第13話 スキルの使い方
「――その後、彼は国民全員の前で王となることを宣言した」
「でも、反対する人がいなかったのよね……調べて分かったけど、国民全員洗脳魔法にかけられてた。すっごい薄いやつだけど。でもあいつの魔力なら、やろうと思えば全員自害させることだってできると思う」
「さらに逆らうものは死刑。まあ逆らうものなどいるわけがないけどね……それで、どうだったかな? 協力してくれるかい?」
将斗はグレンに聞かれ、少し悩んだ後――
「いや無理……」
そう言った。
「なんでよ~。いいじゃない。目的一緒でしょ?」
レヴィは口をとがらせて言ってきた。
将斗は目を逸らして頬を掻いた。
「無理無理無理これは申し訳ない! 目的は一緒だとしても、打倒雄矢に掛ける思いの重さが段違いすぎるっていうか……」
将斗は協力するべきではないと思っていた。
一旦レヴィが話を終えた時にも再確認していたが、自分は『自分のため』に戦っている。
しかし、彼らはどうだろうか。
グレンの話で追加された雄矢を倒す理由は『婚約者の仇』と『親の仇』。
しかも二年間もここに隠れて牙を研いでいるあたり、本気だ。
「……っていうか俺、ユウヤと同じとこから来た人間ですよ? いいんですか?」
「何が? 出身一緒だからって関係ないわよ。しかも私は洗脳魔法でアンタの来た理由聞いてるし、嘘はつけないから信用してるし、問題ないけど」
「僕は使えるものはすべて使わないとあいつに勝てないと思っているから君が何者であろうが問題ないそれに……君には信用に値する部分がある」
「いやどこが……?」
急に来た異世界人を名乗る男のどこを信用できようか。
「君は僕らの話を聞いている時、まるでその場にいるかのように怒ったり悲しそうな顔になったりしていた」
「そ、そうなのか……?」
「ああ。そういう人の気持ちをわかる人間に悪いやつはいないと思ってる。だから信用できる。これでいいね」
「……え、そんなことで?」
そんな簡単に信じていいものか?と思い将斗はつい聞き返してしまった。
しかしながら褒められているように受け取ってしまい、顔が赤くなるのを感じた。
将斗はそれを隠すために暑がっているふりをして服をパタパタとさせた。
「理由はどうだっていいんだ。僕らには君が必要だ、頼む」
「……ぅ……わ、わかりました。じゃなくて、わかったから、頭は下げなくていい……です……ぞ」
将斗はこういうしつこく頼まれるものに弱いというところがある。
だからつい受けてしまった、不安を覚えつつではあるが。
不安になるのはグレン達が将斗を選ぶ理由が薄いからだ。
堂々と隣に立って戦う自信などない。
しかし、グレン達の頭を下げている姿は必死そのものだった。
それだけでなく、彼らの頼み事は理由を聞いてしまった以上、協力し辛いにはし辛いが、同じくらいに断ることはできなかった。
彼らは本気なのだ。
そして、雄矢は止めなくちゃいけない人間だっていうことをわかってしまったからだった。
将斗の渋々とも言える了承の返事を聞くとグレンは、
「ありがとう。助かるよ」
そう言って微笑んだ。
そしてレヴィはというと
「え?! やった! 助かる~!」
と、軽く受け取ると突然服の中をまさぐり始めた。
胸のあたりへ手を入れている。
色々危ない光景に将斗は驚きとは別の感情で目を見開いた。
「よっと。はいこれ、飲んで」
レヴィが取り出したのは液体が入った小瓶が現れた。
水色の液体が入っている。
――水色?
