第33話 最初の村

 その日のうちに、最初の村に到着した。

 ブリテイン王に見せてもらった地図では、この村はもともと開拓村。

 特に、ガットルテ王国に対して含むところがない場所だ。


 ちょうどいいので、ここでギスカを本格的にお誘いすることにした。


「うちのパーティに加わってくれ。君も一人だと、受けられる仕事に限界があるだろう。実はうちもそうなんだ」


「そうだね……。確かに、一人で受けられる仕事は少ないし、報酬も大したことないからねえ。いいよ」


 二つ返事で了承をもらった。

 実にありがたい。

 イングリドが真面目な顔をしながら、ギスカの肩に手を置いた。


「ギスカ、これだけは約束してくれ!」


「な、なんだい? やたら気合を入れて……」


「死ぬなよ!!」


「は、はい?」


 唖然とするギスカだが、無理もあるまい。

 かくして彼女が仲間になり、ようやくパーティと言えるものになって来た。

 あと一人加われば、大規模な討伐依頼にだって参加できるだろう。


 だが、その一人も吟味せねばな。

 というか、縁みたいなものだが。

 イングリドの幸運スキルに巻き込まれて、死なないくらいの実力がある冒険者でなくてはならないのだ。


 さて、ここは俺たちに割り振られた宿。

 あまりいい宿では無いが、とりあえず寝床があるだけで充分だ。

 女性冒険者と男性冒険者で、別々の大部屋に放り込まれている。


 俺たち三人が話をしているのは、宿の食堂。


 他のパーティも、パーティごとに固まってワイワイやっている。

 俺たちの他に、二組だな。

 四つも荷馬車がある隊商を護衛するとなると、それなりの人数が必要になる。


 そして、そういうパーティは既にメンバーが固まっているので、ギスカみたいな仕事先で出会った冒険者を仲間に加えるようなことはあまりない。

 突然欠員が出たとかでもない限りはな。


 おかげさまで、希少な鉱石魔法の使い手を仲間に迎えることができたというわけだ。


「では諸君! 鉱石魔法の使い手、ギスカの加入を祝して乾杯と行こう!」


「大仰な男だねえ。でも、そういうの嫌いじゃないよ」


「彼は道化師だからな。所々で芝居がかったやり方になる。凄いぞ。ここぞという時の戦いの前に、私たち以外の人間がいるとそこで舞台挨拶みたいなことをするんだ」


「そりゃあ凄い……筋金入りだねえ……」


「職業病というものだよ」


 笑いながら、ぬるいエールを飲む。

 質は良くないが、それでも仕事の後の一杯はうまい。


「オーギュスト。ギスカを仲間にするならば、話しておいたほうがいいのではないか? あの件についてだ。ほら、王国存亡の危機の」


「王国存亡の危機!?」


 ギスカが口に含んでいたエールを吹き出しかけた。


「な……なんだいそりゃあ。いきなり面倒事に巻き込まれるなら、あたしパーティ加入は遠慮しとこうかな……」


「いきなり弱気になったね……。イングリドは腹芸というものが全くできないので仕方ない。本当に、彼女が次のアレを継承しなくて本当に良かった」


 腹芸のできない女王なんて洒落にならない。

 まあ、マールイ王国のキュータイ三世陛下は腹芸どころか、機嫌を取らないとまともに仕事ができないんだがな。

 あの方は大きい子どもみたいなものなので、仕方ないといえば仕方ない。


「ギスカ、そこまで身構えなくていい。大きな声では言えないが、実はこのイングリドはガットルテ王国の王女でね」


「はあ!?」


「ガットルテ王国を転覆させんとする、腐敗神の信者たちによる陰謀が働いているのだ。俺と彼女は、それを止めるために動いている。あくまで冒険者としてだから、報酬も出る」


「大事じゃないか……。力試しのつもりだったのに、とんでもない話を聞いちまったよ」


「ドワーフは義理堅いと聞いているからね……。話を聞いたままさっさと逃げないと分かっているから、こうして核心的な話をしている」


「悪どい! 本当に魔族みたいな男だねえ!」


「バルログだからね」


「そもそも、あんたのどこがバルログなんだい。面影が全く無いじゃないか」


「外見的にはね。瞳の色くらいしか共通点はない。だが、俺はあの種族由来の性質である、呪いや毒物、炎や氷への耐性を持っている。実に道化師向きの体質じゃないか」


「ええ……。あたいらドワーフも炎や窒息に耐性があるけど、道化師はそういうのが必須な仕事なのかい? 大変だねえ……」


「必須ではない」


 イングリドが真顔で否定してきた。

 そして微笑む。


「だが、これでギスカは私たちの仲間ということだな。では、これからの予定について話をしよう……」


「おいオーギュスト。この女、あたいが仲間になるのを既成事実みたいに……」


「最近のイングリドは押しが強いからな。彼女とともにする冒険はエキサイティングだぞ」


「ええ……。死んだりしないだろうね」


「死なないでくれよ……!」


 ここで再び真顔になるイングリドなのだ。

 ギスカは引きつった笑みを浮かべて頷いた。


 ドワーフは義理堅く、約束をした場合、絶対にそれを違えることはない。

 無論、約束をする相手は自分が信頼できると見た人物のみだが。


 それに、彼らは人間とはあまりともに暮らすことはせず、種族ごとに集まって地下鉱山都市で暮らしている。

 人間との交渉は、物々交換による商業的関係のみで、彼らに情報を伝えても、それが別の人間に伝わる可能性は低いのだ。


 こうして、ギスカが仲間になった。

 彼女の能力の真価は、すぐに見ることができるだろう。


 イングリドと一緒の冒険が、何もなく終わるわけがないのである。

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