第21話 両性具有の亜人×女エルフ
先日、両性具有の亜人・テトラが訪ねきて、しばらく後のある日。
サロとルーは買い物へ。
ラニャは依頼人を家で待っている。
リリーは工房で作業中。
そこに
ジジジジジジ
ジジジジジジ
電話が鳴る。
ガチャッ
「はい、こちらモーニング☆スターじゃが。」
『あ……こ……こんにちは……。僕、この前の、テトラです……。ゴホゴホッ』
「おお、テトラか。どうしたぇ?」
『すいません。実は……風邪を引いてしまったらしくて……ゴホゴホッ』
「えっ、亜人って風邪ひくの……?」
『いえ、初めてで……。割とキツくて……助けてくれるの、ラニャさんしか……思い浮かばなくて……グズッ』
「あーわかった。わかったから泣くでない。すまんがわしはこれから依頼の仕事があるし家には今暇な奴がー……」
いや、いる。
一人、うってつけの奴が。
『ダメそうですか……?』
「いや、おったわ。一人行けそうなやつが。」
『ホントですか!?ゴホッ!ゴホゴホッ』
「ホントじゃから、興奮するな。しばらく待っとれ。」
『わかりました。本当にごめんなさい。ありがとう、ラニャさん。よろしくお願いします。』
「ああ。大人しくしておるんじゃぞー」
ガチャ
ツーツーツー
ラニャは工房にいるリリーの元へ。
何を隠そうあのテトラはリリーに一目惚れしている。
「リリー?ちょっとよいか?」
「ん?なんだ?」
「店の初仕事じゃ!」
「お!なんだ!何すればいい?」
食い気味にくるリリー。
「待て待て!顔がいいのでドキドキするわい……」
「で、仕事内容は?」
・・・・
ラニャはテトラの家の住所をわたし、リリーにお遣いをさせて向かわせた。
「初仕事が風邪人の看病とは……。まぁ、慣れてはいるが……。」
普通、神秘側は人間的な病気にはならない。
しかし最近ではエルフも風邪を引くようになった。
原因はわからないが、亜人にもその影響は出ているようだ。
「ここか。」
普通の集合住宅だ。
指定された部屋の所へいく。
なぜか、その部屋のドアの前には中年の男が立っている。
「……」
「……?あんた、この家の人の知り合い?」
「ん?ああ。一応知り合い。」
「悪いんだが、家賃払うように言ってくれるかい?」
どうやらここの大家らしい。
「あ、ああ。いっとくよ。」
「よろしく。早く立ち退いてほしいねぇ~。」
男はそう言って去っていった。
さて。
コンコン
「入るぞー。」
「はーい。」
挨拶もそのままに奥へ進む。
テトラはベッドから出られないようだ。
「あっ、どちら様ですか……!?」
「よう。この前ぶりだな、テトラ?だっけ?」
ふらふらと立ち上がるテトラ
「あっ、えっ、ああどうしよう!すごい散らかって、きゃあ!?」
テトラは大きなぬいぐるみで転びそうになり「おっと」
リリーが見事にキャッチ。
「大丈夫か?病人なんだから休んでろよ?」
「はっはい……(カッコいい……)」
「熱はあるのか?」
リリーは天然イケメンムーブでおでこを合わせる!
「!!」
テトラに大ダメージ!!
「んー、熱いな。」
「は、はいぃぃぃ……」
「とりあえず横になれ。」
リリーはタオルを濡らしてテトラの頭にのせる。
「気持ちいい……。」
「身体中だるいだろ?これじゃ動くのも大変だからな。」
「よくわかりますね」
「弟妹たちが風邪ひくこともあるからな。」
「ご弟妹いるんですね。もしかしてリリーさん、お姉ちゃんですか?」
「ああ。5人弟妹の一番上だ。」
「わぁーすごいなぁ。」
「テトラは弟妹は?」
「いません。一人っ子です。」
「そうか。さて、少し寝てろ。その間に飯作るからさ。」
「すいません。」
「台所、借りるからな?」
「はい。」
リリーは行きに買った食材でお粥を作る。
風邪にはりんごとお粥。定番らしい。
コンコンコンコンコンコン
グツグツグツグツ
シャー
軽快な音が響く。
「これで、後は煮込むだけか。」
リリーは家長なので、一通りの家事はできる。苦手なことは特にない。
周りを見渡すリリー。
結構散らかっている。
「……掃除でもするか。」
リリーは煮込む間に片付けを始めた。
・・・・
「テトラ?」
「んー……はいー?」
「起きれるか?お粥、できたから。」
卵ベースのお粥から湯気がでている。
「うわぁーおいしそうですー!」
「ふふ。ほらっ」
リリーはテトラの上体を起こさせる。
「あっ、汗で濡れてますよ!?」
「あー先に着替えか。着替えはどこにある?」
「えっ、あっ、えっと……」
恥ずかしそうに考え込むテトラ。
「恥ずかしいなら着替えるときは外すから大丈夫だぞ?」
「あっそうじゃなくて、すいません……。そこの衣装棚です。」
「了解。」
リリーは衣装棚をあける。
可愛らしいパジャマがいくつか畳んである。
「この辺か?テトラ?こういうのはどこで買うのか教えてもらいたいな。」
