第41話 レッドドラゴン討伐

 レッドドラゴンと戦うことになってしまった俺とルミア。


 ああ、まさか異世界にやってきて本当にモンモンハンターみたいなことをすることになるとは。俺はのんびり素材を採取するだけでよかったのだが、魔物のいる世界にそのような文句は通じない。


 目の前ではレッドドラゴンが唸り声を上げながら、こちらに近付いてくる。


 俺は剣術なんてからっきしの戦闘の素人。神様から貰った魔力を利用して魔法を放つことしかできない。


 ルミアは俺なんかよりも戦闘の心得があるようだが、さすがにレッドドラゴンを相手に一人で戦うのはキツイ。


 ならば、相手を近づけさせないように魔法を放つのみ。


「フリーズ!」


 幸いと言いたくはないが、周囲はレッドドラゴンによって焼き払われている。


 素材の被害を考える必要はないので、手加減する必要もなく初級の氷魔法を放つ。


 すると、ドラゴンは同時にブレスを発射した。


 空間を舐めるように爆風が迫り、超低温と超高温がぶつかり合う。


 結果として押し勝ったのは俺の氷魔法。


 蒸気を噴き上げながらもフリーズは相手を氷漬けにしようと迫る。


 レッドドラゴンは自らの炎が押し負けることに気付いたのか、ブレスを止めて体を勢いよく横回転。強靭な鱗に包まれた尻尾が鞭のようにしなって、フリーズを振り払った。


 神様、ドラゴンでものんびり倒せるような強さをくれたんじゃないのか? 


 いや、調査や鑑定でさえも試行錯誤を重ねてようやく使いこなせるようになってきたのだ。


 ロクに練習もしていない魔法を使いこなせていないのは当然だ。


 俺は採取に夢中になるばかりで、魔法の方は魔石調査で戦闘を避けることができるからとおざなりだった。


 自分がロクに向き合って、努力もしていないのに、文句を言うのはお門違い。


 これは自分が魔法の鍛錬をサボったツケなのだ。


 だったら、今の自分にできる方法で乗り切るしかない。


 レッドドラゴンはフリーズを粉砕したが、尻尾は半ばまで氷結している。ということは、俺の魔法が効いていないわけではない。


 レッドドラゴンは尻尾の氷を振り払うと、ギロリと視線を向けて突進してきた。


 殺気が迫ってくる。真正面から俺を押しつぶさんとばかりに。


 フリーズで足を凍らせて止めるか、茂みの方に逃げ込むか迷っていると、迫りくるレッドドラゴンの顔にフラスコ瓶が投げ込まれた。


 その瞬間、レッドドラゴンの顔面で爆発が起こる。


 ルミアの投げた爆発ポーションだ。


 眼前での爆発にレッドドラゴンはたたらを踏んだ。先程の音光球よりも威力は劣るが、これまた強烈なアイテムだ。


 レッドドラゴンの鱗にはさほど傷はついていないが、並の魔物であれば一撃で消し飛んでいる。


 意外と物騒なアイテムをお持ちだ。一体、どんな素材が使われているのか気になるが、今は尋ねている場合ではない。


 レッドドラゴンが隙を見せている間に、俺は側面に回り込みながらフリーズを発動。


 レッドドラゴンの足を止めるべく、地面を這うように向かっていく。


 が、レッドドラゴンは右足で地面を粉砕させることで、魔法の軌道を強引にずらした。


「なんて力技だ……」


 足で地面を蹴りつけるだけで、地面を砕くことができるなんて生物としての基本スペックが違い過ぎる。それでいて人間のように柔軟な対処もしてくる。


 これが危険度Aと評価される魔物か。


 フリーズの一部が右足に纏わりついているが致命傷にはなっていない模様。


 膨大な魔力があって威力の上がっているフリーズでも押し切ることは難しい。せめて中級魔法でも覚えていれば違ったのかもしれない。


 あの強靭な鱗が俺の魔法を軽減する。


 なにか有効な一撃はないのか? レッドドラゴンの弱点なんかが知りたい。


 こんな時に役に立つのは鑑定先生だ。


「鑑定!」


 俺はレッドドラゴンの有効的な一撃になりえる情報を欲して、即座に鑑定スキルを発動。




【レッドドラゴン 危険度A】

 レッドドラゴンは熱や魔法攻撃を軽減する強靭な鱗に包まれている。

 が、逆鱗という首の後ろにある鱗は非常に脆い。



「おっ、逆鱗?」


 鑑定先生によると首の後ろにある逆鱗という鱗は脆いらしい。


 つまり、そこに一撃を加えればレッドドラゴンに致命傷を与えられる可能性がある。


 俺は必死にレッドドラゴンの首の後ろを観察してみる。


 すると、端正に揃った鱗の中で、少しだけ形の変わった大きな鱗が見えた。


 もしかして、あれが逆鱗という奴か?


