最終話 百合国王!

―――数年後。

 

「兄上、いまだ独身だったのですね」

 すっかり大人の女性になったシスタビルが、オレの島に大型船を取り付ける。

 

 オレは未開の島を開拓して、一国の国王となっていた。


 ここは、リリー・アツマレー島という。

 元々無人島だったが、自分たちなりに開発して観光地として生きながらえていた。


 バルシュミーデは、シスタビルがムコを取って、国王となったらしい。


 まさか、ライバラがシビルの夫となるとは。


 オヤジよりうまくやっているらしく、オヤジとも仲がいいらしい。コミュ障なところがあったから心配していたのだが、話を聞く限り元気そうで何よりだ。


「当然だ。百合に配偶者は不要! 二人もそう言ってやれ」


 ソフィとツンの二人に、オレは声をかける。


「コイツなら、何度言っても聞かないわよ」

「頑固なところは、学生の頃から変わっていませんわ」


 呆れたように、二人はシビルに告げた。

 農作業に慣れ、二人ともたくましくなっている。


「本当に、子どもも作らず街を発展させるなんて」

「お前の子どもは、元気そうだ」


 シビルは腕に、赤子を抱えている。


「その子が、バルシュミーデを支えてくれたらいい。オレには、彼女たちがいる」


 オレたちを守るように、農作業をしていた女性たちがシビルの前に立ち塞がった。


「いったい、どうすればこれだけの女性が」

「彼女たちが、勝手に住み着いたのだ。オレは、それを受け入れたまで」 


 この島は、「百合の駆け込み寺」として機能していた。

 許されざる愛を成就させるため。


 オレは国王として、国を守っている。妃も取らず。


「元国王も、ユリアンの孫はいつだ、とうわごとのように」

「知るか。あいつのためにも作ってやらぬ」

「お母さまの望みだとしても?」

「母上にはお前がいる。チエリ嬢は?」

「祖国のお妃様になられました。ですが、たまに子ども同士を見せ合っています」


 尊い……。

 その現場を見られないのが残念だ。


 オレの国外追放は、まだ解けていない。 


「何度言っても、何があっても、オレは帰らぬ」


 我に返って、改めて意思を表明した。


「はい。そのご報告のために来ました。こちらへ」


 シビルが、騎士の一人を呼ぶ。


「メイ……」


 その騎士は、メイディルクスだった。


「リリー・アツマレー島の国王、ユリアン王殿。バルシュミーデは、さる国との同盟を提案するモノなり」

 メイが、条文を読み上げる。


「同盟を結ぶと?」


「はい。この島での活動を、バルシュミーデがバックアップ致します」


 この小国を守ってくれるなら、たしかにうれしい提案だ。


「オレは学園を吹っ飛ばした犯罪者だぞ。連行されることはあっても、協力してくれるなんて」


「賠償金は、払って下さったではありませんか。ここの名産の数々で」


 この島は観光地となっていて、その売り上げを補償に充てた。

 百合は隠れたファンがついていて、市民だけでなく貴族もお忍びで来ている。


「意外と百合好きが多くて助かったぜ。なあ?」

「はい。お兄ちゃんも鼻の下を伸ばしっぱなしで」


 彼らの担当は、トーモス兄妹だ。

 魔法学園卒業後、彼らも家から独立したのである。

 貴族とのパイプを持ち、我々の立場を優位にしてくれた。

 ある意味、もっともこの島に貢献している。


「属国になれ、ではなく、同盟を組もうとは、どういう風の吹き回しだ」



「わたくしのご提案でございます」



 シビルの後ろから、初老の男性エルフが。

 顔にシワが増えていたが、誰かなんて忘れるわけがなかった。


「セワスルチアン大臣ではないか」

 オレはセワスルチアン大臣を抱きしめる。


 随分と、彼は細くなっていた。

 表情にも、気苦労が見え隠れする。


「お恐れながら申し上げます殿下、いや国王陛下。このセワスルチアン、今はもう、大臣ではありません。あなたがもう殿下ではないように」

 やや憂いの残った笑みを、セワスルチアン卿が見せた。


 どういう意味だろう?


「わたくし、バルシュミーデ共和国の初代大統領となりました」


「大統領!?」

「はい。バルシュミーデ国は複数の国家と同盟を組んで、共同体を作り上げました。それらを統治するのが、わたくしであります」


 暴君が去ったリスタンは、善なる貴族のヴェリエ卿を国王とした。


 ミケーリは、ツンに代わってブルルンヒルデを女王として迎え入れたという。


 いずれの国も、バルシュミーデと手を組んで共同体となったらしい。


 これで、魔族とも交流が深まるワケか。

 ツンらの悲願が成されたのだ。


「今後我々は、よりよき国家を維持すべく、各国に協力を要せいている次第でございます」

「大きい野望だな」


「すべては、尊き百合が世界に認められるため」

 セワスルチアン卿が、親指を立てた。


「みなさまの追放処分も、解消させていただきます」

「すまん、セワスルチアン」

「陛下……よき!」

「よき!」


 こうして、オレたちは同盟を結んだ。


「よかったわね、ツン!」

「ありがとうございますわ、ソフィ!」


 二人が抱き合う。


「あら~」

 オレは思わず、ため息を漏らした。


 二人が、オレのねっとりした視線を感じて離れる。


「構わん、続けたまえ」

「だから、やりづらいわ!」

                              (完)

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百合好きの王子様! ~嫁候補同士が裏で付き合っているだと!? もっとやれ!~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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