尊い模擬戦

「なんだ?」


「いきなり開幕ぶっぱファイナルアタックかよ!」


 ソフィとツンディーリアの両名とも、必殺技を展開したのだ。


 ともに必殺レベルの術式を放ち、学園にクレーターを形成していく。


「たあ!」


「せいっ!」


 ソフィの剣が、ツンディーリアのシッポとぶつかりあった。


 一般人には見えないどころか、衝撃波で風圧が観戦席にまで及ぶ。


 生徒たちも、授業を忘れて避難していった。


「二人とも、やることがメチャクチャだな。よっぽどお前さんを取られたくないらしい」


 事情を知らないトーモスが、オレを見てニヤけた。


「そんなんじゃないだろ? ライバル同士なだけだって」


「お前にはもったいないって。あの二人こそ、付き合えばいいのにな」


 つい先日オレが言ったことを、トーモスも口に出す。


 彼も、オレと同類なのだ。


「やはりお前もそう思うか。我が友」


「だって、おもしろいじゃん。あれだけいがみ合っている二人が実は、なんてさ」


 まったくだ。


 オレには分かる。


 開幕で大技を当ててくると言うのは、相手を信頼している証だ。


 尊い。これ以上の友情があるだろうか。


 とはいえ、やりすぎだな。学校が壊れてしまう。


「いやむしろ、学校が破壊されてしまったほうが、二人の行く末にとっていいのでは。


 そんなことを考えていると、ソフィとツンディーリアの魔法が、オレのいる方向に飛んできた。独り言を聞かれたか。


「百合魔法。鉄壁・百合障壁リリー・フォール


 オレは百合魔法を展開して、障壁を作った。

 

「ストーップ。もう引き分けでお願いしまーすっ!」


 ポロリーヌ先生が、試合を止めた。

 あの二人のケンカに、割って入るとは。


 いくら戦争レベルの爆風も防げる強度といえど、魔方陣にも限界がある。


「勝負は、おあずけですわね」


 ツンディーリアのステッキが縮んでいく。


「そうですね」


 ソフィも剣をしまう。


 

 

 食堂でも、オレは気のない素振りを見せる。


「どうだ、この【みそラーメン】という料理を。東洋食文化と西洋パスタとの融合。まさに百合の集合体と言っても過言ではない!」


 ズゾゾーっと、オレは豪快にラーメンをすすった。


 うむ、うまいっ。

 麺は正統派女子。チャーシューは「ゆるふわ系女子」といったカンジだ。

 そこに生徒会長然としたメンマがアクセントとなって、味を引き締める。

 両者の対立を、ムードメーカーであるナルトが整えるというパーフェクトな図式だ。

 すべてにおいて、調和が取れている。

 これはまさに百合で言うところの「謎部活モノ」のワールドではないか!


「この、一見どこにも接点がない同士が、ラーメンという一つの海で巡り会い、一つの結晶となってオレの前に現れる。これを百合と言わずしてなんというのか!」


「王子サマがラーメン食ってる段階で、おかしいけどなー」


 友人のトーモスが、ハンバーグを食べながらツッコんでくる。


「何を言う。庶民の味を楽しむのもまた、王族の務めだぞ」

「そうは言うけどよぉ、見てみろ周りを。ドン引きしてるぜ」


 オレは、周辺をうかがう。


 確かに、オレには誰も近づこいてこない。

 話してみたいのか、オレの方を向きはする。

 だが、トーモス以外は側に寄ろうとしなかった。


「まあ、人払いにはちょうどよかろう」


 再度オレは、みそラーメンを勢いよく吸引する。


 オレの奇行は、半分わざとだからな。


 普段からオレは、積極的に友だちを作らない。

 誰からも趣味が理解されないのは、オレ自身が一番わかっていた。ムリに興味を持ってもらおうとは思わない。


 食事の時間だけは、気心の知れたヤツと過ごしたいのだ。


「けどよ、王族サマってのはもっとエレガントな料理を食うモノだぞ」


 庶民の味オブ庶民の味であるポテサラを山盛りで食っている奴に、言われたくない。


「たとえば、聖ソフィさまなんかよ。お弁当だぜ」


 聖ソフィは、小さなピンク色のランチボックスを開けて、サンドウィッチを口にしている。食堂で買った物は、手作りの焼きプリンだ。


「お弁当にスイーツ。この組み合わせだけでも幸せになりそうだぜ。花も恥じらうお嬢様ってのは、ああいう子を言うんだろうな」


 顔をほころばせながら、トーモスはうっとりした顔になる。


「まったくだ」


 あいつが焼きプリンの生地のように焦げた一面を持っていると知ったら、トーモスはさぞショックを受けるだろう。


「見ろよ。取り巻きに囲まれている集団を。中心にいるの、隣のクラスにいるクラス代表、ツンディーリアさんだぜ」


 ツンディーリアは、学食を利用するようだ。

 激辛のペンネに、追いカイエンをカタマリで乗せていた。

 舌が破壊されないのだろうか。


「くうう!」


 涙を流しつつも、ツンディーリアはいじらしく完食する。

 対人ストレスを激辛で解消するかのように。


「ムチャしやがって」


「だが、それがいい」


「そうだな。普段のツンケンした姿からは、想像もできねえ。あれはレアなケースだぜ」


 エリートたるもの、恐れるべき事態がある。

 それはキャラ崩壊だ。


 しかし、ツンディーリアは人前でも平然とおどけてみせる。

 普段の優等生然とした姿とのギャップが凄まじい。


「さすが我が盟友。わかるか?」


「おうよ」


 オレたちは、固い握手を交わした。

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