「逆鱗、調査!」


 確かな確証が欲しくて俺は視認した逆鱗で検索して調査を発動。


 すると、当たりをつけていた大きな鱗が金色に輝いていた。


 あそこを狙えばレッドドラゴンも倒れるかもしれない。


「アイスピラーっ!」


 俺は魔法書にあった初級魔法を使う。


 鋭く巨大な氷柱をイメージして、レッドドラゴンの逆鱗めがけて放つ。


 レッドドラゴンは逆鱗への一撃を嫌ってか、機敏に首を動かして魔法を避けた。


 続けて魔法を放つも、逆鱗への一撃は避けられてしまう。


 くそ、やっぱり自分の弱点だけあって警戒は強いか。


「シュウさん、なにか狙いがあるんですか?」


「レッドドラゴンの首の後ろには逆鱗っていう脆い部分があるんです。だから、そこに攻撃を入れてやりたいんですけど……」


 肝心の攻撃が当たらないんだよな。


「でしたら、いい方法があります!」


 ルミアはこちらに近付いて、いい方法とやらを囁く。


 それは奇しくもモンモンハンターなどで自分が幾度となく使った方法だった。


「まずはドラゴンを空に飛ばせましょう!」


 ルミアがレッドドラゴンに向けて、玉を投げる。


 レッドドラゴンはまた音光球がくると警戒して翼で視界を覆ってみせたが、音と光の爆発はこない。


 しかし、次の瞬間強烈な異臭が漂い始めた。


 呼吸をするだけで、猛烈な匂いが鼻孔を突き抜ける。


「な、なんですかこれは!?」


「匂い玉です。スガラスの強烈な匂い袋を混ぜ込んでいるんです」


 匂いのこない風上に位置取っているルミアも鼻を押さえている。あの位置にいても匂うらしい。


 離れていても強烈なんだ。異臭の真っ只中にいる相手は堪ったものじゃないだろう。


 めちゃくちゃ、臭いけど我慢だ。


 レッドドラゴンが匂いで苦しんでいる今がチャンス。


「フリーズ!」


 レッドドラゴンの動きを止めようと、フリーズを発動。


 匂いに苦しむレッドドラゴンはフリーズに両足を絡めとられた。


 そのまま氷が全身を凍らせようと思うと、レッドドラゴンは自らの両足にブレスをかけて氷を溶かす。


 そして、空に舞い上がった。


 レッドドラゴンの瞳に強い怒りの色が浮かび上がり、ルミアを射抜いた。


「今です、ルミアさん!」


「音光球、いきます!」


 ルミアがそう叫んだ瞬間、俺は目を閉じて両耳を塞いだ。


 その瞬間、閃光と轟音が響き渡った。


 ビリビリと空気が震える中、巨大な何かが地面に落ちるような振動が感じられた。


 恐らく、上空でもろに音光球を食らったレッドドラゴンが地上に落ちたのだろう。


 おそるおそる目を開けると、レッドドラゴンが無様に地面でもがいていた。


 モンモンハンターでも幾度となくやった手法が成功した。


 今のレッドドラゴンはロクに視界がない上に聴覚もないので絶好のチャンス。


 俺は急いでアイスピラーを発動させる。


 まだまだ練習が足りないせいか、生成する速度も遅いし、無駄な魔力が多い。


 だけど、これが今の俺にできる精一杯。


 殺傷力を高めたアイスピラーをレッドドラゴンの逆鱗に向けて放つ。


 すると、俺の魔法はレッドドラゴンの逆鱗を見事に突き破り、喉を貫通した。


 逆鱗を貫通させられたレッドドラゴンは苦悶の声を上げた後に、力無く突っ伏した。


 しばらく見守ってみるが動くことはない。


「レッドドラゴンの討伐を達成しましたーーなーんてな」


「シュウさーん!」


 思わずモンモンハンター風に呟いてみると、ルミアが感激の声を上げて飛び込んできた。


「すごいです、シュウさん! ドラゴンを倒してしまうなんて!」


「いえ、ルミアさんが手伝ってくれたお陰ですよ」


 俺一人ではレッドドラゴンとまともに戦うことはできなかった。ルミアが的確にアイテムを使って援護してくれたお陰だ。


「いえ、私なんて後ろからアイテムを投げることしか――」


 などと感動の言葉を交わしていた俺たちだが、それをぶち壊しにする異臭が漂っている。


「……ちょっと風魔法で匂いを吹き飛ばしてみます」


「はい、是非ともお願いします」


 ルミアの投げた匂い玉は、とてもとても臭かった。





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