「え?リリーさん着るんですか?」
「いや、俺じゃなくて妹たちに着せたくてさ。」
「ああ!じゃあ今度教えますね。」
「ありがとう。脱げるか?」
「あっ……はい。」
シュルルル
テトラは素肌をさらす。
細い身体と、キャミソール越しにある小さい胸の凹凸。
上半身は完全に女の子の身体だ。
「ちょっと拭くからな?」
「あっ……ははっ。くすぐったい。」
「こら、動くなテトラ。」
「ふふ。だって、くすぐったいです。」
「こんな、もんかな。よし、ここから手を出して」
パジャマを着せてもらうテトラ。
「今度は左腕出して、はい。完了。」
「ありがとうこざいます。本当にお姉ちゃんみたい。」
「おいおい、さすがに5人目の弟妹は勘弁な?」
「うふふ。」
「ははは。」
自然と仲良くなっていく2人。
「でも、今日はなんでリリーさんがきてくれたんですか?」
「ん?ああ。ついこの前からラニャの助手として仕事を初めてさ。その最初の任務ってわけ。」
「そういうことだったんですね~。」
「あいつはいい奴だよな。俺たち神秘の奴らは助け合いが大事なんだとか。」
「助け合い?」
「俺たちは、わかるとは思うが、滅びに向かってる。」
「……はい。」
滅びにむかう。
なんとなくわかっていたけど口に出すテトラには勇気はなかった。だから、堂々と口に出せるリリーをすごいと思った。
「ラニャはその滅びを緩やかなものにすることも並行してやってくんだってさ。」
「滅びを……緩やかに……」
「家族や、愛する人、友。全く血のつながらない誰かとか。そういう人と助け合いながらゆっくり人間の世界から消えていく。それが『緩やかな滅び』らしい。」
「なんにせよ、俺もラニャの助けでなんとか定まった額の金を手に入れられそうだ。」
「……お金が必要なんですか?」
「いや、普通に生活費がさ。弟妹たち食べ盛りだからさ。金ってあんまり好きじゃないんだけど共存して行くには必要だって。」
「そう、ですよね……」
テトラも自分の家賃問題について考える。
まずい、そろそろ追い出される。
「顔色悪いけど大丈夫か?」
「ああいえ!なんでもないです。でも、リリーさんがお仕事の間はご弟妹はどうしてるんですか?」
「長男と次女で何とかしてもらってるが、まだ幼いから正直、ヒヤヒヤしてる。」
「それは、あんまりよくないですね……僕だったら仕事できないです……」
「そうだよな……困った……」
本当に困っているようにみえるリリー。
なんとかしてあげたい。
テトラはリリーの為にできることを考える。
ラニャのアドバイスを思い出す。
勇気をもって、素直な言葉を伝える。
「(助け合いか……よし!)」
「あ、あの!リリーさん!」
「うおっ!?なんだ?急に大声だして……」
「ぼ、ぼくがお家のお手伝いをするって言うのはど、どうですか!?」
「?どういうことだ?」
「僕を住み込みの家政婦として、リリーさんが僕を雇うっていうのは!どうですか!?」
「でも、この家は?……あ。」
リリーは入り口で大家らしき男に言われた言葉を思い出した。
「この家は、家賃滞納してて……出ていくようにも言われてるので……」
「んー……そうしてくれるとすげー助かるけど結構わんぱくだぞ?」
「が、がんばります!助け合い!ですから!」
「テトラ……ありがとな。じゃあ、お願いします。」
「いい、え!こちらこそ!ふつつかものですがどうぞ末永くよろしくお願いします(?)」
「なんだそりゃ。まるで嫁入りするみたいだな?ははは。」
「よっ、嫁入り!?」
ボシュッっと頭から湯気がでて
テトラは、再び熱が上がった。
この後、風邪が治ってテトラは無事リリーの家に住み込むことになった。滞納していた家賃はラニャに借りた。
テトラを紹介した後、弟妹たちは
「お姉ちゃんがお嫁さん連れてきた!!」
とはしゃいでいたらしい。
ー数日後ー
モーニング☆スターにて
「なるほどのぅ。初仕事は何だか面白い感じになってよかったわい。」
「テトラには本当に助かってるよ。安心してここにこれるし。」
「じゃが子供の遊び相手としてはひ弱すぎんかい?」
「まぁ、確かにな。」
「仕方ない。家の暇してる人狼を送るか」
「ルーを?それはいいかもな。」
「たまーにじゃぞ?毎日はルーは渡さんからの?可愛い弟子じゃから」
「師匠らしいことはしてないような……」
「人生の師匠なんじゃ。わしは。」
「よく言うぜ……」
こうして、女エルフに一目惚れした亜人のテトラは見事に同居にまで漕ぎ着けたのであった。
ーメモー
風邪:人間特有の病気。
近年、神秘側のものでも風邪をひく。そのまま亡くなる者も出てきている。原因は不明。人間界に何かが起きている可能性がある。
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