第7話/1話 無限の魔力
勇者召喚の儀は、王からグレンに伝えられた日から3日後に準備が整った。
城の大広間の床には巨大な魔方陣が書かれ、周りには様々な道具が巻物通りに配置されている。
蝋燭や松明。何に使うのかわからないオブジェに、どこにあったんだって言うくらい錆びた剣。
そんな魔方陣の外側には王、グレン王子、レヴィ、そのほか護衛のための兵士が十数人立っていた。
配置の最終確認をしていたレヴィにグレンが声をかける。
「この程度の準備、昨日にでも出来たんじゃないですか?」
「は? この魔方陣完全再現するのにどっっれだけの苦労と努力が隠されてると思ってんの?」
「ただ巻物通りに置くだけじゃないですか」
「はぁ~これだから脳筋王子は……こういうのはね、全体的な比率を合わせなきゃダメなの。この文字だって全部この床に合わせて大きくするのに一個一個計算しなきゃいけな……ああ~ごめんごめん。王子は戦うことしか脳にないからそういうことはわかりませんか~」
「 は い ?」
そこを皮切りに、二人は言い争いを始める。
王は溜め息をついた。
「いい加減にしろ。お前たち。ついに準備が整ったのだというのに全く」
「国王~、お宅の息子さんちょっと態度がお悪うございませんか?」
「お前父上にどんな口の利き方をしているんだ!」
「いい加減にしろといったはずだが?」
「ごめんなさーい」「申し訳ありません」
「やれやれ」と王は咳払いをしつつ、整列した兵士たちの方を向いた。
「魔法使いレヴィ殿の協力を受けつつ本日我々は、勇者召喚の儀を執り行うこととする。だが君たちの中に、こんな状況で何を考えているのか、と思う者もいないわけではあるまい」
その通りで、兵士たちの中には首をかしげている者もいた。
こそこそと言い合っている者もいた。
彼らの中で勇者という存在は、お伽話上の存在でしかない。
伝説と言われていた魔王が現れた以上、同じく伝説の勇者という存在もまたいる可能性はある。
だが、そううまくいくものか、と不安になっている兵士が少なくなかった。
「だが俺は、この国を守るためであればなんだってするつもりだ! 使えるものは全部使い、必ずかの魔王軍を必ず滅ぼす! 今から行うのはその手段の一つにすぎない! ダメならダメで次を探せば良い!」
拳を握り締め強く宣言する王。
その姿を見てレヴィも語りだした。
「ちなみに王国最強魔法使いちゃんから言わせてもらうと、この魔方陣、多分だけど、必ず何かは出てくると思う。それが勇者なのかなんなのかはわからないけど召喚自体は成功するわよ」
「自分で最強と言うとは……」と、グレン王子は呟き鼻で笑った。
笑うグレンとは逆に兵士たちはその言葉に驚いていた。
「あの魔法使いレヴィが言うなら!」「いやしかし」「魔物でも出てくるんじゃ」「罠ではないのか」「しかし仮に成功したら……」
口々に呟きだす兵士たち。
無理もない。仮にも王国最強の魔法使いの言葉で語られたものだからだ。
しかし、まだその中に信じられないと言う兵士はいた。
そんな彼らに対し王は話し続けた。
「お前たちには、万が一の場合対処できるように配置についていてほしい。」
「僕も場合によっては本気で対処に当たらせてもらう! ここには父上もいるからな」
グレンも士気を上げようと発言した。
その発言のおかげか兵士たちが背筋を正し始める。
「私がいるし、正直あんたいらないわよ」、とレヴィが小声で言った。
兵士たちはグレン王子も参加すると聞いたからか、少し不安が取り除けたようだった。
何を隠そう彼は剣術の才能において秀でており、その力は世界でも有名だった。
当然、様々な戦場で数々の功績を残している。
そんな彼がいるなら本当に万が一の場合でもなんとかなるはずだ、と兵士たちは安心した。
兵士たちの状態が良くなったことを察した王は儀を開始する宣言をした。
「覚悟はいいな。これより、勇者召喚の儀を行う!全員配置につけ!」
************************************
兵士たちが配置についた後、王の合図でレヴィは巻物に書かれていた呪文を唱え始めた。