「あ、これって……さっきの話の洗脳を解くのに使ったやつですか?」
「そ、というわけで飲んで?」
レヴィが小瓶を将斗の方に近づけた。
すると中の液体が揺れた。
将斗は息を呑んだ。
その揺れ方は水やそれに準ずる液体達のような動きではなく、強い粘性があって、例えるならホットケーキミックスばりのドロドロ感を持っていた。
その動きをするくせにやけに透明度の高い水色をしている。
将斗はただ純粋にこう思う。絶対飲みたくないと。
「えっと……俺まだ魔法かかってないから飲む必要ないんじゃないかなーなんて」
将斗はすぐさま回避する道を探した。
「ああ、私あの時焦ってて分かってなかったんだけど、これの成分調べたら洗脳を解くんじゃなくて、効かなくするっぽいのよね……だからハイ飲んで」
「え?!」
話が違う。
飲む必要が出てきてしまった。
しかし怠けることや逃げることに関してはプロの将斗。
すぐさま別ルートでの回避を試みる。
「あ、これって気化させて吸引するんじゃなかったっけ? 別に飲まなくてもいいんじゃ?」
「そうね。でもその調合すると明日になっちゃうのよね……」
将斗は窓の外を見るが、まだ日は落ちていない。
「まだ昼っぽいんですけど? 全然時間あるじゃ」
「ちなみに今日の夜、彼のところへ行くつもりなんだ、だから今飲んでくれると助かる」
「は? 今日?! 夜?!」
将斗にグレンが笑いながら「お願い」と言ってくる。
笑いながらと言ってもそれは苦笑いだが。
「急すぎないですかね。俺スキルの使い方とかわかってないっていうか」
「そこは大丈夫。今からアンタが戦えるように訓練するから時間ないわ。だからハイ、飲んで」
レヴィは絶対に飲ませたいようだ。
しかし、将斗も引くわけにはいかない。
彼女の手のなかで今もなおブルブルと震える液体を見て確信する。
――あれを飲んだら俺は死ぬ
「ほらあの……あれです。そのアレ。えっと、こ、これ。だってこれ――」
「飲んで」
「え?」
「飲んで」
レヴィは有無を言わさぬと言うように小瓶を突き出してくる。
将斗は必死のその小瓶を押し返す。
「ちょ、マジでこの見た目は本当に無理。怖すぎる!」
「飲みたくないだけじゃない! もう! 男でしょ?! しょうがないわね」
レヴィが指を振った。
将斗は嫌な予感を察知した。
「ちょっと待ってそれって……」
将斗は下を見た。
彼の手は小瓶を掴んでいた。もちろん彼の意思とは関係なく。
どう考えてもレヴィの洗脳魔法だった。
何をさせる気なのかは言うまでもない。
「ううう腕がやばっ、待て待て待て! おかしい! 心の準備は? 俺の準備ができてないんですけど?! あああああああ待って待って無理無理無理ほんとむり待ってくああああああああああんがっ…………」
将斗念願の異世界。
彼の楽しみにしていたことの一つとして、『食事』があった。
骨付き肉など筆頭にワイルドな見た目のガツンと来る味の食事ができると想像していた。
そんな楽しみにしていた異世界での初の食事。今回は飲み物だったがそれは、ぬるく、粘つきがあり、例えるなら、クソ暑い真夏の公園の古い蛇口から出た水。いやお湯。
それが将斗の意思に逆らい喉を流れていく。
将斗は数十秒間、地獄を味わった。
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しかし、スキルの練習はそれ以上に地獄だった。
「ハァ……ハァ!
「はい! すぐ体をひねる!」
「おらっ!!」
「遅い!!!!!」
将斗はログハウスの近くで、レヴィにこれでもかというくらいにしごかれていた。
将斗の持つスキルの一つ、
それは、『触れたもの』か『自分』を『視界の範囲内にある、同じくらいの大きさのものと入れ替える』という効果があった。
レヴィさんからこのスキルは、要は瞬間移動みたいなものと言われた。
将斗は最初、強いじゃん、と思った。
強いと思っていたのは将斗だけでなく、二人も同じことを思っていたようだった。
二人は、このスキルで王の近くに瞬間移動して体に触れてスキルを奪うという最速最短の理想の作戦を立て将斗に教えた。
楽に済みそうで、将斗は安心した。
そして将斗は初めてそのスキルを使った。
将斗と同じくらいの大きさのかかしを視界に入れ《チェンジ》と言うと将斗の立っている場所はかかしがさっきまでいた場所に移動していた。
将斗は大喜びした。
