最終章 さらば王子! 百合は永遠に!

百合芝居

「王子、わたしたちは国を追われました。もうどこへも行くところなどありません」

「ならば、作ればいい!」


 演劇内で王子に扮したソフィが、お姫様役のツンディーリアを両手で抱き上げる。


 今日は文化祭だ。


 我が百合テロ同好会の出し物は、演劇である。


 相反する国同士で惹かれあう二人の、禁断の愛がテーマだ。

 対立は決定的となり、王子と姫は絶望に打ちひしがれる。

 とうとう二人は全てを捨てて、別天地へ……という内容だ。


「見えるだろう。月明かりに照らされたあの島を。あれが新天地だ。二人はあそこへ行く。この船で!」

 セットの船に、ソフィは足を乗せた。


「さあ漕ぎ出そう! あの大海原へ!」


 セリフも決まり、緞帳どんちょうが下がる。


「尊い! 尊いぞ二人とも!」

 舞台袖で見守っていたオレも、二人へ拍手を送った。


 観客も、二人の堂々とした演技を称えている。


 文化祭の出し物として、「百合喫茶がいい」とオレは提案した。だが、「男女平等」を理由にあっさり拒否される。たしかに、客を選り好みしてはイカンよな。


「では演劇はどうだろう」とオレが発言すると、もう数日後には台本ができていた。さらに衣装も完成しているというハイスピードぶり。演劇部のサポートもあって、あれよあれよと演劇の準備は進んだ。


 ソフィの男役は手慣れたモノで、さすが普段からツンを相手にしているだけある。彼女は、台本にも若干の脚色を入れたらしい。


 不本意だったのは、オレが「意地悪な国王役」だったことくらいだな。あれは好かん。失脚するし。


「でも堂に入っていたでしょ?」とはソフィの弁だ。

「まったくだ。一番ウケてたぜ。情感がこもってるって」


 みんなしてオレをからかって、楽しんでいる!


 くう、納得いかん!


 確かに、モデルは家に帰るとダンベルを巻き込んでいるが!


 あの憎たらしい国王と同じにされたら、堪らんではないか!


「そうご立腹なさらず。王子の名演技は、わたくしも楽しませていただきましたわ」

「世辞などいらぬ」

「お世辞だなんて、ねえみなさま」


 オレが拗ねていると、ツンが百合部の面々に同意を求める。


「そうよ。結局あんたが全部いいとこ持っていくんだから」

「さすが王子だ」


 新入部員のライバラも、騎士役の鎧を着たまま賛同した。


「オレ、最後はお前に斬られるんだが?」

「斬られ役、名演技だった」


 やっぱり納得いかん!


「まあまあ。屋台にでも行きましょ。おごるわよ」

「むう。それなら」


 我がルビー組は、模擬店でワッフルの屋台をオープンしている。

 硬く焼いたワッフルに、生クリームを挟むのだ。

 トーモスの店で出そうとしている試作品だという。


「うむ。客足は上々だな」

「任せろっての」 


 とはいえ、ツンのクラスが受け持つ串焼きフルーツ店に、すっかり客を取られている。酸っぱいフルーツに、溶かしたアメを垂らして売るのだ。ライバラの故郷で、お祭りの時に売られる商品らしい。


「棒は食べちゃダメですよー」


 ただ、棒が尖っていて危ない。

 子どもが振り回そうとして、親に窘められていた。


「さっきまで英雄伝説の演劇をしていたから、決闘ゴッコが始まっているな」


 人も密集し始めている。

 これでは、ケガ人が出てもおかしくない。特に子どもは。


「そうだ。こういうのはどうだ?」

 オレは自分の店でワッフルを買って、ツンの店で焼きフルーツを頼んだ。串をもらわず、ワッフルに直接挟み込む。


「うむ、ウマイ!」


 想像以上の味だった。酸味の利いた焼きフルーツと、ワッフルの苦み、クリームの甘みが絶妙にマッチして、複雑に絡み合っている!

 ちょっとこれ天才じゃね? と思わず叫びたくなってしまうほどに、劇的なハーモニーであった。


「これぞ、百合買い食いリリー・テイクアウトだ!」

「即興にしては、いいアイデアなんじゃないか?」


 同じく試食したトーモスも、親指を立てる。


「うむ。では諸君、当店のワッフルで、焼きフルーツを包んでしまおうではないか!」


 さっそく、突貫工事を始めた。

 オレのクラスがやってる店と、ツンの店をくっつける。

 料金は合計額となるが、元値の段階で安い。及第点だろう。


 すぐさま、料理はほぼ売り切れ寸前までに至る。


「さすがだぜ、ユリアン。商売っ気あるんじゃね?」

「いやいや……むう!?」


 黒ギャルダークエルフの三人娘が、会場に来ていた。


 魔王と対峙したことのあるオレたちに、緊張が走る。


「な、なんの用だ?」


「えー? そのワッフル買いに来たんですけどー?」

 気の抜けた声で、ギャルたちは反応した。


「よせライバラ。本当らしい」


 刀に手をかけていたライバラを、オレは制する。


 ギャルルからは、魔王の気配か完全に消えていた。

 第一、彼女は魔剣を所持していない。


「この魔法学園には、どのような用件で?」


「ウチね、今夜のダンスパーティにゲストで呼ばれたの。魔族と和解したって証として」

 ワッフルを食べながら、ギャルルは語る。


「もう、そこまで話が進んでいるんだな」


 どうも、バルシュミーデ主導で、人間と魔族の和解が成立したという。

 我が母のおかげだといっているが、父王も一役買っているのだろうな。

 長年続いていた人と魔族の諍いを納めるとは、さすがだと認めざるを得ない。

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