ラブコメの水曜日の朝


 ゴンッっとどこからか鈍い音で目が覚めた。

 ――今日もめんどく――今何時!?。

 起きて最初の思考よりも早く時計を見ると、時計は八時五分前。

 あわてて飛び起きようとした拍子にベッドから転げ落ち、床は鈍い音を響かせる。しかし、それに構っていられずに跳ね起きて、急いでリビングへ向かった。

 見間違いかと思ってリビングの時計を見たが、やっぱり時間は七時五十五分を指している。念のため、テレビをつけて左上の時刻表示を見ようとしたが、その時間さえも惜しく、テレビが起動する寸分の隙に洗面所へと飛び込んだ。

 

「やばい! 遅刻だ!!」


 大急ぎで顔を洗って、寝癖を直し、歯を磨く。

 そのあいだに画面がついたらしいテレビの音を耳が拾ったが、毎日やっている犬のコーナーが終わったらしいコメンテーターの声に、やはり時計は見間違いではないことを確信。いよいよ本格的にマズい!

 コーヒーも、バナナも、テレビも、それどころじゃない!

 少女マンガの主人公はパンを咥えたまま学校へ走り出すものだが、現実の遅刻にパンを咥えるだけの余裕はありはしない。

 最初に咥えるべきは歯ブラシだ。

 歯ブラシを咥えたままにクローゼットからスーツを取り出して着替える。スーツを見て、いつものように嫌な気分になるよりも先に、がさりとワイシャツを着こもうとする。歯磨きを終えてから着替えた方が、歯ブラシが服につっかえずに返って効率が良いことに気が付いたが、後の祭りだ。

 靴下をはきながら、洗面所に向かい、口をそそぐ。鏡に映った顔を見て、ヒゲを剃り忘れたと思ったが、もはやその猶予すらなかった。

 電車を降りてからコンビニでひげ剃りを買って、どこかのトイレで剃ろう。そう案じたが、大抵、こういう場合、その時間的猶予は会社に着くまで存在しない。

 ともかくも身支度を急いで終えると、テレビはいつもの番組から祝日くらいしか見かけない朝のワイドショーに切り替わっている。

 本格的にヤバい!

 ネクタイは電車の中で締めることにして、玄関に向かって、靴をしっかり履いた。これから駅まで全力疾走の必要があるからだ。

 ちょうどバタバタと同じように急ぐ乱暴な足音が隣室から響いた。もしかしたらお隣さんも寝坊したのか?

 僕を起こしたあのゴンッという音。僕と同じく慌てて起きてベッドから落ちたのかもしれない、と靴紐を結ぶ数秒に思考が通過した。

 玄関のドアを乱暴に開けて、外へ出る。瞬間に隣からも同じ音が同時に響いた。

 出てきたのは、パンを咥えた女子高生だ。彼女はこちらに築きもせずに、パンを加えたまたで走り去る。あれ? 隣の住人は女子高生だったか? 遅刻がちなOLじゃなかっただろうか?

 そもそもそんな少女漫画にありがちな女子高生が現実にいるのか?

 そんな疑問が浮かんだが、一瞬で無用な考えを投げ捨てた。

 今の僕には時間がない!

 電車の時間まであと三分! 僕は全速力で駆け出した。

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