第4話 僕らのTASくん2




【RTA 解説動画part.6(最終回)】



 この場に似つかわしくない静寂が辺りを包みこんでいる。方や命を生み出すもの。方や命を見送る者。相反する二人は相対する。



『……誰であろうと私の進む道を阻む者に容赦はしない。』



 見た目は30代半ばの研究者のような風貌をした男の落ち着き払った声が辺りに響く。しかし、その目には確かに狂気の色を宿していた。いたって普通の人型エネミーに見えるが騙されてはいけない。エンディング到達で得られるトロフィー取得率はこのボスによって大きく下げられている。



 普通にストーリーを進めたならこのボスがラスボスになるだろう。トロフィー取得率はおおよそ20数%。ここで8割近いプレイヤーがこのボスを倒せずにリタイアしていることになる。油断できる相手ではないのは明白だ。



「はい、という事でラスボスの攻略をしていきます。」



 場所は研究所の最奥。エネルギーの貯蔵、循環をこなす区画になっている。端的にいって中枢部に位置する場所だ。サイネリウムのような蛍光色の光の波がガラス越しに見える。いかにめ最終決戦のためにあるような場所だ。



「第一形態は人型です。ハメによるループは難しいため攻撃パターンを覚えるのが攻略の近道です。」



 悠然とした歩みでこちらへと近づいてくる。そして水平に切り裂くように手を薙ぐ。人の腕では当たらないはずの距離、否、奴は人ではない。

 手を覆うようにして瞬時に現れた白い塊が爪のような形を作り出した。それは硬質化し鋭利な武器と化す。当たってしまえば即座に肉片へと変えてしまうだろう強烈な攻撃だ。



「攻略する上ではどれだけカウンターを決めていけるかが重要になってきます。」



 とはいえ、これまでに何度も何度も見た行動パターンであるし、ボクからしたら今更驚くような攻撃でもない。最も、初見の時には直撃して三枚おろしにされたのでいつも警戒はしている。



 このゲームにおいて回避という技術は特別な位置に存在する。というのも防ぐという概念は存在せず、スピードアクションのコンセプトとして回避とカウンターが存在しているからだ。

 空間を裂くようにして放たれた攻撃を掻い潜るようにして避け懐に潜り込む。嫌というほど見てきた。死んだ数だけ強くなった。



「このゲームのチュートリアルで説明があるように回避からのカウンターをひたすら狙っていきます!」



 武器のフォームを7へと変更させその姿を刀へと変える。居合のように構え抜刀。カウンターの一撃を加える。身体を一刀の元に切り裂く。斬撃による出血エフェクトがあたりに散らばる



「ラスボスとあって隙はあまり多くありません。なので、フォーム7の刀の居合抜刀による攻撃で一撃ずつ確実に加えていきます。」



 このゲームでは武器毎に固有のモーションアシストが設定されている。決められた構えから一定の動作をする事で設定されたモーション通りに身体が動いてくれる。

 また、あそびの幅が大きく設定されているのでフォーム切り替えからの再度フォーム7へと変更しロスを減らして再び納刀状態にするといったテクニックが使える。



 敵がジャンプ攻撃の予備動作になったのを確認したので直ぐさま居合モーションを構える。

 敵の落下攻撃にタイミングを合わせて抜刀。振り向き様に3連撃を背中に与える。着地硬直は攻撃チャンスだ。チャンスといっても時間は限られているから要注意。フォーム切り替えで素早く納刀状態へ。



『アッ___



 身体を縮めるように強張ったのを確認したので再度居合準備に。次にするのは追撃じゃない。



『________________________________________』



 咆哮と共に白い牙が身体から突き出して襲いくる。ボクに当たる角度で伸びてくる牙は全部で3本。初弾は必ず右足、腹部、右肩に向けて伸びる。身体へと当たる位置に来る牙を斬り落としていく。



 その後、連続して咆哮。



 もう一度新しく突き出された牙をフォーム2の盾へと変化させ一撃目を逸らし、二撃目を反動を利用して空中に飛び上がる事で避け、三撃目を盾で叩きつけるように起動を逸らす。

