺の目は光ったことであろう。
「そしてラッキークラウンのお三方! あんたらの活躍、見てたで! うちらな、これから冒険者になろうと思ってるのん。っていうのも、うちら、名前を売らんといけんのよ。探してる奴がいるんや」
「ほう。名前を売って、相手に見つけてもらおうという腹づもりかな?」
「その通り! なあジェダ」
「うむ」
手枷に首枷の巨漢、ジェダがうなずく。
おや、二人は主従関係というわけではなさそうだ。
少女フリッカは、腰に鞭を装備している。
獣使いというのは本当だろう。
では、ジェダの首枷と手枷は一体どういう意味がある?
まあいい。
彼らの言わんとする事は分かった。
「我ら、ラッキークラウンに加えてほしいということだね?」
「自分、話が早いなあ! そうそう! そうなんよ! お願い道化師はん、うちらを仲間にしてえな……!」
スススっと近づき、俺にしなだれかかるフリッカ。
色仕掛けである。
イングリドと比べると細身で、色々肉が足りていない。
なぜか、イングリドが目を吊り上げている。
どうしたことか。
「やめるんだ! 嫁入り前の女性が見ず知らずの男性に体を預けるものじゃない!」
イングリドとは、普通にかなりの密接距離で過ごすことも多かった気がするが?
フリッカはイングリドを見ると、ケッと言って距離を取った。
「なんや、商売の邪魔しないでほしいなあ……。あ、あかん。うちらまだ冒険者登録してへんのやった。ちょっとジェダ、行ってきてえ」
「良かろう」
首枷に手枷のまま、ジェダはギルドのカウンターまでのしのし歩いていった。
受付嬢がドン引きしている。
「それで、オーギュストはん! どうなの? うちらを仲間にしてくれる?」
俺はにっこりと微笑む。
フリッカも、パッと表情を輝かせた。
「では今回の仕事を一緒に受けてみて、力を確かめさせてもらおうか。我らラッキークラウンは、実力派の冒険者パーティだ。どれだけの強さかも分からないものを、仲間にするわけにはいかないからね」
「シ、シビア~」
フリッカががっかりした。
世の中はそんなに甘くはないのだ。
登録を終えたらしいジェダが戻ってくる。
そして、フリッカの首根っこを掴んでひょいっと持ち上げた。
「うわーっ、なんやなんや!」
「本人がカウンターに行かねば登録できん。次はお前だフリッカ」
「なんやー! 分かったから降ろせやー! うちは動物やないぞー!」
賑やかである。
イングリドは彼らを呆れた目で見ているが、これまで静かだったギスカは、少し笑いながら俺を小突く。
「道化師よ。あんた、実は腹を決めてるんじゃないのかい?」
「おや、そいつはまたどうしてだ?」
「道化師に、力自慢に、手品師ときたら……猛獣使いが欲しくなりそうじゃないかい。あたいらはサーカスかい?」
「ご明察」
俺は小さく拍手した。
どうやらギスカは、俺の内心をお見通しだったらしい。
獣使いフリッカと、獣の魔族ジェダ。
二人がどれほどの腕前で、ラッキークラウン一座の猛獣使いとなれるか否か……。
確かめさせてもらおうじゃないか。
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