百合王子の推理

「わたくしたちもいましたわ!」

 当時の状況を、ツンが話した。

 直接治癒したソフィが証言者でないあたりが、謙虚である。


「それは、知っています。ケガ人を治療をなさっていたと。学校へお礼にいらっしゃいました」


 ツンたちに、学園長が微笑みかけた。


「王子、あなたも事件とは無関係でしょう。犯行の後だそうですし」

「それはどうも」


 ようやく、場を落ち着かせることに成功した。

 大事なのは、ここからである。


「当時の状況を見た感じでは、ライバラに犯行は無理です。今から説明をしたいんですがね?」


「ふむ。聞かせてもらいましょうぞ」

 興味深そうに、教頭が尋ねてきた。


「まず第一に。彼の居合いは、通り魔向きじゃない」


 ライバラの居合い斬りは、全身の力を最大限に発揮する。

 そのため、足の踏ん張りが欠かせない。


 しかし、通り魔行為は足の速さが必要だ。

 居合いの達人であるライバラとは対照的な能力である。 


「その二。オレはこの切れ味を持つ存在を、よく知っているのでね」


「なんですと?」と、教頭がヒゲを撫でた。


「本当です。実際オレは、そいつと一戦交えた。つい最近の話だ」


 詳しい内容を、教頭に教えてやる。


「ふむ。学園内に魔物が出没した話は、我々も聞き及んでいますぞ。しかし残念ながら、それだけでは彼の容疑が晴れたとは言えませんな」


 ダメか。


「何より、ライバラくんがその妖刀を持って、店をうついていたのを目撃した人がいたそうです!」


 声を荒らげながら、教師の一人がそう断言する。

 確か、歴史の先生だったか。


 妖刀を、ねえ……。


「はっきりしましたよ、教頭。ライバラは犯人ではない」

「ほう。では、誰だというのですぞ?」

「それは、後ほどわかるでしょう。明日の夜までには」


 断言して、オレは授業へ向かう。


「おいユリアン。大丈夫なのか? あんな宣言までして」

「心配はいらぬよ、トーモス」

「まるで、犯人が分かったような口ぶりだな」

「わかったのさ」


 オレ以外の生徒全員が、足を止めた。


「あなた、本気で言っているの? もしデマだったら、ライバラくんがただでは済まないのよ?」

「心配ない」


 相手をあぶり出すため、まだ秘密にしておくが。


「だからライバラ。お前の容疑は、必ず晴らす」


「……感謝する」

 ライバラが、教室へ。


「ユリアン王子」

「なんだツン?」


 みんなが教室に戻る中、ツンだけがドアの前に立ち止まる。


「ただの百合バカだと思っていましたが、あなたは弱い人に手を差し伸べる方なんですね」

「オレは、そんなできた人間ではない」

「ソフィとも話していたんです。いつもありがとうございます。王子。では、ライバラさんのことはよろしくお願いします」

「任せておけ」

 


 学校を終えて早々、オレはさる人物に手紙を書いた。

 メイを通して、そいつの家に忍ばせる。

 明日の夜遅くには、犯人はオレのエサに気づくはずだ。



 シビルと食べに行った喫茶店に、オレはあらかじめウワサを流していた。

「最強の百合シェフ来国!」との一報を。

 今夜、その百合シェフが仕込みをすると。


「えっと、坊ちゃま。マジでこんな作戦で通り魔が捕まるんですかい?」

 喫茶店の店主が、オレを心配した。


「店に迷惑は掛けない。もし器物破損があったら国家予算で弁償する」


「そんなのいいんでさあ。街の平和が保たれるなら! ですが、坊ちゃまにもしものことがあったら!」

 ここに来て、オレの心配か。


「オレが好きでやっているのだ。安心するがいい。まだくたばるつもりはないさ」


 友を守れるなら、オレは何も怖くない。

 もっと百合を味わって、死にたいからな。


「来たな」

 黒い頭巾を被った細い男が、刀を携えて現れる。


 ヤツは、店長ではなく、最強のシェフ……に変装したオレめがけて襲いかかってきた。


「そうはいくかって!」

 ブロードソードで、トーモスが刃物を弾く。

 だが、トーモスの攻撃は当たらない。


「でたあ!」

 腰を抜かして、店主が尻でズリズリと移動した。


「やべえぞユリアン、コイツ手強いぜっ!」

「トーモス、深追いするな。店長を頼む!」

「任せろ! でも、一人で平気か?」


「心配ない。心得ている!」

 ソードを突き立てながら、トーモスが後ずさる。


「賊め、オレが相手だ!」

 店主をトーモスに任せて、賊の前に立ち塞がった。


 相手が振り回す刀は、トンファーのような形状である。

 威嚇なのか、素早く振り回す。


「甘い!」

 オレは聖剣で、覆面の攻撃を受け止めた。


 ヤケになった賊が、オレに直接突きを浴びせてくる。


「ぬん!」


 精彩を欠いたなら、相手の動きを読むのはたやすい。

 腕を取って、脇固めに。


「くそお!」

「辻斬りの、正体見たり!」

 賊の被っている覆面を、オレは剥ぎ取る。


「やっときたな。先生!」


 やはり、覆面の正体は歴史の先生だったか。


「ユリアン王子、無事?」


 ソフィたちが、先生たちを連れて駆けつけてくれた。


「やや、先生が辻斬りを?」


 もっともライバラを疑っていた教頭が、顔をしかめる。


「どうして、私だとわかった?」


 隠す気をなくした殺意を、歴史教師はオレに向けてきた。


「あのとき、『ライバラが妖刀を所持していた』と話したのは、あなただけだった」

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