 着地と同時にフォーム3の大剣へと変化させ叩き潰すように斬りつける。強攻撃によって強制的にひるみ状態に持っていく。こうしないと2度の咆哮後にくる確定行動の掴み攻撃をされてしまってHPの8割を持っていかれてしまう。怯んだ後に高確率で追撃もトッピングされるので10割持っていかれる事がよくあるので掴み攻撃は絶対に許さないしやらせない。



 大剣はモーションの振りが大きく隙が出来てしまうので攻撃ヒット後はすぐさまフォーム変更でフォーム4の大槌に変えそのまま叩きつける。



『私が死ぬ事は許されんのだ!!』


「という事で第二形態です。近くにいると衝撃波でダメージをくらうので気をつけてください。」


『私がゆるshiはしなa i i i!!!』



 身体を肥大化させてゆき、やがてその体躯は天井へと届きうる大きさまで成長した。身体の一部一部を多種多様な形へと変化させながら蠢く様はまさしく人を超えた化け物だろう。よく、巨大化は負けフラグと言われたりするけどそんな事はない。質量はそれだけでパワーだ。一度でも殴られてしまえばボーリングのピンの気分を味わえるだろう。



「第二形態ですが、既プレイの方は知っていると思いますがあるギミックが追加されます。」



 先程の衝撃波によって戦闘エリアに一部が崩れとあるアイテムが姿を現す。直ぐさまお目当てのソレに乗り移る。



「強化外骨格型兵装、このボス戦専用の特殊ギミックです。扱うのに慣れが必要ですが上手く使えればDPSが跳ね上がります。」



 勝手知ったるというように兵装を起動して直ぐさまボスに向かって加速する。ゲームだからこそできる無茶な機動で接近する。このアイテムがあるからこそ一層激しくなった攻撃を避けながら近接戦に持ち込むことができる。



 メインブースターとサイドスラスターで小刻みにステップを刻みボスの触腕攻撃を避けていきその胴体へと張り付くように接近する。

 第二形態となって手数も攻撃の早さも上がっているがそれはこちらも同じだ。避けながらカウンターを決めていく。



 兵装の機動力では避けるのが難しい攻撃も、時には武器を使い逸らし、はたまた支えとして避けお返しとばかりに連撃をくらわせる。ゲームだからこそ許される慣性を無視した挙動をもってして着実に堅実に攻め立てていく。



「このギミックを使う一番の利点は高速戦闘を可能にする事ではなく、ゲーム内説明で言えば所持武装のアップデートによる強化です!」



 体感1分ほどでタイミングを見計らい追加ギミックを解放する。武器からは青白い粒子が放たれ見るからに限界を超えていますといっているようだ。これがこの兵装を使う一番の利点。一時的とはいえ武器の大幅な強化をしてくれる。

 能力を言葉にすれば単純だ。一定時間与えるダメージを増やし攻撃速度を加速する。そしてフォームごとに設定されている所謂必殺技が放てるようになる。



「いきます!」



 フォームを変え最高のタイミングで来た攻撃をシールドで弾き返す。細かな触腕がこちらを貫こうと殺到するが大剣で全てを消し飛ばす。

 その攻撃の反動を利用してガラ空きな胴体に向けて双剣の連撃を与え、体勢を立て直し始めたボスに向けてパイルバンカーを射出する。凄まじい衝撃と音が辺り一体に響く。



 更に形状を変化させボクを取り囲むようにして砲台のように触腕が生えこちらを捉える。光と共に熱線が飛び出すが小刻みにステップを刻みながらもう一度胴体目掛けて踏み込む。



