第3話 「学園が張った結界を破るなんて簡単だよ」



「これでよし!」


深夜学生寮に忍び込みイーゴン・ヤーデの顔に落書きを施す。


大鍋一杯分の材料を煮詰めて、出来上がったのは掌におさまるサイズの瓶一杯分のインク。こんな量じゃ一回使ったらなくなってしまう。


形にこだわったせいか、非効率な結果になってしまった。次はもっと効率を重視しよう。


俺とエドワードは公爵家の別邸から通っているが、子爵家のイーゴンは学生寮に住んでいる。下級貴族は学生寮、上流側貴族は別荘や自宅から通うのがこの学園の習わしだ。


学生寮のセキリティ? そういえば外敵の侵入を阻む結界が張られていたかな。そんなものは俺の魔法にかかれば、子供の作った積み木の壁同然、破るのなんて造作もない。


エドワードと同じ師匠のもとで魔法を習ったんだ。エドワードが規格外の天才過ぎて霞んでいるが、俺だってそこそこ(学園が雇っている魔法の教師)よりは優秀だ。


イーゴンの額に【ブス】、左頬に【不美人】、右頬に【不細工】と書いてやった。


うっかり鼻の下にインクを落として、鼻◯そみたいになってしまったのはご愛嬌。 


手が滑って口の下にワイルドなひげを書いてしまったが、女みたいな顔が男らしくなったと思えば悪くないだろう。


寮に不法侵入までして、子供のイタズラレベルの復讐をしたと笑うなかれ。


死ぬまで魔物を呼び寄せる魔法陣や、化け物の顔に見える魔法陣を書いてもよかったんだ。これぐらいで済ませたことに感謝してほしい。


仕上げはインクが消えないように魔法をかけるだけだな。このままだと明日の朝、水で洗ったら消えちゃうからね。


期間は一カ月でいいかな。イーゴンは自分の顔を気に入ってるってに書いてあったから、落書きだらけの顔で外に出れないだろう。一カ月こいつの顔を学園で見なくてすむ。


それにしてもお腹空いたな、帰ったら夜食食べたいな、つうかもう眠い。


ぼんやりとした頭で呪文を唱えたら【一】と【十】を間違えて、魔法の効果が続く期間を【十カ月】にしてしまった。


十カ月、約一年か……これは悪ふざけで済むレベルを超えてしまったかな?


失敗は誰にでもあるよね! うん、忘れよう。イーゴンよ、強く生きてくれ!


俺は足音を立てずにイーゴンの部屋を後にした。


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