第43話 ランクアップ

 ルミアとレッドドラゴンの素材を少し回収すると、ギルドから大勢の冒険者たちが駆けつけてレッドドラゴンは街に運ばれることになった。


 レッドドラゴンの運搬はギルド主導で冒険者を雇って行われているらしく、討伐者である俺とルミアがやることはない。


 普通の冒険者であれば、運ばれるレッドドラゴンの前を歩いて実力を誇示するらしいが、俺たちにそんな度胸もないので、後のことは任せて帰宅。


 いつもの時間よりも遅くなってしまったので、状況の説明も兼ねて、俺はルミアをサフィーの工房まで送ることにした。


「レッドドラゴンが現れたと聞いていたが、まさか二人が遭遇して討伐するとはな……」


 レッドドラゴンを討伐したことを説明すると、さすがのサフィーも驚いて目を丸くしていた。


「で、素材はちゃんと採ってきたのだろうな? 特にドラゴンの血液は時間が経過するにつれて劣化してしまう」


 しかし、二言目には心配や労いの言葉ではなく、素材の催促の言葉が出てきた。


「勿論、採取してありますよ師匠」


「ええ!? サフィーさん、もうちょっとルミアを心配してもいいんじゃないですか!?」


「レッドドラゴンは君たちで討伐したのであろう? 腕の一本でも千切れているようであれば上級ポーションを無償で譲ってやったが無傷ではないか。何を心配する要素がある?」


「いや、それもそうですけど……」


 サフィーの言う事は事実であるが、なんか納得いかない。


 怪我をしていたら上級ポーションを無料で譲ってくれると言っているので非情ではないのだと思うけど。


 ジットリとした視線を向けていると、サフィーは呆れるようにため息を吐く。


「大体、君のようなおかしな量の魔力を持った人間なら、レッドドラゴンくらい討伐できるのはわかりきったことだ」


「シュウさんの初級魔法は上級魔法並の威力ですからね」


 サフィーの台詞にルミアも苦笑いしながら頷いた。


 えー? ということは、妙にサフィーが心配していないのも、戦闘中にルミアが意外と冷静だったのも、それがわかっていたからなのか? 


 なんか一人で慌てて心配していた自分が滑稽に思えてきた。


「とはいえ、レッドドラゴンから弟子のルミアを無事に守ってくれたことには礼を言うぞ」


「改めて、ありがとうございますシュウさん。お陰で無事に戻ってくることができました」


「いえ、サフィーさんのアイテムやルミアさんが手を貸してくれたお陰ですから」


 あまり礼を言いそうにないサフィーと、ルミアに改まって礼を言われると妙に照れくさい。


 しかし、そんな暖かな場面もサフィーの一言によって霧散する。


「ほう、ということはあたしの作った音光球を使ったのか?」


「はい、すごい爆音と閃光でレッドドラゴンの視界を奪い、動きを鈍らせることができました」


「その時の様子を詳しく聞きたい。音光球はどんな風に弾けた? どれくらいの範囲で、視力を奪えていた時間はどれくらいだ?」


 音光球の考察を始めるサフィーとルミア。


 本当に錬金術が好きなんだな。


 白熱して話し合う二人を見て、俺がここにいても意味がないことを悟った。


「それじゃあ、ルミアさんも無事に届けたので今日はここで失礼しますね」


「ああ。それと指名依頼とは別に、レッドドラゴンを討伐して素材を採取させてくれた分の報酬を上乗せする。だが、額が額なので冒険者ギルドに口座を作っておいてくれ。そこに振り込む」


「ありがとうございます。わかりました」


 おお、レッドドラゴンからルミアを守ったお陰で臨時ボーナスだ。というか、冒険者ギルドにお金を預かってくれるサービスとかあったのか。知らなかった。


 お金はマジックバッグで収納できるので困らないが、もしも紛失した時のことを考えてリスクは分散しておきたい。


 依頼をこなしてお金も貯まってきたし、ここらで口座を作っておくことにしよう。


「シュウさん、ありがとうございますー! また、素材採取しましょうね!」


「ええ、また今度!」


 扉から顔を出して見送ってくれるルミアに返事して、俺は宿に戻ることにした。




 ◆




 レッドドラゴンを討伐して三日後。


「あっ! シュウさん! ちょっと、こちらに来てください!」


 口座を作ろうと冒険者ギルドにやってくると、早速ラビスに呼ばれてしまった。


 身を乗り出して手を大きく振って、耳をぴょこぴょこと動かしている。


「あいつがレッドドラゴンを倒したってやつか?」


「採取依頼ばかりやっている奴じゃないか? 実は戦いも得意だったってわけか?」


 レッドドラゴンを討伐した件は、既に冒険者の中でも知れ渡っているのか、俺の名前が呼ばれた瞬間に冒険者から奇異の視線が向けられる。


 ただでさえ、迫力のある人たちなんだ。見定められるような視線を向けられると怖いし、落ち着かないな。


「なんでしょう、ラビスさん?」


「おめでとうございます。指名依頼の達成とレッドドラゴンの討伐で、シュウさんがランクアップすることになりました!」


「おお、本当ですか! では、ランクEに?」


「いえ、シュウさんの活躍を考慮して、特例としてランクBになります!」


 ラビスの声を聞いていたのか、周りで聞いていた冒険者がざわつく。


「どうしてそこまで一気に?」


「元々指名依頼をこなしていた時点でランクE間近だったのですよ。そこにランクAのレッドドラゴンを討伐したことにより跳ね上がりました。というか、シュウさんって魔物の討伐もできるんですねー」