本当に瞬間移動をしたのだから無理もない。
しかし、その光景に二人が悩み始めた。
二人はそのとき気付いたのだった。そのスキルには一つ問題があることを。
その問題とは、飛んだ先の体の向きがランダムになるということだった。
将斗が人と入れ替わる場合には、入れ替わる先の人物が向いている方向を向けた。
しかし、物と入れ替わる場合は別だった。
箱や丸太、顔を付けたかかしなど、色々な物に入れ替わったが、なぜか将斗の体の向きが定まらない。
同じものを同じ向きに置いても、入れ替わった将斗の体の向きはばらばらだった。
「だ! か! ら! 入れ替わった瞬間、自分の向いてる方向をすぐ理解して、ユウヤがいるであろう方向に即座に理解して体を捻ればいいのよ! なぜできない!」
「すいません……」
かなり強く怒鳴られる。
将斗は体を捻ること自体はできていた。
《超強化》で身体機能が大幅にアップしているためだった。
だが彼の頭が全然ついていかない。
どっちにどう向けばいいのかを理解できない。
「……勘弁してくれ、数時間前まで一般人だぞこっちは……」
「なんか言った?! さっさと立って次。なんでこんなのもできないのよ!」
このくらいできて当然よと言わんばかりのレヴィに対し、疲れが溜まってきた将斗は不貞腐れ始める。
「こンの……そんな簡単じゃないんだが?! やってみてくれよ!」
「へぇ、だったら私にやってみなさいよ、ほら」
レヴィが手を出してきたため、将斗はその手に触れ、置いておいた丸太を視界に入れる。
「
「……よっ!」
瞬間レヴィが丸太と入れ替わる。
丸太のあった場所にはレヴィがいて、掛け声とともに、王に見立てたかかしがある方向を向いて見せた。
理想的な回転だった。
「何で魔法使いなのに出来んだよ……」
将斗は小声で文句を垂れた。
将斗の中で魔法使いは運動音痴のイメージだったが、それは今消え去った。
振り返って歩いてくるレヴィはこれ異常なくらいのドヤ顔だった。
「どうよ。できんことないでしょ」
「ぐっ、なんも言えん……」
「僕もできるよ」
丸太の準備係をしていたグレン王子も名乗りを上げる。
ならばと、将斗はグレンをレヴィと同じように丸太と入れ替えてあげた。
「ふっ! はぁぁぁっ!!」
入れ替わった瞬間、かかしが一刀両断されていた。
かかしと丸太は、ある程度距離を開けてある。
本来あり得ないが将斗には、グレンが宙を蹴ってかかしに迫っていたように見えていた。
着地したグレンは振り返ると首を振って、あの赤い短めの髪をなびかせた。
イケメンにしかできん、と将斗は羨ましく思った。
「てか今何した? もしかして空気蹴った? スーパー超人?」
「なにそれ、違うわよ。グレンが使ったのは
「ああ、さっきの話の。確か魔力の流れを掴まなきゃできないんだっけ」
「うん、だからさっさとこの練習終わらせて、そっちの練習もしたいんだけど。」
「え……?」
将斗の全身の血が引いていく。
「え、じゃないホラ早く。あれ使えないと入れ替わった後、接近できないでしょ」
「あのもう俺、入れ替わりすぎたせいか三半規管がすごいことになってて」
「何それよくわかんないから早くしてくれる?」
「は、マジ?! 知らないってことはこの世界医療ない?! 意外と発達してねぇな……。クッソ、マジかよ怪我したときどうすんだ……」
「いや僕らの世界にも医療はあるし、三半規管というものも知っているよ」
「嘘つきやがった?!」
「四の五の言わずにやれ?」
「ひっ、やります!
将斗にはレヴィが鬼に見えていた。
――つらい、吐きそう。助けて。ちょっとだけ帰りたくなってきた。神様ぁ!
将斗は心の中で叫んだ。
「集中しろ!!!! ひねりが遅い!!!!!!」
「すいません!!!!!!」
************************************
「はぁ。ようやくできるようになったわね」
「うおぇ……あ゛い゛……」
将斗は入れ替わった瞬間、身体の向きを瞬時に向きたい方向へ向けることができるようになっていた。
その代償として、彼はだいぶグロッキーになっていた。
「これ、戦えねぇんじゃね……」
「じゃ、
「え……あ゛の゛……休憩を……」
「
同じことを二回言う。
そんなレヴィは笑顔だった。
将斗はそれを見てひきつった笑いが出てきた。
「や……やります」
「ありがと~話の分かる人は嫌いじゃないわ~」
