第4話「インクに永遠に消えない魔法をかけたのは俺じゃないからな!」


「お帰りなさいませ、アルーシャ様」


「うわっ、エドワード!」


窓から自室に入るとエドワードが待ち構えていた。


紫の目が鋭く光り、俺を睨みつける。


「ハハハ、抜け出したのバレてた?」


「当然でございます」


「だよね〜!」


あっという間にエドワードに壁際に追い込まれ、壁ドンされてしまう。


「私に内緒で、私以外の寝室に侵入するなどあんまりです」


怒ってるのはそこ?


「エドワードもくればよかったのに」


「嫌です。アルーシャ様以外の寝室に入りたくありません」


眉間にしわを寄せ、ツンとそっぽを向くエドワード。


子供か!?


エドワードが目を細め俺に顔を近づける、顎くいされ上を向かされる。エドワードの美麗な顔が視界を埋め尽くし、心臓がドキドキと音を立てる。


「私はこんなにもアルーシャ様を思っているのに、私はアルーシャ様の恋の奴隷だと言うのに、なぜこのような扱いをされるのですか?」


ん? 今ちょっと過激なワードが入っていたような? 【恋の奴隷】って言ったのか?


「エドワード今の言葉【恋の奴隷】って奴、外で言ったことある?」


「それはもちろん、アルーシャ様の素晴らしさを語ったあと、私はアルーシャ様の【恋の奴隷】だと毎日のように言っております!」


俺がエドワードを奴隷扱いをしているという噂の出どころはお前か!


エドワード本人が俺の奴隷だとって言って歩いているんだ。学園中が俺がエドワードを奴隷扱いしていると勘違いしても仕方ない。


「所でアルーシャ様、素敵なほくろをお作りになられましたね」


エドワードがうっとりとした目で俺の顔を見る。


ん? ほくろ?


「左目の下と鎖骨に、なんとも絶妙なところにほくろをお作りになられて……!」


エドワードの俺を見る目がエロい。お尻がキュンとしてしまう。


もしかしてインクか? イーゴンの顔に落書きするとき、インクが跳ねて俺の顔と鎖骨についた?


「心配するな、十カ月後には消えるから」


イーゴンの部屋で魔法をかけたからな、あのインクで書いた物は十カ月は消えない。当然俺の体についたインクも十カ月は消えない。


「あと十カ月で消える!」


エドワードに両肩を掴まれた。エドワードが眉を釣り上げる、美人が怒ると怖いって本当だな。


「ごめん、長すぎた?」


「反対です、短すぎます!」


「えっ?」


「アルーシャ様の美しさを引き立てる、妖艶なほくろ、あと二十年は残さなくては! その前に身体検査です! 他のところにほくろを作ってないか余すところなく調べます!」


「あっ、ちょっ……! やめっ……!」


抵抗虚しく身体検査の名のもとに、服をするすると脱がされていく。下着や靴下まで脱がされ、新しいほくろがないか全身くまなくチェックされた。


「どうやら他に新しいほくろは出来ていないようですね」


俺の全身を視か……ん、ゴホンゴホン! 調べ尽くし満足したエドワードが口角を上げる。


「新しいほくろがないって、なんで分かるんだよ?」


体にはたくさんのほくろがあるんだ、その数と位置を全て把握しているとでもいうのか?


「当然です、アルーシャ様のことはほくろの数から位置、髪の毛の本数まで完璧に把握しておりますから」


自慢げに話すエドワードに少し引いた。髪の毛の数は平均約十万本。毎日古い毛が五十本から百本抜け、五十本から百本新しく生えてきている。その数を完璧に把握してるってことは毎日数えてるってこと? 十万本だよ!


大陸一の天才のエドワードならできそうだけど、明らかに才能の無駄遣いをしている。


「ではこの新しく出来たほくろに永遠に消えない魔法を」


「えっ、永遠……?!」


さっき二十年って言ってなかったか? この短時間で、左目の下と鎖骨のほくろにそこまで愛着が湧いたのか?? 愛着というより、執着だな。


エドワードが鎖骨のほくろに手をかざし、妖美にほほ笑む。俺がインクにかけた魔法を上書きしているのが分かる。


あのインクで書かれたもの全てに影響を与えるから、俺のほくろが永遠に消えないということは、イーゴンの顔の落書きも永遠に消えないということだ。


おそらくエドワードは俺がイーゴンに何をされたか知っている。俺に悪口を言ったイーゴンにかなり怒っているとみた。


俺は当初イーゴンが一カ月学校を休んで反省すればいいと思っていた。顔の落書きが永遠に消えないのでは、イーゴンは一生引きこもりコース決定だ。


俺が言うのもなんだがイーゴン、強く生きろよ。落書きされた顔が嫌なら、顔全体を真っ黒に塗りつぶすという手もある。


「私の前で他のものの事を考えるのはやめて下さい!」


「ふわっ!」


眉尻を上げてちょっぴり拗ねた表情をするエドワードに、床に押し倒されてしまった。


床ドンという奴だ。


エドワードのギラギラした藤色の瞳が俺を映す。


「アルーシャ様の新しいほくろの味を確かめなくては」


「うぁっ、ちょっ……と!」


エドワードは左目の下のほくろにキスを落とし、次いで鎖骨のほくろに舌を這わせた。


「私以外の男の部屋に入ったお仕置きですよ」


妖艶なほど美しくほほ笑むエドワードに、俺は苦笑いを返すことしか出来なかった。


床の上で最後までされ、その後ベッドにお姫様だっこで運ばれて朝まで寝かせてもらえなかった。


翌朝の俺の第一声は「……腰が痛い」だ。






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