4 急襲

 レイメイは夢を見ていた。なつかしい夢だった。

 彼女が夢を見られたのも、省エネのために湯が通る配管の上ではなく、空調が効いた部屋の、やわらかなベッドの上で寝られたのがよかったのだろう。

 まだ固形物は食べられそうになく、ネルヴァが交渉して竜人族ドラゴニュートからゆずってもらったエネルギー飲料で腹を満たすことができたのも大きかった。ここに来るまでの数日間は、環境適応服EnvironmentSuits内にストックされていた、ブドウ糖のアンプル注射でしか体力維持の方法がなかったのだ。

 冷凍睡眠から解凍されたばかりとはいえ、あまりに合理的すぎるのではないのか――レイメイは自身の思いとは裏腹にそう思っていた。

 夢で見たあのチョコまんのような、温かくて甘ったるいものが食べたい――今から数百年前の、寒い日の夕暮れ。学校帰りだったその日、どうしてか夕陽ゆうひと別れ難く、特に理由もなくコンビニのイートインコーナーで、ひとつのチョコまんをふたりでわけあった。その時の、幸福感にもう一度浸りたかった。

 そう、夢だ。あたたかくやさしい気持ちになれる、そんな夢を見たはずだ。

 だが、その感触も想いも、舌の上でとけるチョコレートのように一瞬で失われた。

 強い衝撃に、レイメイは飛び起きる――が、無理だった。起き上がれない。彼女の動作を助けるはずの強化外骨格ExoSkeletonがレイメイをしばる檻になっている。

 すぐにユウヒが現れ、状況を把握しようとした瞬間――、光る粒子を残して消えてしまった。

 強力な電子障害ジャミングだ――だが、レイメイには思い至らない。

 自力では動かすことができない、重い檻の中に閉じ込められている。外でいったいなにが起きているのか――不安よりも先に浮かぶのは、好きにして、という思いだった。自分とは関係ないところで状況が動き続けていることに、レイメイはうんざりしていたのだ。

 不透明のバイザー越しに、いくつもの人影が踊っている。

 どうしてレイメイのいる部屋にこんなにも人がいるのか――レイメイが外界に少しでも興味があればすぐにわかることではあったが、彼らは竜人族だった。それも精鋭だ。

「貴様ら! なにを――」

 叫ぶネルヴァの声が尻すぼみに消える。

 電子的な口縄をうたれ、かごに囚われた。

 四足歩行の機械式ストレッチャーに載せられる。

 レイメイも同様だ。

 四人がかりでスーツごと持ち上げられ、ストレッチャーで運ばれていく。

 これからどこに運ばれていくのか、レイメイは諦念のなか、この現実からのがれられるのであればと、また夢の中に落ちていくのだった。また同じものが見られるとは、少しも期待していないことを自覚しながら。

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