第27話 キキョウ探し

 クラウスから指名依頼を受けた翌日。


 俺は早速依頼の品を採取するべく東の森に来ていた。


 いつものように魔石を使った調査で魔物を感知し、魔物と遭遇しないように安全なルートを進む。


 クラウスが教えてくれた情報によると、ヤマドコロ、キキョウ、クルツの実がこの森にあるらしい。


 素材について記してあるメモ用紙を取り出して、情報の確認だ。


 ヤマドコロという素材は根類であり地中にある。図鑑のイラストを見る限りではフォークのように枝分かれしたゴボウのような感じだ。


 真っ直ぐに根が生えているわけではないので、丁寧に土を掘り返してやってから抜く必要があるそう。


 水っ気を含んだ土に自生しているらしく、東の森の中であれば湖の近くに生えているらしい。


 キキョウは、コスモスのような花びらをした水色の花。


 普通は四枚の花びららしいのだが、稀に三枚花のものもある。


 そして、どうしてか三枚花の方が薬効が高いそうだ。


 ミントの葉のように広域にわたって自生しているので、見つけるのはそう難しくはない。


 ただ三枚花の方は、そうはいかないようだ。


 クラウスによると、日当たりのいいところの方が三枚花の多い傾向があるらしい。


 そして、最後のクルツの実。


 紫の小さな丸っこい木の実だが、魔力を注ぐことで大きく膨らむのだとか。


 結構な量の魔力を吸収することができ、人間の顔ほど膨らむことがあるらしい。


 こちらは日陰のところに自生しており、魔物の多い奥まったところにあるようだ。


 以上の情報から、まずは比較的発見のしやすいキキョウを見つけ、それから具体的な場所のわかっている湖の傍でヤマドコロ。そして、最後に奥地でクルツの実を採取すればいいだろう。


 採取の方針を決めたところで、俺はキキョウを見つけるべく行動を開始する。


「キキョウ、調査」


 図鑑でイラストを見たので、もしかしたら素材名で検索ができるのでないか。


 そんな期待をしながら調査をしてみたが、俺の視界には何一つ素材は表示されなかった。


 それでもめげずに調査範囲から出ては、素材名で検索しての調査を繰り返す。


 しかし、それでも結果は同じでキキョウが見つかることはなかった。


 やはり、実際にこの目で素材を確認しなければダメなのだろう。ただ、調査範囲に存在しないだけかもしれないが、もし推測通りなら見つけることは不可能だ。


 検索で探すことは諦めて、普通の調査を発動してみる。


 すると、視界の中で紫、青、赤といった色合いをした素材が視界に表示された。


 ああ、たくさんの見知らぬ素材が目の前に……っ! まるで宝の山を目にしたようなワクワク感に包まれ、衝動のままに全てを鑑定して採取して回りたいが我慢だ。


 今日は指名依頼の素材を採取しにきたのだからな。


 素材の誘惑を振り切るかのように、俺は頭をブンブンと振った。


 表示されている素材の中で着目すべきは、コスモスのような形をした花だ。


 図鑑で見たイラストと表示されるシルエットをひとつひとつ見比べてみると、茂みの向こうにそれらしき紫色の花があった。


 そこに近付いてみると、木々の間にたくさんの水色の花が咲いている。



【キキョウ】

 広域で自生している花。洗って日干しにして、煎じて飲めば胃痛や食欲増進に効く。

 四枚花と三枚花のものがあり、三枚花の方が薬効成分が強く、早く効き目が表れる。



 鑑定してみると、あっさりと見つかった。


 この場所は、先程検索して調査を行った圏内だ。それに反応しなかったということは、やはり素材を実際


に目にしないと検索はできないということだろう。


 イラストなどで検索できるようになれば、図鑑を見ただけで検索し放題かと思ったのに残念。


 まあ、これはこれで自分の足で見つける楽しみがあるということ。何も悲観することはない。


「さて、このたくさん自生している中から三枚花だけを見つければ――おお?」


 三枚花のものを見つけようと眺めていると、紫色で表示されている中に青色の素材が見えた。他の素材が混ざっているのかと思いきや、そうでもない。


 思わず手に取ってみると、それは三枚花をしたキキョウだった。


「……ま、まさか、こんなにもすぐに見つけてしまうとは」


 稀に存在する三枚花のキキョウ。無数にある中から探すという行為は、幼き頃にやっていた四つ葉のクローバー集めのようで密かに楽しみにしていたのだ。


 それがこんなにも簡単に見つかってしまうなんて……。


 これじゃあ、神経衰弱を自分だけ表向きでやっているようなもの。


 ……何だろう。自分の中にある少年の心が一気に冷めていくような感覚だった。


「今のなし! 調査を切って、自分の目で見つけてみよう!」


 両手で自分の目を覆って、調査スキルをやめるように念じる。


 そして、おそるおそる目を開けると、視界には何の色もついていない普通の光景が広がっていた。


「よしよし! これで自分の目で探せるぞ!」


 調査スキルを解除したことでようやくフェアなゲームになった。


 それによりテンションを取り戻した俺は三枚花のキキョウを探していく。


「四枚花、四枚花、四枚花、四枚花……あっ、三枚花っ! じゃなくて、花びらが千切れているだけか……」


 無数にある中から三枚花のものを見つけるのは難しい。


 花が隠れていただけで実は四枚花だったり、千切れていただけだったり。花びらの枚数だけで一喜一憂するなんて馬鹿らしいかもしれない。


 だけど、四つん這いになりながら夢中で一つの花を確認していくのは、幼き頃を彷彿とさせて懐かしく楽しかった。


「あった! 三枚花だ!」


 そうやって、延々と花びらの枚数を確認していくと、遂に三枚花のものを見つけた。


 実は花びらが重なっていたり、小さな花びらが生えていたりしない、純粋な三枚花。


 たった一つを見つけるのに小一時間くらい経過した気がする。


 だけど、自分の目で見つけられたので達成感がとても強く感じられた。


「さて、そろそろお仕事に戻るか」


 このペースで探していたらキキョウを見つけるだけで、半日が経過しそうだ。


 普通の依頼であればのんびりと自力で採取するところであるが、今は指名依頼だからな。


 せっかちなクラウスに文句を言われないように、早めに終わらせることにしよう。


「調査」


 調査スキルを発動させると多くのキキョウが紫色をしてる中、ポツリポツリと青色で表示されているものがある。


 それを採取してみると、やはり三枚花だ。


 自力でやると三枚花を一つ見つけるのに小一時間かかったが、調査を駆使すれば十秒とかからずに五本の三枚花を採取することができた。


 こうやって比べてみると、やっぱり調査って反則的だよね。


 俺は改めて調査の性能に感謝するのであった。


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