第14話 第二の故郷
「よっ、シュウ! 満月花は見つかったか?」
空が茜色に染まる頃。村に戻ると、ローランが行きと同じように入り口にいた。
「いいえ、見つかりませんでした」
昼食を食べて満月花の捜索を再開した俺であるが、その日は結局見つけることができなかったのである。
調査という便利なユニークスキルがあるだけに、まったく見つけられなかったのは少しショックだった。
「まあ、そういう日もあるだろ。さっさと飯を食って寝て、また明日に探せばいい!」
ガッカリしている俺の背中を叩いて笑うローラン。
「そうですね。ありがとうございます」
そうだ。まだ時間は残っている。明日もまた探せばいいんだ。
今までが順調に採れ過ぎていただけだ。目的のものが採れない日だってある。
採れる楽しみも、採れないちょっとした悲しみもあるのが素材採取なのだから。
とはいえ、お世話になったポダンさんのためにも採ってきてあげたい。
明日は今日よりも早く起きて、気合いを入れて探すことにしよう。
俺がそう決心をしていると、ローランが身体をグッと伸ばす。
「さて、シュウも帰ってきたことだし、俺も宿に戻るとするか」
「もしかして、俺が帰ってくるのを待っててくれたんですか?」
「べ、別にずっとお前を待っていたわけじゃねえよ! ただ、大事な宿の客が帰ってこねえと落ち着かねえだけだかんな!?」
まさかのローランはツンデレ? おっさんといえるほど老けてはないけど、大人の男のツンデレに需要はあるのだろうか?
とはいえ、こちらを気遣ってくれている優しさは十分に伝わってきて、心が温かくなった。
「昨日はホワイトスネークの皮が採れたらしいが、今日は何も採れなかったのか?」
「目的の満月花は採れませんでしたけど、他の素材はいくつか途中で採取しましたよ?」
「おっ、今日はどんなものが採れたんだ?」
「ホワイトスネークの皮が三つに、月光草四つ、アカキノコやムラサキノコ――」
「おいおい、ちょっと待て! ホワイトスネークの皮三つに月光草が四つだと!? 滅茶苦茶稀少品を採ってきてるじゃねえか!?」
「いや、でも目的は満月花なので、そっちはついでです」
「そんなついでで稀少品がポンポン採れて堪るかよ! 収穫ゼロみたいな顔してるから人が慰めてやったのにこれか! ……お前、実は満月花なんかよりもそっちをメインで探してたんだろ!」
「そんなことないですよ! 本当に偶然見つけただけで俺は真面目に満月花を探してました! というか、頭グリグリしないでくださいよ、痛いです!」
俺に収穫があったことが気にくわないのか、ローランが拳で頭をグリグリしてくる。
ごつくて大きな拳なので、グリグリされるとかなり痛い。
ローランはひとしきりやると満足したのか、グリグリするのをやめた。
「にしても、そんだけあればいくらになるんだ?」
「ホワイトスネークと月光草だけで金貨三十枚になりますね」
「き、金貨三十枚。そんな大金をついでで稼いじまうって……実はお前すごい奴なんじゃないか?」
「そんなことはないですよ」
すごいのは神様の与えてくれたスキルであって俺ではない。まだまだ使いこなせてもいないのだし。
「謙遜するなよ。こんな稀少品を次々と採取してくるんだ。素人の俺でも腕がいいことはわかる。でも、これだけの腕前だと村には収まらないだろうな」
ローランの言葉を真に受けているわけではないが、俺はもう少し大きな街に向かうつもりだ。
「しばらくしたら、王都の方に行くんだろう?」
「ええ、色々な場所を見て回りながら、素材を採取したいので」
ここでの暮らしも十分素晴らしいのだが、俺は色々な素材を採取したいからな。
一か所でずっと留まるつもりはない。それは大きな街だろうと同じだ。
「そっか。いつ向かうのかは知らねえが、それまではうちでゆっくりしていけよ」
「ええ、ありがとうございます」
異世界ではじめてたどり着いたフェルミ村。
ローランやアンナさん、ニコ、ポダンさんはとても温かく俺を迎えてくれた。
もはや、俺の故郷のような場所。
たとえ、世界中を旅して素材に夢中になっても、ここにだけは絶対に戻ってこよう。
■
「ふぅー、お腹いっぱいだー」
夕食を食べた俺は部屋のベッドで横になった。
すると、お腹が膨れた満足感と一日中動き回っていた疲労感が一気に押し寄せてきた。
このまま眠くなるまでボーっとしていたいところであるが、俺にはやるべきことがある。
魔力制御だ。勿論、過剰な火力を発揮してしまう初級魔法の練習ではない。
調査で運用する魔力の制御だ。
調査を発動する時に、俺は魔力を波紋のように広げて使用している。魔力の波に素材がヒットすれば、俺の視界に表示される仕組みだ。
鑑定先生が教えてくれた通り、魔力の波動を遠くまで広げることができると、一度で広範囲を探索することができる。
つまり、より大きな波動を放つことができれば、もっと効率的に素材を探すことができるのだ。
そのためには繰り返し使用して、大きくしていくしかない。
「調査!」
調査を発動して、魔力の波動を飛ばしていく。
すると、宿の近くに生えている素材や民家の中にあるであろう素材が映し出された。
「家の中の物でも表示されるのか。誰が何を持っているかまで見えてしまうんだな」
何だか人の家の物を覗き見しているみたいで申し訳なくなってしまう。が、別に悪用するわけでもないので許してもらおう。
今見えている範囲は大体半径五十メートル。できるならば、もっと遠くまで飛ばしたい。
ただ波紋をイメージしているだけじゃダメだ。もっと遠くに広がるように。
魔力を溜めて溜めて、一気に解放させるように放つ。
「調査っ!」
すると、先程よりも魔力が勢いよく遠くまで広がった気がした。
先ほどは範囲になかった民家の素材までも見える。
「いいぞ。このまま練習してもっと遠くまで探せるようにしよう」
確かな感覚を忘れないうちに、俺は魔力を練り上げて調査を発動させ続けた。
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