そう言うとレヴィは手のひらを将斗の方に向けた。
「………あ」
しかし、急に固まった。
「どうした?」
「洗脳効かなくしたらできないじゃん」
「え?」
「魔法を手っ取り早く教えるには、洗脳魔法で無理やり魔法使わせて感覚つかんでもらうのが最速なの! あああああどうしよう……そうだ、将斗!」
「は、はい」
レヴィは将斗の肩を思いっきり握りしめた。
そして彼女は満面の笑みで顔を近づける。
その目は笑っていない。
「死ぬ気でやってね。ちゃんと魔法を想像できて、魔力操作ができて、運が良ければ何とかなるはずだから」
「運て」
「いいわね。じゃあお手本見せるから。こうしてこう!」
レヴィの体が宙を浮いていた。
いろんな方向へ飛び、空中で8の字を描いている。
魔法みたい……と思う将斗だが一ミリもやり方が理解できていない。
「いやもう少し具体的に」
「だから魔力をこうして、ぐってして体をこう、ぐわ~ってするの」
レヴィは身振り手振りで教えていく。
しかし、クロールや平泳ぎをしているようにしか見えなかった。
「いやわかんねぇ! ちゃんと教えてくれって」
「十分教えてるじゃない!」
「どこが?! 今のは教えたに入らないだろ! レヴィもしかして」
「何よ」
「教えるの下手……?」
彼女の動きがまた止まった
彼女はひきつって笑っていた。
「い、い、いやいやいや何言って」
「さっきの
「わかりやすいじゃない」
「マジで言ってんの……?」
「レヴィ」
その言い合いを見かねたのかグレンが近づいてきた。
彼女の肩をそっと手を置き、一言。
「君は教えるのに向いてない」
「なっ?! 何言ってんの?!」
「勇者の時、半月かかった理由がわかったよ……将斗、向こうで練習しようか」
「違っ! かっ、仮に下手だったとしてもあいつはほんとに不器用だった! 私が下手すぎるせいじゃないって! ちょっと聞いてる? 待ちなさい!」
グレンが彼女のあまりのしつこさに耐えかね、本当に向いてないことを丁寧に教えてあげると、彼女は拗ねて端っこで座りだした
将斗はひとまず彼女は置いといて練習を始めた。
「まず魔力の流れをイメージするんだ。目を閉じて。今から僕が近くで
「は、はい」
将斗は目を閉じた。
すると彼の体に何か風とは違う、それでいて風の様な掴めそうで掴めない何かが当たる感覚がした。
将斗はそれを何とか追ってみると、いろんなところからそれが流れてきていることに気づいた。
しかもそれは自分の中にあることも見つけた
――これが魔力か? だとすると、これはもう魔力を感じることに成功しているということになる……よな。
後はイメージと魔力操作。体を浮かせるように魔力の流れを意識して、自分の体を押し上げる。レヴィの説明から解釈した方法だった。
将斗はそれをイメージするが、浮いている感じはしなかった。
――イメージが弱いのか……?ならもっと、正確に。魔力が、頭を、背中を、腕を、足を、すべてを押し上げてくれるイメージ。もっと浮遊するイメージを……そう宇宙にいるようなイメージがいいのかもしれない……こんな感じか……?
「え?」
「おお」
将斗の耳にレヴィとグレンが驚く声が入る。
「どうかした? って、ええええええ!!???」
将斗が浮いていた。宙に。確実に地面から足が離れている。
「マジ?! 魔法使ってるのか俺! すげぇ! できてる! すげえ! 俺飛んで、ぐおっ!」
集中が切れ、将斗は頭から落下した
《超強化》がなければ死ぬ落ち方だった。
「俺すごいな……」
将斗は感動していた。
超人的身体能力と瞬間移動に魔法。
すでに普通の人間でなくなっていることに謎の優越感を得ていた。
我慢しようにもできずにニヤけてしまっていた。
「嘘でしょ……早すぎでしょ……?」
「驚いたな僕も結構時間がかかったんだが。まさか一発とは……」
「あ……」
グレンとレヴィが驚いている。
将斗はこういう時にぴったりなとある台詞を思い出した。
「俺なんかやっちゃい」
「やはり君を仲間にするのは正解だったかもしれない」
「あ、ああ、ありがとう。じゃなくて俺なんかやっちゃいま――」
「待ちなさいよ! まるで私が本当に教えるの下手みたいになるじゃない!ほんとは最初からできるんでしょ!」
「……もういいや」
異世界転生といえばあのセリフなのだが、言える雰囲気ではないので諦めた。
少し憧れていたため少しやるせない。
「くぅぅぅぅ! だったら教師交代よ!
