百合王子、最後の戦い

「いさぎよし! 自らを犠牲にして友垣を逃がすとは!」

「何を言うか。お前などオレ一人で十分だ!」


「どこまでも大口を叩くか小僧め!」

 魔王が剣を構えた。

 だが、動きが全くの素人である。

 さっきの攻撃も、まるでスキだらけだった。

 力任せに振り回しているだけだ。


 これなら、オレでもサーベルで撃退できる。

 本当にオレ一人でも勝てそうだな。


「不甲斐ないギャルル・ブルルンヒルデに代わり、この肉体を得たが、どうにも使えん! やはりブルルンヒルデを無理にでも操るべきだったか!」


 ラスヴォス国王の身体がヨロイまみれなのは、保護のためじゃないのか。

 おそらく、無理矢理五体を魔王の力で覆っているのだろう。


 よく見ると、ヨロイのパーツはすべて魔剣と一体化している。


「自分が弱いのを、肉体のせいにするか。軟弱なヤツよ」


「余が弱いだと!? ええい聞き捨てならぬ! 我が復活の門出に、貴様を血祭りに上げてくれるわ!」


 残念ながら、オレも死んでやるわけにはいかん。

 帰りを待っている人たちがいるのでね。


「この日のために、魔剣から人を操って仲間を増やしてきた。ブルルンヒルデが最有力だったが、力が強い割りに適合率が悪かった。リスタンのジジイは、適合率こそ高いがこのザマ!」


 ダーフエルフの精神力をナメていたからだ。

 ギャルル本人の自分勝手な性格もあるだろうが。


 リスタン王へとシフトしたモノの、高齢過ぎてまるでお話にならない。


「肉体さえあれば、貴様など!」

「いいや。お前には身体があってもオレには勝てないな」

「なにを!?」

「今、それを証明してやろう」


 教えてやる。オレがどうして、生徒たちを逃がしたのかを。



「さあ、魔王を復活させるがいい!」



 魔王に、自身を蘇らせるためだ。



「気でもふれたか、小僧! ならば遠慮なく、復活させてもらおう!」


 魔剣が、ラスヴォスから離れていく。


 ラスヴォスはだらしなく、ドサリと倒れた。


 地割れが起き、ラスヴォスが裂け目へ落ちそうに。


「まずい!」

 オレはラスヴォスを、結界の外へ放り投げる。


 同時に、校舎の真下が持ち上がった。

 盛り上がった土が爆発し、魔王らしき物体が姿を現す。



「フハハッハア! 完全復活だ!」

 魔剣と魔王が、ようやく一体化した。



 全身ローブ姿なので、正体は見えない。


 オレの脳が、彼の形状を正しく認識することを拒絶している。


 それだけ、凄まじい存在なのだろう。



「感謝するぞ、バルシュミーデの小僧よ! これで世界を我が手に」

「勘違いするな。オレはお前に加担したわけではない! オレの目的は……貴様の完全消滅だ!」


 魔法学園に魔王の死体がある以上、また生徒が襲われる可能性が高い。


 ならば、その根を断つまで。


 一か八かの賭けだ。

 しかし、負ける気はしない。


「お前は、知っているか? 『地上の太陽事件』を?」

「いかにも。一〇年前、魔物の大半が究極魔法によって消滅した話であろう? しかし、術者であるメイディルクスがおらぬ今、邪魔者はなし!」


 やはり、「あれはメイの仕業」と思われているのか。


 ならば、都合がいい。


「今、同じ現象を見せてくれよう!」

「なんと!? まさか貴様が!?」


 ようやく、気づいたか。


「当時のオレは、メイディルクスに守られていたんじゃない。メイを守ったんだ」


 だからこそ、メイはオレを慕ってくれている。


「あの頃の力を、オレは自ら封じた。オレは自分に、『殺さず』の誓約を設けた」


 過去の英雄から受け取った、サーベルを手に取る。


 この力があれば、オレは正気を失うこともない。

 力も制御できる。

 オレの力は更に増大するだろう。

 結界の力で、生徒たちにまで被害は及ばない。


 ただ、この技を使えば、今度こそオレは。


 学園よ、勇者よ、先輩たちよ。オレに力を貸してくれ。


 オレは全魔力を込めて、人工太陽と化す。

 その破壊力は、ツンの火球すら上回った。


「イカン、巻き込まれる!」

「どこへ行く気だ?」


 瞬間移動で逃げようとしたって、そうはいかない。

 サーベルの力によって粒子の塊となれるのだ。

 魔王のスピードごとき、たやすく追いつける。


「離せ! 貴様もろとも吹き飛ぶのだぞ! 命が惜しくないのか!?」


 この命など、百合の尊さに比べたら!


「究極奥義 【百合太陽リリー・ライジング】!」


 自身を人工の太陽と化し、邪悪を滅ぼす技である。


 本当は、いつでもこの奥義を出せた。


 ツンの取り巻きに取り付いたマント魔族を倒すときも、部室に魔物が復活したときも、魔王襲来の時にも。


 しかし、学園に被害が及ぶのではないかと躊躇ったのだ。


 学園長の作った障壁内なら、多少の被害で押さえ込めるはず! 


 輝け太陽よ。魔王を浄化せよ!


「ててええてててて、てえてえええええええええええ!」


 尊き百合の太陽に焼かれ、もはや魔王は言葉すら発しない。ただの灰と変貌を遂げた。


 これでいい。これでようやく、誰も悲しまない世界が。


 オレの役目は、終わった。もう、死んでもいい。


 いや、まだだ! 二人が!

 今のままではダメなんだ。

 ソフィもツンも、幸せになっていないではないか! 



 目の前にいる二人が!



「あれ?」


 オレは今、ソフィとツンの二人に手を握られている。

 

 そうか、この二人がオレに魔力を分けて、助けてくれたのか……。

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