第56話 この依頼がテスト

「では、この依頼がパーティ加入のためのテストになる。さてさて、ランダムに取ってみたが、この依頼は果たして……」


 俺は内心ウキウキで、依頼書を覗き込む。

 何せ、この五人で冒険者パーティとしては万全の人数になるのだ。


 人数制限で受けられない依頼は完全になくなる。

 俺たちは、あらゆる依頼を受けられる!

 まあ、それも、フリッカとジェダがどれだけやれるかに掛かっている。


「ワイバーン掃討依頼だ」


「げっ」


 フリッカが呻いた。


「ほう」


 ジェダがにやりと笑う。

 対象的な反応だ。


「ジェダ! あんた暴走するんやから、こうしてうちが獣使いとしてついてるんやろ! 分かっとんの?」


「無論だ。俺の力はお前がいることで、何倍にもなる」


「話が噛み合っていない」


 俺は思わず感心してしまった。

 これは面白いなあ。

 一体どんな活躍をしてくれるのだろうか。


「オーギュスト、ニヤニヤしていないで依頼書の内容を教えてくれ」


 イングリドに突っ込まれた。

 もっともである。


「失礼。内容はこうだ。『山間にワイバーンが営巣しました。子牛や家畜がさらわれて困っています。このままでは人間もいつ標的になるかわかりません。ワイバーンの群れを退治してください。報酬:50ゴールド。ワイバーンの巣で見つけたものは自分のものにしてもらって構いません。 ギルド追記:人数四人以上』」


 人数四人以上!!

 俺はこの表記を、もう一度黙読して、微笑んだ。


 ざまぁみろ!!

 越えてやった、越えてやったぞ。

 今、ラッキークラウンの人数は五人だ。


 この依頼を、堂々と胸を張って請けられるというものだ。


「諸君、この仕事を請ける、で問題ないかね?」


「ああ、問題ない」


「あたいも構わないよ。海よりは山の方が得意だからね!」


「これがテストなんやろ? うちも異論なーし。やったろうやん」


「楽しみだ」


 満場一致である。

 俺は悠然たる足取りで、受付カウンターへ向かった。

 依頼書を提出する。


「この仕事を、我らラッキークラウンが請ける」


「はい、仕事の受注ですね、ありがとうございます。ラッキークラウンなら、必ずやこの仕事を成し遂げると信じています!」


「もちろんだよ……!」


「うわっ、道化師がすごいドヤ顔をしてるよ」


「人数が増えて、どんな依頼も請けられるようになったからな。オーギュストにはそれが嬉しくてたまらないんだろう」


「えっ、そうなん? 割と子どもっぽいところがある人なんやねえ?」


 女性陣のヒソヒソ話など無視だ無視。

 かくして新しい依頼を手にして、我らラッキークラウンは旅立つこととなるのだった。

 ドラゴンゾンビを倒して、さほど日にちも経ってはいないのだが……。


 こういうのは休みすぎると、サボり癖がつくからな。

 冒険者は自らを律せねばならないのだ。


 俺たちは準備をし、翌日には旅立つことになった。

 その前に、酒場で出立前に酒を飲む。


 別に、依頼に出ると自由に酒が飲めなくなるからここで飲んでおく、と言う意味ではない。

 いや、ちょっとだけそう言う意味もある。

 最も重要なのは、新たなメンバーであるフリッカとジェダの能力を知ることなのである。


「ええとなー。うちは、ご覧の通り中くらいのところで戦うんや。鞭が武器。まあまあ使えるから、器用に物を巻いて取ったりできるで。それと、妖精魔法が使える。精霊魔法ってのは知ってる?」


