第42話 亜人誘拐事件

死神と知り合い、娘を蘇らせる計画の針が一つ進んだ頃。


ついに恐れていたことが起き始めていた。


空気中の魔力の減少は止まることがなく、範囲を広げ、ラニャのところにも依頼や相談がひっきりなしだった。



「あー……」

「やっと……終わったな……」

「はぃ~」


ラニャ・リリー・サロはくたびれてソファーに座る。


「師匠達大丈夫?なんか持ってくる?」

「あー……美女とおっぱいが欲しい……と言いたいが、流石に寝たい……」

「うーんわたくしも、このまま眠りたいです~もしくは魔力プリーズ……」

「はぁ……疲れてるけど、テトラが待ってくるから俺は帰る……ぞ……」


テトラとはリリーの元で家政婦をしている両性具有の亜人だ。見た目は大人しめ女の子だが性別は両性である。


「あーそうじゃなー、嫁の起きとるうちに帰ったほうがいいぞー」

「ああ、正直テトラは癒しだよ……」

「あらあら、ラブラブで…す……はっ!?寝てました……?」

「ほら、サロはもう霊薬飲んで寝た方がいいよ。」

「そうしま~す。おやすみなさいませ~皆様~」

サロはパタパタと黒い翼を動かして部屋へ向かう。

「……zzzz」

「師匠、風邪引くよー」

「だっこしてー」

「しょうがないなぁ~……」

「じゃ、ルー。俺は帰るから二人によろしく。」

「ああ、はい!お疲れさまでしたリリーさん!おやすみなさい!」

「おやすみ。」


ガチャッン


リリーは帰路に着く。

「あー疲れた……」


リリーは女エルフだが、あまり自分の性別について考えた事はない。


女だから男らしいのは変だとか、女だから女らしくするべきとか、そういうのはどうでもいい。むしろそういう固定的な考え方は嫌いだった。そういった意味でも、共に暮らすテトラに対しては一個人として見ている。


自分にはないものをたくさん持つテトラに対しては正直リリーも好意を持っている。


つまり、知らぬ間に2人は両想いなのだが、本人達は気づいていない。


「(あー早くテトラに会いたい)」


そんなことを考えて森をすすみ明かりのつく家についた。


「ただいまー」

「……」


明かりはなぜか二階だけついている。

「……?」


ろうそくに火をつける。


すると飛び込んできたのは


「!?」


皿や食事が散乱した一階だった。


「なんだ……これ……テトラ……?皆!?」


急いで一階を探し回るが誰もいない。

この家に弟妹は四人もいるのに誰も見つけられない。残るは二階。


ガチャッ

「テトラ!?カラム!?皆!?」


明かりはついてるが誰もいない。

しかし、声がした。


『姉ちゃん!?』


「カラム!?ポロム!?みんないるのか!?」


ガチャッ


弟妹たちはクローゼットから出てきた。

まるで隠れていたようだった。


「姉ちゃーん!!」


四人の弟妹たちは泣きながら抱きついてきた。

「うわーん!!」

「カラム!何があったんだ!」

「わかんないよー!突然やってきたんだ!」

「だれがだ!」

「鎧を来た人たちが3人くらい……それで、テトラ姉ちゃんが……」

「テトラはどうしたんだ!?」

「実は……」




~数時間前~


「テトラ姉ちゃん!ご飯まだー?」

「はいは~い、もうちょっとだからね~」

「リリー姉は今日も遅いのかな~?」

「そうみたいだね~さっき電話があって……」

「忙しいんだねー」

「テトラ姉ちゃん!ポロムが殴った~!」

「パラムが、先でしょー!」

「2人とも喧嘩しないで~」

弟妹たちはテトラにかなり懐いている。本人の人の良さに子供達もすぐに気づいているのだ。

「うー……」

「ほら?もうご飯できるから運んで?」

「「はーい」」

「よしよし。皆いい子だね~」


コンコン


「?誰かな?」

「テトラ姉ちゃーんなんか外に変な人たち来てるよ?」

「え?」

「なんかみんな鎧着てる」


「……」


テトラはリリーからラニャの話を間接的に聞いていたのもあったが、なんとなく嫌な予感がした。


「皆、二階のクローゼットに隠れてて」

「なになにー?」「誰がきたのー?」「ねーねー?」


「お願いだから。皆。」


「……テトラ姉の言うこときこう。お前ら。じゃないとリリー姉に怒られるし、テトラ姉に嫌われるぞ。」

「カラム……ありがとう。よろしくね。」

カラムはこの中では一番上なので皆を先導して二階へ向かった。



それを見送り、テトラは意を決して扉へ向かう。


ガチャッ


「はい。」

開けたところには鎧の大きな騎士が3人。


足がすくむ

テトラは争いごとには全く耐性がない平和主義な亜人だった。


「なにか……用ですか……」


「……どうだ。」

「黒ですね。神秘側です。」


「!?」


ガチャン!!!

その言葉の意味をなんとなく察したテトラは扉を勢いよく閉めた。が。


ギリギリギリギリ……

ガン!!!


強引にこじ開けられてしまう


「きゃっ!?」


バタン!

床に倒れるテトラ。


「抵抗するなら、始末しろとの命だ。」


キィィイン……


銀色の剣が月夜に光る


「な、なにが目的なんですか!?」

「我々は大儀により、神秘側の者達をこの世界から消すために動いている。」

「な……」

「選ばせてやる。人質として捕らえられるか、この家の奴らと共にここで死ぬか。選べ。」

「……!!」

こんなのは取引ではない。

選ばせてなどもらえていない交渉だった。


「……ここの子達には手を出さないでください。」

「人質……まあ人ではないから捕虜か。捕虜になるんだな?」


「はい……。」


「来い」


騎士がぐっとテトラの細腕を掴む。


「痛っ……!離してください!逃げませんから!」

「うるさい、大人しくしろ!」


パァン!


と平手打ちを、され


ガァン!


ガシャーン!


テトラは吹っ飛んで机にぶつかり並べていた夕飯の一部が散乱した。


「ひぅ……」

「おいおい、殺すなよ?捕虜なんだから」

「わかってるよ。チッ……気持ち悪い人外め……」


「……」


テトラは気を失い騎士はテトラを馬車の荷台に乗せ、家を離れた。



これが数時間前の顛末。





・・・・



「テトラが!?」

「多分、連れてかれて……僕たちは何もできなくて……うっ……うぅっ」


「……おまえ達は悪くない。なんとかする。少し、電話してくるから、弟妹達の分の飯をよそって食べられるか?カラム。」


「うん。片付けもするから。いい子にするから!テトラ姉を絶対連れ帰って……!」


「ああ。大丈夫だ。」


リリーは帰宅早々電話をする。

もちろんラニャのところだ。



事態は急展開を迎えた。







続くのじゃ!

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