第16話

 ヨシオ君もなおちゃんも、一生懸命に走ったので、ちゃんとベルに間に合うように席に着くことができました。

ヨシオ君は、あんまり急いで走ってきたので、いすに座ってもまだハアハアと息を切らしています。すると、頭の中にたまごの声が聞こえてきました。

「ドウダイ、ヨシボウ。チャアント、アサカライイコトガアッタロ。」

ヨシオ君は、思わず口に出してしまいました。

「何がいいことだよ。」

すると、前の席のケンジ君が振り返りました。

「えっ、なあに。なんかいいことがあったの。」

ヨシオ君は、しまったと思いましたが、

「ううん、何でもないよ。うまく間に合ったから、ついてるなって思っただけだよ。」

ケンジ君は、ふーんと言うと、また前を向いてしまいました。ヨシオ君は、今度はちゃんと声に出さないで、おばけのたまごに文句を言いました。

「なんだい。君はツキなんか呼ばなかったじゃないか。もうちょっとで遅刻するところだったろ。」

「デモ、チコクシナカッタロ。ソレニ、ヨシボウノダイスキナ、ナオチャンニモアエタジャナイカ。」

 ヨシオ君は、またもう少しで声に出して言ってしまいそうになりました。

「なおちゃんに会ったのが、どうしていいことなのさ。かえってびっくりした分、損しちゃったよ。」

また、たまごの声が聞こえてきました。なんだか半分笑っているような声です。

「ヨシボウ、ボクニハキミノカンガエテイルコトガ、ワカルッテイッタロ。テレカクシニフクレテミセタッテダメダヨ。」

ヨシオ君は、思わず赤くなりました。

「わかったよ。もう、降参するよ。でも、学校でなおちゃんの話はしないでよ。いいだろ。そうしないと、もう学校には連れてきてあげないから。」

「ゴメン、ゴメン。チョットカラカイスギチャッタカナ。モウシナイヨ。」

さすがにちょっとからかいすぎたと思ったのか、たまごはその日一日、なおちゃんのことは口にしませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る