その言葉はかなり古い言葉だからか、内容を理解できるものはいなかった。
静寂の中、広間にその呪文が響く。
すると、魔方陣が少しずつ光りだした。
「おぉ……」「成功か?」「まだ勇者が現れるときまったわけでは……」
ざわめきだす兵士たち。
勇者が現れるか。はたまたとんでもない化け物が現れるのか。
震える兵士も出てきていた。
「集中しろ! 何が出るかは本当にわからない! 気を引き締めておけ!」
グレンが彼らを一喝する。
呪文が唱え続けられるにつれ、魔法陣の光が増していく。
そして、次の瞬間、その光がまるで爆発するかのように広がった。
部屋にいた誰もが眩しさに目を覆った。
そして少し経った後――
「ここは……?」
何者かの声が魔方陣の中央から聞こえた。
「おおおお!? 鎧着てる人がいる! え、こっちはもしかして魔法使い?! あれって王冠? ってことは王様?! まさか本当に? やった! 嘘じゃねぇんだ! 異世界に本当にこれたんだ! やった……やったー!!」
魔方陣の中央にいたのは若い男だった
何故かその男は自分の周りを見て、手を挙げて跳ねたりして、はしゃいでいた。
「人……ならばあれが勇者なのか」
グレンは首をかしげた。
想像と違ったためだった。
お伽話に出てきた勇者はもっと、物静かで、落ち着いている、そんな存在だったはずだ、と。
グレンから見た彼は嬉しさからか跳んだりしていて落ち着きがなく、簡潔に言えば『勇者らしさ』を感じられなかった。
「なにあれ、嘘でしょ……こんなのがいるわけ?」
グレン王子の反応とは逆に、レヴィは目の前の存在をみて声を震わせていた。
見たことがない表情をする彼女にグレンは違和感を覚えた。
「どうしたんだレヴィ。らしくもない」
「黙ってなさいよアホ王子。あんなの見たらこうもなるわ」
「お前不敬が過ぎるぞ。それであんなのとは? なにがそんなに」
「わかんないだろうから教えてあげる。あいつ、とんでもない魔力の量をしてる。あんなの人間じゃないわ」
レヴィは好奇の目で男を凝視していた。
「まさか……」
グレン王子は信じられないといった風だったが、目の前の、仮にも王国最強の魔法使いが声を震わせそう言うのだ。
彼にはそれが彼女のいつものふざけた態度からくる嘘だとは思えなかった。
説得力は十分だった。
『人間じゃない』そんな発言を反芻しグレンは唾を飲み込んだ。
誰一人どうすればいいかわからず立ち止まっていたが、最初に動き出したのはレヴィだった。
謎の存在に彼女は物怖じせず話しかけた。
「お兄さん、言葉わかる?」
「は、はい。わかります!」
受け答えはできる。とグレンは少し安心した。
レヴィを少しでも震わせた存在と話が通じないなんてことになったら、目も当てられないからだ。
「そう……よかった。あなた名前は?」
「えっと、スズキ ユウヤです」
その発言に広間がドッと騒がしくなった。
「勇者?!」「勇者だと?!」「成功したんだ!」「すごいことだ!」
兵士たちが騒ぎ出したのだ。
勇者を名乗る存在に儀式の成功を祝福する声が上がっている。
「え、あ、すいません、ユウシャ、じゃなくてユウヤ、です!」
「失礼だぞお前たち!」
グレンが聞き間違いで喜ぶ兵士達を一喝した。
「ごめんね、えっと……」
「あっ、ユウヤのほうが名前です」
どちらが名前か一瞬悩んだレヴィに気づいたのか、ユウヤが助け舟を出した。
心を読まれたようで驚くレヴィだったが、態度に出ないように気をつけ、話し始める。
「ユウヤ君か。突然で悪いけど『ステータスウィンドウ』ってわかる?」
「レヴィ、何をっ!?」
「うるさいわね。こんなの気になってしょうがない。あの子のスキルを見ろって私の勘が言うのよ」
レヴィはそう言いながら、スズキユウヤの方に向かって歩き出した。
万が一のためにグレンもついていった。
この世界では他人のステータスウィンドウを見ることはあまりよろしくないことだった。
そのためグレンは勇者の機嫌を損ねないかと不安になった。
