第17話

 ところで、ヨシオ君には本当にいいことがあったのでしょうか。

 結局その日一日、特別にいいことはありませんでした。でも、ツイてなかったかというと、そうでもありません。いつもは授業中によく質問されて、おまけに一回はわからなくって先生に怒られるのに、今日はどういうわけか、一回しか当てられなくって、おまけにすごくやさしい質問だったので、すらすらと答えられたのです。

 ヨシオ君は、考え込んでしまいました。

「本当に、たまご君はツキを呼ぶのかなあ。やっぱり、今日はツイてるみたいだもんなあ。」

すると、たまごの声がしました。

「ダカライッタロ。ボクハツキヲヨビコムンダッテ。」

ヨシオ君がもっとたまごと話しをしようとしたときです。いきなり、

「コラッ。ヨシオ君!」

と先生の声がしたので、ヨシオ君はとびあがりそうになりました。

「授業中に、何をぼんやりしてるんですか。さあ、次のところを読んでごらんなさい。」

ヨシオ君は、

「しまった、授業中だったっけ。」

と心の中でぺろっと舌を出しました。さあ、困りました。おばけのたまごと話すのに夢中になっていたので、ヨシオ君は、全然授業を聞いていなかったのです。

ヨシオ君は苦し紛れに本を持つと、読むところを探すふりをしました。

「ええと、ええと。」

 先生は怖い顔をして、ヨシオ君をにらんでいます。ひょっとしたら、廊下に立たされてしまうかもしれません。するとどうでしょう。たまごの声が聞こえてきたではありませんか。

「28ページノ10ギョウメノ『僕は・・・』ッテトコロカラダヨ。」

ヨシオ君は心の中でたまごにお礼を言うと、すました顔で読み始めました。聞いていなかったから読めるはずがないと思っていたので、先生はびっくりしてしまいました。それで、変な顔をしながら、

「うん、わかった。そこまででいい。ちゃんと聞いていたのはわかった。でもね、ヨシオ君、授業中によそ見をしたらいけないよ。わかったね。」

と言いました。ヨシオ君は、ほっとしながら席に着きました。

「たまご君、助けてくれてありがとう。でも、これからはさ、授業中におしゃべりするのはやめようね。だって、すごくびっくりしたんだもの。」

たまごも、

「ウン、ソノホウガイイネ。モシボクノコトガミツカッタラタイヘンダモノネ。」

と言いました。

「ソレニネ、サッキハショウガナイカラタスケタケド、ホントウハコンナコトヤッチャイケナインダヨ。」

 ヨシオ君は、また話しに夢中になりかけて、

「どうしてさ。」

と聞きましたが、

「ホラホラ、センセイガニランデルヨ。アトデネ。」

たまごはそう答えただけで、もう返事をしませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る