ケンカするほど、仲がいい

 オレがソフィとツンディーリアの秘密を知って、数日が経つ。


 魔族の動向などが気になったが、さして大事件は起きていない。


「今日は、クラス対抗の模擬戦でーす」


 メロンカップのポロリーヌ先生によって、体育の授業が行われた。


 グラウンドに、全面に白線で魔方陣が描かれている。多少の勢いでも学び舎を破壊させないためだ。


「一年サファイア組と、一年ルビー組で、三本勝負をしてもらいまーす。いいですかー?」


「はーい」


 やる気なさそうに、両クラスが返事をする。


 くじ引きで、三人組の班に分かれた。

 各班三人ずつになって、対戦相手もくじで決まる。


「ではルビー組はユリアンくん、トーモスくん、ソフィさんで。先方ユリアンくん、前へどうぞー」


「はあ」


 オレも、やる気がない。何より腹が減った。


「お願いします」


 対戦相手は、随分とやる気勢である。向こうのクラス委員だったかな。侯爵家の跡とりだったような気がする。名前は忘れた。


「どうも、ユリアンです」


 挨拶が終わったところで、「構えてー」とポロリーヌ先生が手をあげる。


「ユリアン・バルシュミーデ殿、ボクは手加減する気はありませんよ! あなたのような女性につれない男に、憧れの聖ソフィは渡せません。やはり彼女ののハートを射止めるのはボクのような――」



「百合魔法、【百合快眠リリー・スランバー】」


 対戦相手の前で、オレはタクトの先をクルクル回した。


「てえてえ……」


 マウント顔のまま、対戦相手は眠ってしまう。


「はい、おしまい」


 三秒で、オレは試合を終わらせた。


「おー」と、場内から拍手が湧く。


 相手を殴らず傷つけず倒すには、眠らせるに限る。魔法抵抗力が低い相手で助かった。でなければ、殴らねばならない。


 暴力は、できるだけ避けたかった。なんといっても、オレを鍛えたメイディルクスが元冒険者だから。


「相変わらず、あなたの精神攻撃は恐ろしいですねー」


 ポロリーヌ先生が、手を叩いた。


「いや、こんなもんです」


 まあ、悪くない結果である。


 だが、トーモスが秒で負けてしまった。


 相手がメガネくんだと、油断してしまったようである。


「悪い。超強かったぜ」

「オレが行った方がよかったか?」

「いや、お前の対戦相手よりは弱かった。お前が獲った星の方が価値があるよ」


 あとは、ソフィ対ツンディーリアの戦果次第だ。


 お互いに、ピッチリした体操着を身につけている。

 どこも防いでくれそうにない見た目だ。

 実際は、刃物を一切通さない。

 大魔法を喰らっても無傷でいられる。


「おあつらえ向きな状況ですわね、聖ソフィ」


 体操着姿のツンディーリアは、肉感的なプロポーションだ。ドラゴンの血を引いているからだろう。


 対するソフィは、軽く握っただけで折れてしまいそうな程に線が細い。胸だけは大きいが、ツンディーリアほどではなかった。



「学校の授業なんかで勝負を決めたところで、実戦で活かせなくては」


「負け惜しみですの?」


 不敵な笑みを、ツンディーリアが見せる。

 この二人、裏では愛し合っているんだよな。二人の真実は、オレしか知らない。なんという優越感、良き!


「なにをニヤニヤしているんだ?」


 不思議そうな顔で、トーモスがオレの腕をヒジで突く。


「いや。面白いものが見られるなと思ってな」


「ああ。好カードだよな。女子のエース対決だし」


 よかった。トーモスは、いい感じに勘違いしてくれたぞ。


「減らず口は、私を倒してからおっしゃいな」


 ソフィが、自身のステッキである「ピンク色の柄」を出す。

 魔力を放出すると、桜色の閃光刃を展開した。


「いくら勇者の末裔と言えど、ドラゴンのブレスをまともに浴びて、立っていられると思いまして?」


 ツンディーリアのステッキが、巨大化する。宝石が絡まった杖に変形した。


 中央にはめ込まれた黄色い宝石は、まるでドラゴンの瞳を思わせる。


「ちょっとー。口ゲンカしてないで始めてくださーい」


 ポロリーヌ先生の合図によって、因縁の対決がスタートした。


 バウンッ、という音が、グラウンドに鳴り響く。

 屋内で授業中の生徒が、「何事か」と窓を開けるほどの大きさだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る