第15話

 ヨシオ君は、夢中で走りました。そして、もうここまで来れば歩いても大丈夫というところで、ようやく立ち止まりました。ヨシオ君はハアハアと息を切らしながら考えました。

「さっきたまごのやつ、ポケットの中から僕に話しかけられるって言ってたけど、いったいどうやるんだろ。まわりのみんなに聞こえないようにできるのかな。」

すると、いきなりたまごの声がしました。

「ソンナコトワケナイヨ。」

ヨシオ君はびっくりしてしまいました。だって、ヨシオ君は一言も口に出していないんですから、たまごに聞こえるはずがありません。ヨシオ君が思わず大きな声で、

「ど、どうしてわかったのさ。僕何にもしゃべってないよ。」

と言うと、

「シーッ。マワリノヒトガビックリスルジャナイカ。ボクニハネ、ヨシボウノカンガエテルコトガワカルンダ。ソレニボクノコエハネ、ヨシボウニシカキコエナインダ。」

たまごからこんな返事が返ってきました。ヨシオ君はすっかり感心してしまいました。

「やっぱり君は、おばけのたまごなんだなあ。だって、こんなにふしぎな力を持っているんだもの。」

すると、たまごの声がまた聞こえてきました。

「オイヨシボウ。コンナコトデカンシンシテチャコマルナア。ボクニハネ、モットフシギナチカラガアルンダヨ。ボクハネ、トモダチニナッタヒトニ、ツキヲヨブコトガデキルンダ。」

「ツキ?」

ヨシオ君は聞き返しました。

「ツキって何さ。空の月のこと?」

「シガウヨ。ワカッテナインダナア。アノネ、ウンガヨクナルンダヨ。タトエバサ、ヨシボウガテストヲウケルダロ。ソウシタラ、ミンナヨシボウノトクイナモンダイバッカリデ、ヒャクテンガトレチャウッテイウヨウナコトサ。」


 ヨシオ君はあんまりびっくりして声も出ません。こんなことを聞いたら、誰だってびっくりしてしまいます。ヨシオ君は、しばらくの間はただあきれ返っているばかりでしたが、ふと、これはとっても素敵なことだということに気がつきました。だって、これがもし本当なら、きっと、一生懸命に勉強なんかしなくっても、テストで百点が取れるんです。

 それで、ヨシオ君が何となくにやにやしながら歩いていると、

「ヨシオ君。」

と、後ろから声をかけられました。ヨシオ君は急に我に返りました。そして、誰だろうと後をふりかえると、なおちゃんが立っていました。

「おはよう。」

なおちゃんはそう言うと、にこっと微笑みました。大好きななおちゃんに、いきなり声をかけられたので、ヨシオ君は、すっかりあがってしまいました。

「お、おはよう。今日はずいぶん遅いね。」

ヨシオ君は小さな声でそう言ってから、今度は

「早くしないと遅刻しちゃうよ。」

と、大声で言うなり、すごい勢いでかけて行ってしまいました。なおちゃんは、ぽかんとして、かけて行くヨシオ君の姿を見送っていました。

「あ~あ、せっかくヨシオ君と話しながら行けると思ったのに、つまらないな。」

なおちゃんは、ちょっぴり悲しくなりました。

「やっぱりヨシオ君はなおこのこと嫌いになっちゃったのかな。」

それからなおちゃんもヨシオ君のあとを追いかけて、学校へ走って行きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る