 聞いていないとばかりにジットリとした視線を向けてくるラビス。


 マズい、討伐もできるからと言って、討伐の指名依頼を持ってこられたら困る。


 俺がやりたいのは優雅なのんびり採取ライフ。先日のようなリアルモンモンハンターはごめんなのだ。


「いえ、あれはルミアさんの援護もありましたから」


「とはいえ、たった二人で倒せちゃうんですね。通常はランクAの冒険者が四人がかりで何とか倒せる相手なんですけど」


 あれ? 言い訳をしたつもりがさらに墓穴を掘ったような気がする。


「とにかく、シュウさんは今日からランクBでよろしいですね?」


「いや、よろしくないです。ランクCくらいにしてもらえたらと……」


「ええっ!? せっかくの昇格チャンスなんですよ!?」


 ランクの引き下げにラビスが信じられないとばかりの顔をする。


 前世でいえば、平社員から一気に部長クラスに出世できるようなもの。それを不意にすれば、次にいつこのような機会に恵まれるかわからない。


 ランクCからBに上がるのは難しく、時間もかかるのだろう。


 ラビスがそう言うのも当然だ。


「俺はまだ冒険者になって一か月程度の新人です。依頼も採取くらいしかこなしていません。いきなりランクBになったとしても、それに相応しい実績も、知識もありませんから、ランクCでお願いしたいです」


 ただでさえ、俺は異世界からやってきて知識がないのだ。いきなりランクBの依頼を任されても、大いに戸惑うに違いない。


 冒険者ギルドで口座を作れることだって知らなかったしな。


 幸いながら生きていくには困らないお金を現状で稼ぐことができている。別に無理して背伸びをする必要はない。


 俺はここで素材採取をしながらのんびり暮らしたいだけだからな。


「……わかりました。シュウさんがそう言うのであれば、ランクCにいたします。惜しいですね、ランクBになればランクAの採取依頼も受けられるんですが……」


「ええっ!?」


 ラビスの言葉を聞いて、ふと俺は我に返る。


 そうか、ランクが上がればそれだけ幅広い依頼を受けることができて、様々な素材と出会えるというわけか!


「やっぱり、ランクBになりたくなってきました?」


「い、いえ、ランクCでお願いします」


 俺は自分に言い聞かせるように力強く言い切った。


 危ない。新たな素材という名の誘惑に負けて、前線に赴いてしまうところだった。


「そうですか。たくさんの塩漬け依頼をこなしてくれると思っていたので残念です」


 妙にランクBを勧めてくるなと思っていたら、思惑はそこにあったのか。


「とはいえ、ランクが上がったのでこれでデミオ鉱山に入ることができますね」


 耳をへにゃりとさせたラビスだが、途端に耳をピンと立てて顔を明るいものにする。


「確か街の近くにある鉱山のことですよね?」


「はい、鉱山内は落盤や有毒ガスもあり、手強い魔物を坑道内で相手するために危険でランクCの冒険者じゃないと入ることができないのですよ。でも、ランクCであり、ドラゴンすら倒せてしまうシュウさんなら問題ないですね」


 あれ? ランクCになっても危険な場所に行くのは変わらない気がする。


 でも、鉱山といえば、鉱石や宝石をたくさん採掘できる。


 モンモンハンターでも特に採掘が好きだったので、たまらないな!


「早速、シュウさんに鉱石を採掘して欲しいとクラウス様やサフィー様から指名依頼がきているのですが……」


「休ませてください」


「ですよね」


 試しに言ってみただけなのだろう。ラビスはあっさりと依頼書を引き下げた。


 というか、ランクが上がることを見越して指名依頼を頼むなんてクラウスもサフィーも気が早すぎる。情報収集能力が高すぎやしないだろうか。


「あ、でも、こちらの件についてはお早い対応をお願いしますね」


「なんですかこれは?」


 ラビスが依頼書とは別に出してきたものは一通の手紙。とても高品質な紙で作られ、裏には紋章が付いていた。


 差出人を見ると、カルロイド=エノープスと書かれてある。


「領主であるカルロイド様からの招待状です。レッドドラゴンの素材についていくつか買い取りたいそうなので」


 ようやく指名依頼から解放されると思ったら、今度は領主からの呼び出しだった。


 俺はのんびり素材採取生活をおくりたいだけなのにな……。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【後書き編集】


これにて一章は終了です。ここまで読んだいただきありがとうございました。




『一章お疲れ!』


『二章に期待!』


『更新頑張れ!』




と思われた方は、評価をお願いします!


今後も更新を続けるためのモチベーションになりますので!




次のお話も頑張って書きます。

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