第29話

 ヨシオ君は、たまごをポケットに入れると、そっと家を抜け出しました。真夜中の人気のない道を、ヨシオ君は一生懸命に走りました。しばらくすると、病院が見えてきました。ヨシオ君は、明かりの消えた玄関に立っていました。

「ヨシオ君、さあ入ろう。」

「でも鍵が閉まってるよ。それに見つかったらどうしよう。」

「大丈夫。誰も僕たちの邪魔はできないよ。さあ、行くんだ。」

 ヨシオ君は、たまごに励まされて、ドアに手をかけました。すると、鍵のかかっていたはずのドアが、すっと音もなく開きました。ヨシオ君は何かに導かれるかのように、どんどん歩いて行きました。長い廊下を歩いたり、階段を上ったりして、気がつくと、ある部屋の前に来ていました。その部屋だけが、まだ明かりがついています。ヨシオ君は、そっとドアを開けました。

 薄暗い蛍光灯の光で、ベッドに寝ているなおちゃんが見えます。ベッドのそばには、悲しみのあまりにやつれてしまった、なおちゃんのお父さんとお母さんが、うなだれて椅子に腰かけていました。

「さあ、早く入って。」

「だって、おじさんとおばさんがいるよ。」

「大丈夫、二人とも眠ってる。絶対に目をさまさないよ。

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