「いやグレン王子のほうがい」
「なんか言った?」
「言ってません」
その後将斗は、とてつもなくわかりづらい説明を何とか理解しながら、空中での移動ができるようになるまで頑張った。
*************************************
日が落ちた。
橙色の空に黒が差し始めた頃に三人は小屋を出た。
「今から王の城に向かう。準備はいいわね」
「作戦は覚えてるかい?」
「ああ。えっと――」
作戦はこうだった。
城の外の衛兵に見つからないよう、隠し通路を通り城の内部に潜入。
隠し通路はグレンが変装魔法で城に忍び込んで見つけたものだ。
その後、ユウヤのいる玉座の間に正面から入る。
この時、将斗はレヴィが羽織ったマントうまいこと隠れる。
二人がユウヤの木を引いている間に将斗は二つの行動する。
一つは防御魔法のネックレスの交換。常時防御魔法が展開されていると接近が不可能なため、
もう一つは、ユウヤの近くに将斗と同じくらいのサイズの銅像があるため、隙を見てそれと入れ替わる。
そして練習通りに接近して
「――だよな」
「いいね。完璧だ」
「はいこれ。偽ネックレス」
レヴィさんから入れ替え用のネックレスを受け取る。
真ん中に大きな赤い宝石が嵌め込まれていた。
「そっくりに作ってあるから入れ替えてもばれないはずよ」
「わかった」
見た目は高価そうで将斗は壊さないよう大事にポケットに入れた。
「将斗。一ついいかな」
「何?」
「敬語慣れてきたね」
「え? ああ本当ですね……あ」
「あはは、わざとかい?」グレンは口に手を当て上品に笑う。
元王子らしさをそこで感じた。
「ちょ笑うな笑うな。慣れてないんだよ」
将斗は頬を染めて手で払う仕草で制する。
「難しかったら敬語でもいいのよ。なんなら敬意を払ってレヴィ師匠と呼んでも」
「大丈夫、レヴィししょー」
「敬意ゼロじゃない……」
「君には敬意を払いたくなる部分がないのさ」
「何ぃ? ちょっと魔法教えるのが上手いからって」
「まだ根に持ってるのか。全く君は――」
二人が口喧嘩を始めた。
決戦直前だというのに緊張感がない。
しかし、そう思う将斗もまだ実感を持てていない。
「ん? そういえば魔法打たれたらどうなるんだ……とんでもない威力のやつが飛んでくるって話だろ?」
「ああ、その辺は抜かりない。だろうレヴィ?」
「当たり前でしょ。こっちは2年かけて牙を研いでたんだから。目にもの見せてやるわ!」
レヴィは肩をぶんぶんと回し始める。
その光景に将斗は安心するのだった。
その後、移動を開始した。
夜風か吹き付けてくる。
将斗はシャツ一枚なので少し震えた。
月に照らされているだけの暗い森を抜け、城へ向かった。
**************************************
同時刻、王城では――
「……不味い。誰だよこれ作ったの」
「は、はい……。私……です」
王の呼び出しに、調理を担当した女性使用人が名乗り出た。
足が震え、立っているのもやっとのようだった。
「誰に飯出してると思ってんだ? なあ?」
「も、申し訳ありません」
「あ~あ、気分わりぃ。どう死にたい?」
「ひっ、お、お許しを」
「答えになってねぇな、消えろ。」
使用人に、男の手から放たれた爆炎が迫る。
彼女は目を瞑った。
「おやめください」
そんな声がした後、爆炎が使用人の前で消えた。
使用人に当たらなかったのだ。
彼女が顔を上げるとそこには――
「あなたは……」
青髪の少女が立っていた。
服は先ほどの炎によるものか、ところどころ焼け落ちてボロボロになっている。
しかし彼女の肌は白くきれいなままでなんともないようだった。
「俺邪魔をする気かよ」
「あなたこそ今の行動、約束と違いますが」
「あ? 今の飯の不味さ、どう考えても毒だろ? 正当防衛だよ」
「今あなたが召し上がったのは南の果てにある大樹の葉を絞った、滋養強壮に効く――」
「うるせぇ! そんなの知るかよ」
「この前同じもので、その味にお怒りになったあなたは同じように使用人に魔法を放った。お忘れですか?」
「ちっ……まずいモンを出す使用人が悪い。こんなの飲めるか……下げとろ!!!」
「はっ、はい……!」
一秒でも早く逃げようと、使用人は即座に食事を片付け始めた。
仕様人が部屋から出ていくと、部屋には男と青髪の少女だけになった。
男は少女に近づいていく。
「……痛かったよなぁ。ごめんなぁ」
「おやめください」
男が少女に触れようとすると、少女はその手を払いのけた。
「約束……お忘れですか?」
「まさか忘れるはずもないさ。わかってるよ、あと1日の辛抱だ」
そう言って男は青色の髪に触れた。
少女は避けようとするが、肩を掴まれる。
身を捩るが、少女の力では逃げられない。
「っ……!」
「おっとっと、逃げるなよ。髪ぐらいはノーカンだろ。」
そう言いながら男は触れていた髪に顔を近づけた。
そして、その香りを堪能し始めた。
少女はゴミを見るような目で男を睨んだ。
「んー……ハァ……あと一日、あと一日だ。そこでようやく僕たちの約束が終わる……そして、結ばれる……クハハハ」
下卑た笑いを浮かべた男――鈴木雄矢はそう呟き、そのまま少女の首を舐め始めた。
少女は、何かを願うような目で窓の外を見つめていた。
窓の外の月が雲に覆われ始めていた。
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