【二〇一九年四月号】
【二○一九年四月号】
半纏を羽織りて実家フルーチェ酸し
この句は現代俳句協会の青年部が毎月第三土曜に行っている「ゼロ句会」に投句した句だ。その際は「酸し」ではなく「飲む」だった。さすがに何度も「焼く」「食ふ」などのありきたりな表現がある句の連打をしてしまったので物覚えの悪い俺もこのときには反省していた。句会でもこの句はおおむね好評だった。だが、あらためて見返してみるとどうにも「飲む」でもありきたりな気がしてくる。カレーが飲み物であるようにフルーチェもどうみたって飲み物だ。そこで「酸し」に変えてみた。くさりかけの牛乳で作るフルーチェは酸っぱくてたまらない。小汚い人間にはこっちのほうがしっくりくる。
「その」の指す解答二つ冬旱
街の即詠の句会での提出句。題は「指示語」で今井聖さんの特選に入った。今井聖さんの特選に入るのはこれが通算二回目で二年ぶりのことだったから、えらく喜んで一週間くらいはなにもしなくてもぶんぶんしていた。だが、一度評価された句を再度投句するのはいただけない。さきほどからも何度か本選に入った句を投句している。そりゃあ本選に入った句なら本誌にも載るだろう。そんなに掲載句数を増やしたかったのかこのときの俺は。新しい句で勝負しろよ。
冬夕焼プロテインかき混ぜながら
大学時代、無駄に声だけでかくて態度のでかい人間がキャンパスにうじゃうじゃしていて気持ち悪かった。なかには「バンカラ」を気取っているくせに体は貧弱で、それかビールでだぶだぶになった薄気味悪い体躯をしている奴らもいた(後者は「バンカラ」と言えはするが)。就活をした際にもそういう人間が面接前の待合室などでしゃしゃりでてきて、いらつきを覚えて仕方がなかった。かといって何もしていないのも癪に障るので、週三回ジムで鍛えるようになった。もともと俺は虚弱体質で、身長は一八○もあるのに高校時代は六十キロしか体重がなかった。しかし、ジム通いを始め、狂ったようにたんぱく質を取り続けたところ、体重は七十五キロまで増加。オリンピックは闘争の年になりそうだからそれまでに八十キロまで増やしておきたい。最近は表現が暴力でおさえつけられる事件が(俺の身近でも)起こり続けているから、表現者も体を鍛えておいたほうがいいと思う。この句の解説なんてこのくらいでいいだろう。
日本国旗振りスノボーらリフトへと
この頃から「街」の西澤みず季さんと市川綿帽子さん、結社「澤」に所属する根岸哲也さんと隔週でメール句会を行うことになった。二週に一度十句の提出。その二日後に全句に短評を付していく。その間もほかの句会に参加しているのだから、二週で十句提出、三十句の鑑賞はかなりのハードルだった。この句はそのメール句会での提出句。もともとは「日本国旗振りスノボーらリフト行く」だった。二日後に返ってきた評では「リフト行く」の語がどうなのかという意見をいただいた。そして、リフトへと」はどうかというみず季さんの指摘を受けて投句の際はそのように句の書き方を変えた。「リフト行く」だと擬人化でもしたのかととられかねない。
北風を吸ひ込みATM唸る
投句時、この句は「唸る」ではなく「異常」だった。掲載はされたものの、添削された状態での掲載となってしまった。「異常」だとATMがどのような状態なのか想像がしにくい。単に壊れただけだという安易な読みができてしまう。だが、「唸る」だとATMに命が吹き込まれたかのような錯覚を受ける。これはさきほどの「リフト行く」とは違って安易な擬人化に陥らない良い擬人化だ。「誇張」「比喩」「錯覚」が詩の要諦だと今井聖さんから常々指導を受けている。それを身につまされる添削だった。
鵯の舌突き出でしまま死にてをり
「街」では数年前から会員向けに「未来句賞」という三十句連作の賞が設けられている。要するに結社内の新人賞のことだ。この号はその未来区賞の発表号にあたっていた。選評では各応募作のなかから一句が引用され、短評が付されていく。俺が応募した作品からはこの俳句が引用され、未来区賞候補にはなっていたものの受賞には至らなかった。短評では、「独特の視点が生かされている句がある」という評をいただいた。
一方、この句が引用されたことについては俺の実力不足を痛感する結果になった。というのも、この句はもともと「てをり」ではなく「にけり」だったのだ。とある句会でこの俳句を出した際、参加していた大塚凱さんに「てをり」のほうが良いのではという評をいただき、あとからこう書き直していたのだ。「てをり」だとどこまでも冷静に分析している感じがして、鵯の死に対する主体の「目」が伝わってくる。「独特の視点」という評は応募作のほかの句にもあてはまるのか。今年はリベンジしたい。
なんだかこの号はやけに真面目に評を書いている気がする。ストロングゼロを一本飲んでから次を書こうと思う。
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