第24話

 こうしてヨシオ君はチームに入りました。そして今まで一人でないしょにやっていた練習と、たまごが呼んでくれたツキのおかげで、試合のたびに大活躍しました。やがてヨシオ君は、三番打者でサードを守るようになっていきました。そしておとなしくって、引っ込み思案で、まるで目立たなかったヨシオ君も、明るくって元気いっぱいの男の子になりました。

 まだたまごと仲良くなっていなかった頃は、ヨシオ君はクラスのみんなからなんとなく取り残されてしまっているみたいでした。でも、もう前みたいに一人で本を読んでいたり、まだみんなが遊んでいるうちに一人で帰るようなことはありません。休み時間でも放課後でも、一番に校庭にとんでいきますし、いつも友だちに囲まれて、とっても楽しそうです。おまけに、ちょっぴり嬉しいことに、クラスの女の子たちの間でも、ヨシオ君は人気があるのでした。

 でも、こんなに人気者になったヨシオ君にも、一つだけできないことがありました。それは、なおちゃんに声をかけることだったのです。


 ヨシオ君は、ずっと前からなおちゃんのことが好きでした。ほら、ヨシオ君の宝箱の中には、なおちゃんの写真が入っていたでしょう。でもあの頃のおとなしかったヨシオ君は、なおちゃんと顔を合わせるのが何となく恥ずかしくって、わざとなおちゃんを避けていましたね。今のヨシオ君は、あのころと違って、明るくて元気いっぱいです。今のヨシオ君なら、思い切ってなおちゃんに好きだよって言えそうな気がするでしょう?

 でも、なおちゃんの前では、ヨシオ君はあの頃のヨシオ君のままなのです。ヨシオ君が本当に一緒に帰りたいのはなおちゃんなのですが、

「なおちゃん、一緒に帰ろうよ。」

なんて、恥ずかしくってとても言えません。別に、スーちゃんたちが一緒にいるからじゃありません。ただ、どうしてもなおちゃんと顔を合わせるのが照れくさかったのです。いえ、それどころか、なおちゃんが来ると、わざと冷たくしたり、そっぽを向いたりしてしまいます。かわいそうに、なおちゃんはいつもちょっと離れたところから、悲しそうにヨシオ君をながめるだけになってしまいました。ヨシオ君もそんななおちゃんを見ると、かわいそうでならないのですが、おかしなことに、どうしても前みたいに気軽に話しかけたりできないのです。もちろん、なおちゃんに向かって、好きだよなんて、とても言えません。なおちゃんも、

「ヨシオ君は、やっぱりなおこのこと嫌いになっちゃったのかな。」

と思って、あまりヨシオ君に話しかけなくなってしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る