「神様に教えてもらったあれかな。よっと。」
ユウヤが指を振ると、薄緑の板が現れた。
正真正銘ステータスウィンドウだった。
「ねぇそれ、見せてもらってもいいかしら」
「はい、どうぞ」
スズキユウヤはあっさりと自分のステータスウィンドウをレヴィ達に見せた。
スキルなど見られていいものじゃない、と思っているグレンはその行動に少し驚いた。
だがそれ以上に驚くものがそこにあった―
「何……このスキル」
「これは……?」
「『無限魔力(インフィニティ)』聞いたことないわ……?」
そう言い、レヴィは詳しく見ようと画面上に映し出されたそのスキルを押した。
そのスキルについての詳細が映し出される。
『無限(インフィニティ) 無限の魔力を生成し続ける 常時発動 gΛ2f8mk0』
「なにこれ、無限の魔力が生成……? 無茶苦茶じゃない……しかも何この最後の変な文字列は」
青ざめるレヴィ。
それに対し、グレンは一言も発せずにいた。
「どうなのだレヴィ殿。その者は勇者なのか?」
沈黙を貫いていた王が問いかけた。
レヴィは振り向くと大声で告げる。
「勇者に決まってる! この子の持つスキルは『無限魔力(インフィニティ)』! 無限の魔力が生成できるスキルです! この子なら! この子なら必ず! 私を超える存在になります。超えるだけじゃない。場合によっては一人でこの戦争を終わらせられる!」
レヴィは興奮していた。人知を超えた存在に心躍らせていた。
彼女の探求心が、知識欲が昂ぶりだしている。
得体の知れないモノへの恐怖と止まらない興奮が入り混じった笑顔で王にそう伝えた。
無限の魔力の生成。彼女から伝えられたその事実に、広間の兵士たちが一層騒ぎ出す。
「落ち着けお前たち」
王がそう言って彼らを鎮めた。
「無限の魔力を生成、か。それは確かなのだな」
「間違いないわ」
「僕も確認しました」
グレンとレヴィが自信をもって答えた。
「そうか。ならば、ユウヤ殿といったな」
「は、はい」
「疑っているようですまないが、其方の力を見せてはもらえぬか。無限の魔力が使える者としての、力の証明をして欲しい」
「わ……かりました」
そういうとスズキユウヤは呼吸を整え始める。
その部屋にいる全員が固唾を飲んで見守る。
無限の魔力から放たれる魔法。
誰しもが自分の想像など、優に超えたものが出るのだろうと期待した。
**********************************
王が魔法を見せてほしいと言ってから、だいぶ時間が経った――
スズキユウヤはあれから、手を伸ばしたり、振ったり、閉じたり開いたり、力を込めるようなそぶりなど、色々なことをしているが何も起きなかった。
謎の光景に兵士たちも顔を見合わせていた。
「……」
「どうした、ユウヤ殿」
しびれを切らした王が声をかけた。
声をかけられた彼は、ひきつった笑いをしながら王の方を向いた。
「あ、あの、具体的には何を?」
「魔法を使えばいいのよ。初級でもいいのよ。一発すごいのを見せて頂戴?」
言われたことが分かっていないのだと、レヴィが小声で助け舟を出した。
しかし、スズキユウヤは困った顔をしたままだった。
「……」
「どうしたのよ? この際『
「ファイア?」
火属性初級魔法『
そこらへんの戦うこともないような一般人でも使える魔法で。小さな炎の球を出せる。
戦闘よりもむしろ料理などで使われる魔法だ。
しかし、魔力の多い魔法使いなどが使えば、それは小さな太陽と言われるほどのサイズになり、人一人は簡単に飲み込む。火力もつぎ込んだ魔力によって上がる。
無限の魔力が注がれたら初級魔法でもどうなっちゃうのか、とレヴィは期待するがユウヤは何もしないままだった。
次第にレヴィもしびれを切らして――
「ちょっと、どうしたのよ?」
「あの……」
レヴィの問いかけに対し、スズキユウヤは心底申し訳なさそうな顔をした。
「魔法って……どうやって出すんですか?」
「「………………は?」」
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