王子危うし! 百合魔法が通じない!?

「よく頭の回るガキだ。王子なんか辞めて、探偵にでもなればいい」

 教師が、皮肉めいた笑みを見せる。


 現行犯逮捕されて、何を強がっているのか。


「では聞こう。どうして彼が、妖刀を携帯しているとわかった?」

「普段から持っているだろう?」


 すっとぼけやがって。何を言うか。


「この妖刀は、つい最近試験で手に入れたモノですよ? あなた方に報告がいきましたか?」


 これは調査済みだ。

 担任以外、特に把握している者はいないという。

 ツンが証明済みだ。 


「裏取りもできている。ライバラは辻斬りじゃない。辻斬りからあの子たちを守ったんだ!」

「嘘だ。あのとき、彼はたしかに」


 教師は反論しようとした。


「本当です!」


 ソフィに肩を抱かれて、二人組の女性が現れた。

 以前辻斬りに襲われた女性だ。


「あのときは、彼が助けてくださったのです」


 もう、言い逃れはできない。


「おのれ、こうなったら街ごと吹き飛ばしてくれる!」

 歴史教諭が、跳躍した。


「先生方は市民を安全な場所へ!」


「無用です」

 学園長が、足を一つ踏みならす。


 ハニカム状の防御フィールドを半球ドーム型に形成し、オレたちを包んだ。


「痛って!」

 飛び上がっていた歴史教諭が、ドームに頭をぶつける。


「あなた方を囲んだ方が、街にも被害が出ません。思う存分やりなさい」


 これは、ありがたい!

 オレたちの性格を、よく把握している。


「だったら、生徒が死ぬ様をそこで見ているのだな!」

 歴史教諭が服を破り捨てた。

 サイズは人間だが、黒いウロコに覆われて翼まで生えている。

 亜人、それもツンと同じ、龍人族だ。


「ドラゴン?」


「そうだ。私こそ、お前が倒した魔物の本体、ファフニートなり!」

 魔王の側近のおでましか。


 ファフニートの両手に、ヒレ状の刃が突き出る。

 どうやら、あの刃物は身体の一部だったらしい。


「学園で起きていた、一連の騒動は貴様の仕業だな?」


「そうだ。すべて私が手引きした。人間を騙すなんてチョロい。さすがに大きなトラブルまでは起こせなかったが、学園を混乱させるにはちょうどよかった!」


 彼は魔王すら利用して、世界を征服しようとしていたようである。


「我ら魔族にとって、驚異なのは魔法学園だった。勇者の後継を育てる学園が、我々にとっては邪魔でしかない」


 学園を失墜させる作戦は、ことごとく失敗してきた。

 勇者最有力の存在は消せたが、魔族側のダメージも大きく、ようやく立て直したらしい。


「被害を街にまで及ぼしたのが、運の尽きだな!」


「やかましい! お前たちさえいなければ、『幼女百合専門レストラン』が完成したというのに!」

 叫びながら、ファフニートがオレに刃を振り回す。


 なんたる不穏な響きだ。


「ミルクの匂いに囲まれて、私は尊い世界で暮らすのだ。そして小さき百合の間に挟まれて、フワッフワの感触を永遠に堪能する」


 聞くに堪えない淫靡な世界である。


「そんなディストピアを構築するために、魔王を利用したのか?」

「魔王は手ぬるい! 我が楽園成就のため、あやつには捨て石になってもらうはずだった。なのに、たやすく負けおって!」

「不完全な状態で送り込むからだ」

「あれは、魔王が功を焦ったからだ! 私のせいではない!」


 どちらにしても、同じことだろうに。


「正体を知られたからには、私自らが出向くしかない。王子、今日が貴様の最期だ!」


「突破できるか? 【百合障壁リリー・フィールド】!」

 コーヒー色の雲を全身に形成し、鉄壁のガードを作り出す。

 オレも攻撃できないが、相手にとっても厄介のハズ。


「切り裂くなどできまい! おお!?」

 予想外の攻撃に、オレは反応が遅れる。


 トンファーを激しく振り回しながら、賊はオレのガードを切り裂いた。

 クッション性の高い防御壁を、こうも簡単に。


 幸い、オレはノーダメージだ。とはいえ、どこまでもつか。


 ファフニートの凶刃が、オレの腕をかすめた。

 上腕が切れて、出血する。


 百合魔法が、通じない?


「戸惑っているな? 百合魔法といえど、属性魔法に変わりなし。波長の合うモノ同士にぶつけても、無意味!」


「お前も、百合魔法使いか」


 ファフニートも、百合を愛でる者だ。

 本質的には同じ思考の持ち主というワケか。


「たとえ百合を求める者でも、オレとオマエでは決定的に違う!」

「同じだよ! 貴様も貪欲に強欲に世界を百合に染めることを楽しんでいる!」


 オレは、コイツなんかとは違う! 


「王子、伏せてくださいませ!」

 ツンが砲撃で、フォローをしてくれた。


 しかし、相手は余裕の表情である。

 必殺の砲弾すら、ファフニートは両断してしまう。

 さすが、最上位の魔族か。


 

 とはいえ、無傷とまではいかない。

「おのれぇ! ミケーリの子孫だけあって、やるな!」

 ツンの攻撃を斬り捨てた刃物が、溶けた鉄のように泡立っていた。


「だが、ムダなこと! とどめだ!」


 オレのノドへ、ファフニートの刃が接近しようとした。


 防御は間に合うか? ギリギリだろう。

 しかし、差し違えてでも!


「王子ムチャよ!」

 ソフィの叫びが聞こえる。


 だが、やらねばならぬ。


「斬!」


「っごおおお!?」

 刃がオレを斬る前に、ファフニートの武器が切断される。


「ぬううう! 妖刀使いめ!」


 オレをかばうように立ち塞がるのは、ライバラだった。

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