百合王子、仲間の疑惑を払拭する
予想通りの言葉が飛んできて、オレは一瞬答えに迷う。
さっき、追求するまいと決めたばかりなのに。
「なぜ、そう思う?」
「だってよ、あんたはおれを」
向こうから、尋ねてくるとは。
頭が、未だに整理できていない。
「知らんな。オレはお前に似た人物を見かけただけだ。お前を追っていたわけじゃない」
適当にごまかす。
「お前だったら、オレが声をかけたことに気づくはず。しかし、そいつはオレを無視してどこかへ消えた。だから、お前じゃない」
「そうか。そう、だよな」
視線を合わせず、ライバラは返答する。
「おれは居合いを使う。東洋の刀で斬られたって聞いて、おれの所に来たんじゃ?」
「刀を持っているヤツは、そんなに数が少ないのか?」
「扱いが、難しいから。冒険者でも、利用者は数えるほどしかいない。二人いれば上等では?」
ならば、絞り込みは容易いだろう。
「オレには、お前が辻斬りなどするヤツではないと確信している。絶対に」
「どうして、そう言い切れる?」
「チエリ嬢を悲しませることなど、お前はしないからだ」
見ていればわかる。
ライバラからは、血の臭いがしない。
人殺しというのは、もっと目や体臭、身にまとう気迫からして違う。
ライバラに、そんな後ろ暗い気配はしない。
オレから逃げたのは、きっと別の理由からだ。
「他に扱えそうな者について、身に覚えは? 特殊なギルドなど」
「すまん。それ以上は力になれん」
「十分だ。情報提供に感謝する」
今度こそ、オレは店を出る。
「王子!」
上から、鈴の音のような声が振ってきた。
見上げると、店の二階からチエリ嬢が顔を覗かせている。
何かを訴えかけようと、目が物語っていた。
「シビルが心配していた。用心なさい」
「ありがとうございますと、お伝えくださいませ!」
その後も、チエリ嬢は何か言いたそうにしている。
しかし、彼女はジッとオレを見た後、「おやすみなさい!」とだけ告げて窓を閉めた。
ピシャリという音だけが、オレの中でずっと余韻として残る。
テスト休み明け早々、トーモスが血相を変えて教室に入ってきた。
「大変だ。ライバラが職員室に呼び出されたぜ!」
「くぅ!」
オレは立ち上がる。
「事情を知っているみてえだな?」
トーモスも、飲食を扱う商家の息子だ。
辻斬りには黙っていられない。
「実は」
オレは、この間に起きたいきさつを話す。
「話だけ聞きゃ真っ黒だけどよ、あんまりだぜ。ライバラの事情も知らずに決めつけて。あいつがそんなことするわけ」
「もちろんだ。行こうではないか」
ライバラは百合部ではない。が、戦友だ。放ってはおけない。
ソフィとツンも、一緒に来た。
「みんな、ついてきてくれるのか?」
「もち。お前だけにいいカッコさせるかよ?」
トーモスが、サムズアップを決める。
「正直に話しなさい!」
職員室では、先生たちに囲まれて肩を落とすライバラの姿が。
「犯行現場にキミがいたことは、街の誰しもが目撃しているんですぞ!」
「先生、あまりライバラを刺激しないでください!」
ツンの担任であるマッチョの先生が、受け持っているライバラをかばう。
「わかってますぞ、それは!」
もっとも強い圧で詰め寄っているのが、教頭だ。
「アタシだってね、生徒を疑いたくはありませんぞ。ですが、あらゆる証拠がライバラくんにとって不利すぎるのですぞ」
デコを煌めかせながら、カイゼルひげの先を弄ぶ。
学園長は、ことの成り行きを静観していた。
どっちの味方にも付かず。
しかし、固めた拳からは、不甲斐ない学園側への怒りがビリビリと迸っていた。
「本当のことを話してください!」
先生たちが、よってたかってライバラを責める。
「おれはやっていない」
壊れた機械のように、ライバラは何度もつぶやく。
「しかしですな、キミがあの現場から立ち去ったことは、どう証明するのですかな?」
「それは、言えない」
「ますます怪しいですぞ! 真実を話すまで、帰すわけには行かぬですぞ!」
カイゼルひげをピクピクさせながら、教頭がイヤミったらしくライバラを脅す。
「待つのだ、先生方。彼は通り魔ではない」
「なんですかな、キミらは? よってたかって! もう授業は始まっているのですぞ!」
「友人がピンチの時に、授業なんぞ受けられるか!」
オレが凄むと、教頭がたじろぐ。
しかし、咳払いをしてなんともないフリをした。
「そのスピリッツはよしですな! ですが、これは学園側の問題ですぞ。問題ある生徒一人のために、キミらの人生まで棒に振ることとなれば、我が校は何のためにキミらを教えているのか」
「生徒一人も助けられないなら、オレはあなた方から何も学んでいないと言うことになる!」
「ああー。いやぁ、はいい。おっしゃるとおりで」
教頭の理屈を理屈で返し、オレは学園長に向き直った。
「学園長。オレもあのとき現場にいました」
「ええええ!?」
大げさに、教頭がのけぞる。
どうしてこうもリアクションが大きいのか?
オレの話を聞きながら、教員全員が顔を向け合う。
「犯行場所に立っていただけで疑われるなら、どうぞオレも疑ってくださいよ!」
「ユリアンくん……キミまで」
「御託はいい! どうなんだっ! オレは怪しいか!?」
渾身の力を込めて、オレはテーブルに拳を叩き込む。
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