百合王子、怒りの禁断奥義!

「王子、これで借りは返した」

「助かったぞ」


 ライバラがいてくれなければ、オレは首をはねられていてかもしれない。


「後はオレがやる」

「王子!」


「心配無用だ」

 オレは、ライバラを下がらせる。

「これで終わりだファフニート! 貴様に、百合を語る資格はない!」


「百合を愛でるのに資格など、必要なし!」

 断たれたトンファー型カギ爪を、ファフニートが再生させた。


「いいか。百合とは自然発生するモノだ。自然と巻き起こる偶発的な百合にこそ、ロマンがあるのだ。お前のように、イヤイヤ強要するモノではない!」


 このドラゴンは、何も理解していない。いかに百合が深い存在か。


「しかし、相手は手強いぞ!」

「まあな」


 堅牢な懐に飛び込むのは、勇気が要りそうだ。


「と、普通の人間は考えるだろう」


 だが、オレは百合王子。百合魔法の前に敵はない!


 再び百合障壁を、コーヒー色の雲を呼び出した。


「また雲のバリアか。さっき通じなかったことを、もう忘れたのか? 死ねえ!」

 ファフニートが、トンファーで突きにかかる。


 ご丁寧に、わざわざ敵はツッコんできてくれるじゃないか。これから何が始まるかも知らずに。


「想定内の動きだ! 【百合粘着リリー・アドヒジョン】!」


 相手のトンファーにも、仕掛けを施す。こちらが防げないなら、相手の武器に雲を付着させてしまえばいい。


 賊もオレの意図に気づき、綿菓子状にへばりついた雲を削ぎ落とそうとする。しかし、粘り気のある雲に悪戦苦闘していた。


「おのれ。しかし、この程度の攻撃で私を倒せるなど」

「もちろん、思っていないぞ。お前には、最強最悪の奥義を喰らわせてやる!」


 コイツは浅い。ただかわいい女子がいればいい、ただの幼女趣味である。いや、幼女好きの風上にさえ置けないヤツだ。実に思考が短絡的すぎる。


「お前を一生、百合を謳歌できない世界へいざなってやる! オレの禁断魔法で!」


「禁断魔法だとぉ?」

 ギャハハと、ファフニートが高笑いをした。


「頼みの百合魔法も利かず、何が奥義だ? 禁断の術だ? 笑わせてくれる」


 そういってバカにできるのも、今のうちだ。

 

 お前にとって、最も恐ろしい技をお見舞いしてやる。


「ライバラ、妖刀を貸せ!」


 合図をすると、ライバラはオレに妖刀を投げ渡した。


 できれば、この技は使いたくない。

 オレの気分まで影響が及ぶからだ。


 コーヒー色の雲を、オレの周辺に呼び出す。


 十分な濃度になったところで、オレは妖刀を地面に突き立てた。


「百合……反転!」


 オレは、魔力を解放する。

 コーヒー雲が、異質な形を取り始めた。


「ぬうう、これは!?」

 相当の危機を感じ取ったのだろう。

 ファフニートが本能のままに急ブレーキをかけた。しかし。


「もう遅い!」


 茶色い雲は、腕の形となってファフニートの翼を掴み取る。


「は、離せ!」

「ムダだ。こうなった以上、オレの意志でもどうにもならん!」


 百合成分を反転させてしまったのだ。地獄のショーが始まる。


「開け冥界の門! 薔薇花園マッスル・キングダム!」


 オレは、両腕に力こぶを作った。

 同時に、コーヒー色の雲が分散し、マッチョな体型のオトコたちとなる。


「ぎいい!」


 群れを成したマッチョ雲が、ファフニートを取り囲む。

 フンフンと言いながら、ファフニートを抱きしめた。


「ひいいいいいい! 寄るなあ、暑苦しいいいっ!」


 武器を失ったファフニートに抗う術はない。


 そもそも、オレ自身にもこのマッチョ共は制御できないのである。オレのコントロールを離れてしまったから。


 男色に偏見はない。

 だが、幼女百合好きには正反対の属性だ。

 さぞ、キツい花園だろうて。


「汗の臭いがぁ! ヤロウのゴツゴツ感が気持ち悪いぃ!」


 百合の悪党にとって、マッチョは対極に位置する存在だ。

 やはり、苦手だったらしい。


「どうして、貴様がマッチョ魔法なんぞ!」

「オレの父親の属性なのだ」


 オヤジを嫌っている最大の理由は、あのマッチョ思考だ。

 本質的に、筋肉的発想はオレの求める考えではない。

 百合の天敵とも言えた。


 そのため、血筋によって会得していたマッチョ魔法は「禁じ手」として、長年使用していなかったのである。


 とはいえ、同属性の敵が相手なら、使わざるを得ない。


「おのれ。私が最も忌み嫌う魔法で倒されるとは!」

「質問に答えたら、もっと楽に倒してやらんでもない」


 絶望に満ちていたファフニートの視線が、オレに向けられた。


「お前のバックには、誰がついているのだ?」


 解放を条件に、ファフニートを脅す。


 こうしている間にも、マッチョはファフニートをグングンとプレスしていた。もはや、息もできまい。


「さあさあ、もう時間がないぞ。百合に挟まれるではなく、マッチョに挟まれて死にたくはあるまい」


 まあ、こんなヤツと協力する賊の目星は付いているが。


「へへ。教えてたまるか! 私も地獄に落ちるが、お前たちも茨の道を進むのだ! のたうち回るがいい!」

 いさぎよく、ファフニートはマッチョの死神に押しつぶされる。


「てえてくねえええええ!」


 ファフニートは、潰されて消滅した。

 百合の味がしない汗臭い世界へと旅立ったろう。  


「貴様には、男だらけの楽園がお似合いだ」

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