 イングリドとギスカが、並んで首を傾げた。

 盛大に溜息をつくフリッカ。


「つまりやな、妖精魔法っちゅうのはな。妖精を呼び出して、代償を捧げて、魔法の力を使ってもらうもんや。お菓子やら酒やら、果実やら。そんなんで魔法を使えるわけやな」


「猛獣使いにして妖精使いか。なかなか凄いメンバーが加わったじゃないか」


 ウキウキする俺を見て、フリッカが何とも言えぬ顔をした。


「なあ自分、テスト言うたけど、一番うちらを歓迎してるの自分とちゃうの……? なんでそんなに嬉しそうなんよ……」


「強い者が現れれば、己の力を試せる。嬉しいに決まっているだろうが」


 ジェダが俺の内心とは全然違うことを言った。

 今の彼は、片手にだけ手枷を付けて、自由になった手で骨付き肉を握っている。


 それ、割と自由に外せるのだね。

 何かつけている理由があるのだろう。


「俺の魔法知識によると、妖精魔法は男の使い手ならば攻撃的に、女の使い手なら補助や回復を中心にした能力を扱えるとか?」


「そうそう、そうや! なんや自分、詳しいやん!」


「道化師だからね」


「えっ、道化師ってそういうの詳しいものなん……?」


「彼は口が回るが、たまに口からでまかせを言うからな。全てを信用してはいけないぞフリッカ」


 イングリドが人聞きの悪い事を言った。

 神妙に頷くな、フリッカ。


 次に、あっという間に骨付き肉を平らげたジェダ。

 脂の付いた指を舐めながら、ジョッキに手を伸ばした。


「ジェダ! あんたの番やで! 自己紹介!」


「ああ、そうか。もう俺か。俺はな、魔族だ。種族名はジャバウォック。姿のない魔族だ。殺した相手の姿を奪う。これは、俺が殺した獣人の戦士の姿だ」


 いきなり物騒なことを言ってきた。

 魔族ジャバウォック。

 よく知っている。


 かつての大戦で現れた魔族の、上級兵士にあたる存在だ。

 正体というものを持たず、敵と同じ姿に変わるため、ドッペルゲンガーとも呼ばれる。


 大戦が終わると、魔族は散り散りになって人族の中に溶け込んでいった。

 その中でも、最も適応が巧みだったのが彼らジャバウォックだ。

 自分ではない何かに化けることができるのだから、当然といえば当然。


「では、ジャバウォックである君がどうして獣扱いなんだ?」


 俺の質問に、ジェダは笑いながら答えた。


「俺たちは上級魔族じゃない。寿命がある。この世界の生き物と契って、子を残さにゃならん。だから、ジャバウォックの血は薄くなっていった。俺は、何種類もの獣人の血を受け継いだ一族だ。だから、たどってきた血筋に近い獣に化けることができる」


「なるほど、それで君が猛獣担当か」


「ああ。だが、こう、俺はイマジネーションというものが足りなくてな……。何にでも化けられるが、化けるアイディアが無い。そいつを、フリッカが補ってくれる」


「そういうことや!」


 フリッカが得意げに、薄い胸をどんと叩いた。

 そしてむせる。


「あとは、こいつの目的が面白そうだから、俺は手を貸している。そういう関係だな」


「なるほど。よく分かった。ではこれからよろしく、二人とも! 新たな仲間の加入を祝って! いや、仮加入だが! テストが終われば正式加入だが! 乾杯!」


「乾杯! 締まらないねえ……!」


 ギスカが苦笑する。

 イングリドは乾杯さえできれば満足らしく、ぐいぐいとジョッキを空け始めた。

 フリッカはジョッキにちょっと口を付けただけで、顔を真赤にしている。


 ジェダが、不思議そうに俺を見ていた。


「どうしたのかね?」


「いやな。目的って言葉に反応しただろ。だが何も突っ込まねえ。今まで、目的って聞いたやつはみんな突っ込んできた。お前は変わってるな」


「進んで口にしないプライベートは詮索しない主義でね」


「面白いこと言う奴だ」


 にやっとジェダが笑う。

 何、面白いのは君たち二人もだとも。

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