第10話

 今日は、いつもより三十分も早く起きてしまったので、まだたっぷり時間があります。ヨシオ君は、卵を机にのせると、腕を組んでじっと見始めました。

 一分たちました。まだ動きません。二分、まだまだ。五分。十分。ヨシオ君は、ほとんどまばたきもしないで、たまごに穴が開くほど、じっと見つめています。もう、かれこれ二十分もたったでしょうか。いきなりヨシオ君の頭の中に、昨日の夢とおんなじな、ふしぎな声が響きました。

「ウーン、ウルサイナア。ソンナニミツメラレタラ、クスグッタクテガマンデキナイヨ。ジャア、チョットダケダヨ。」

 ヨシオ君は、思わず手を口に当てました。そうでもしなければ、大声をあげて、お姉ちゃんを起こしてしまいそうだったからです。まあ、無理もありません。あのおかしな声が、頭の中で響いたのと同時に、たまごが伸びをしたのです。いきなりヒュッと細長くなったと思うと、頭をかがめて机にくっつけて、まるでネコが背中をまるめて伸びをするみたいに、ウーンと伸びをしたのです。


 これには、ヨシオ君も開いた口がふさがりません。ひょっとして、また夢じゃないでしょうか。ヨシオ君は、思わずほっぺたをギュッとつまみました。

「痛いっ。」

 夢なんかじゃありません。本当にたまごが動いたんです。本当にたまごがしゃべったんです。ヨシオ君は、嬉しくってはねまわりたい気分でした。だって、このたまごは本当におばけのたまごだったんですから。

 ヨシオ君は、もう一刻も早く、誰かにこのことをしゃべりたくてしょうがなくなりました。すると、またあの声がしました。

「オイオイヨシボウ。ヤクソクダロ。ボクノコトハナイショノハズダヨ。」

ヨシオ君は、ハッと昨日の夢の中の約束を思いだしました。

「いけない、もう少しで約束を破るとこだった。ごめん、ごめん。」

「ホントニモウ、ニンゲンッテイウノハ、イツモコウナンダカラ。ボクガユメデタメシタワケガワカッタダロ。」

たまごはまだ怒っています。

「イイカイ。コレカラハチャントヤクソクヲマモッテクレヨ。トナリノナオチャンニモイッチャダメダヨ。」

ヨシオ君は、また思わず赤くなりました。

「もうわかったよ。だから、そんなにいじめないでよ。でも、友だちになってくれるっていうのも約束だよ。いいね、二人っきりの時は、一緒に遊んでくれなくっちゃいやだよ。」

「ウン!」と、たまごは答えました。

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