 待っていたとばかりにボク目掛けて胴体から突き出した触腕を居合で切り落とす。こちらだって何度も見てきたんだ。もう引っかかりはしない。



「これで、最後!」



 フォームを切り替えて大槌に、振り下ろす。衝撃と破砕音が部屋一帯に吹き荒れる。



『私は私になるのだ。』



一つ命の火が消えていく。



『……私は私になるのだ。』



 かつては神さえ喰らおうとする覇気をみせていたが今ではカケラも見られない。幾多の命を踏み潰しても前に進もうとした男の命の灯火が消えていく。



『何を……間違えたんだろうな。』



 それに返す言葉は紡がれない。確かに彼は悪だ。地獄ほど優しくないこの世界でさえ彼はその全てを自身の糧として歩き続けた。

 始まりは小さな行き違い。それが積もり積もりもう引き返せないところまで。果ての果てまで来てしまった。



そこにいるのはただの枯れ果てた老人だった。



『……母よ。……もう一度。叶うならもう一度。』



 ピクリとも動かないその身体は、あるべき本来の死そのものだった。地面に描かれた斑点模様。人でなしの最期は人として終わった。



『入手アイテム』

***の残滓

それは既に失われた命のカケラ。確かに此処に居たという証。命は紡がれる。終わりなき螺旋へと。



 どれだけ命を創り出す技術を会得しようと得られたのは仮初めのもどきを作り出すだけ。結局の所、本当に欲しかったものは手することはできなかったのだ。死した命は戻らない。



「はい、という事でラスボスの攻略完了です。それと簡単な告知ですが近い内に生配信を考えています。『Conect』の方には準備ができたら告知をする予定です。」



「良かったら見に来てね?」




***




 冷蔵庫から牛乳のパックを取り出してコップに注ぐ。寝ぼけてぼんやりとした頭にはひんやりとした冷たさが無性に気持ちいい。



 柔らかなソファーに収まりながら意味もなく点けたテレビから流れていくニュースを聞き流していく。お腹を壊してしまわないように牛乳を少しずつ飲む。



ドアが開く音がする。



「おはよう。」



 リビングに続く扉を開けてふらふらと寄って間延びした声で挨拶をしてきたのはボクの姉さんだ。日は既に高く登っており、とっくに朝という時間ではない。

 さっきまでゲームプレイの録画をしていたボクが言えた事ではないけど。口にしなければバレないので無問題。



「もうお昼だよ。」


「いいじゃない、日曜なんだし。」


「もう……。」



 寝癖で若干髪が跳ねている。昔はもうちょっとしっかりしていたイメージがあったけど……。いつからだったか姉さんはマイペースというか悪くいえばがさつになった気がする。



 ボクの座ってるソファーに座ってきた。何だかデジャブを感じる光景だ。



「隣のソファー空いてるんだからそっちに座りなよ。」


「反抗期じゃん。なまいきー。」



 豪快に髪の毛をくしゃくしゃとされる。ボクの髪は肩にかかるくらいで切り揃えられている。母さんが美容師なのもあって手入れは直伝だ。



「んー、落ち着くー。」



 そのままボクの方に寄りかかるようにして髪を撫でだす。最近、こんなのばっかりだ。まるで猫でも相手にしているかのように撫でつけてくるのはどうにかならないだろうか。あと、撫でるのが無駄に上手いのがいらっとする。



撫でる手が突然止まる。



「それで配信の方はうまくいきそうなの?」


「まあ、ぼちぼち?」


「何かあったら直ぐ相談しなさいよ。」



 もう一度、ポンと頭を撫でるともう用事は済んだというように行ってしまった。……こういう所があるから何だかんだ憎めないんだよね。






簡単補足

【ゲームのnpc事情】

このゲームのnpcは基本的に決められたセリフパターンを繰り返す仕様になってます。複数パターンの応答掛け合いが設定されているので所謂RPGの村人のような感じにはなりません。


【彼】

ゲームに出てくる表ルートラストボス。

第一形態はひたすら基本を求められる良ボス。第二形態はいかにギミックを使いこなせるかで難易度が大きく変わる。戦闘があっさりに見えるけどRTA用の戦闘だから仕方ないね。

自分というモノを一人では定義出来なかった人。寄り添う者がいようと、付き従う者がいようと彼は彼たり得なかった。生きている事を実感したかった哀れな人。一番許せなかったのは自分だったんだろうね。


【強化外骨格型兵装】

正規ルートのラスボス戦でのみ使用可能なアーマー。インフィニットス○ラトス寄りの見た目。ホバーで浮くけど飛べる訳ではない。


【nicoの姉】

わりと過保護。というかnicoの家族みんなかな。家だとちょっとゆるい感じだけど外だと仕事のできる女になる。内外できっぱり割り切れる人。

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