尊き援護

「怯むな。応戦せよ」

 魔王が再び、モンスターに指令を送った。


 サーベルタイガーの牙が、ツンに襲いかかる。


「ふん! 飛んでいきなさいませ!」


 槍のような大きい牙を、ツンは素手で掴む。

 そのまま、スープレックスで崖に投げ飛ばした。


 二匹目のタイガーは、大きく口を開けた刹那にソフィの剣を食わされる。 


「退け、二人とも。オレのことはいい!」


「いいわけないでしょ!?」

 頭に角を生やさんばかりに、ソフィがオレの無謀を責めた。

「あんたが死んだら、ヴェリエとバルシュミーデとの関係もパーなのよ!」


「そうですわ! パワーバランスが乱れて、魔族に攻め込まれてしまいます。ミケーリなんて、あっという間に魔族側へと寝返ることでしょう!」


 随分と、現金な理由を述べる。


 まあ、それだけが理由じゃないって、わかっているが。

 こんなときに、軽口を言うような二人じゃないってな。


「それにね。あんたがいなくなったら、百合部はどうするのよ!」

「せっかくお作りになったのでしょ? わたくしたちはもっと、イチャイチャしたいです!」


 こんなときに、二人ともなんて尊い表情を……なんて言っている場合じゃない!


「よせ。二人で敵わなかったんだぞ!」


 オレが制止しても、ツンは不敵な笑みを浮かべた。


「確かに。でも、バラバラに攻撃したからですわ」

「束になって掛かったら、どうなるかしら?」


 背中を寄せ合い、ソフィとツンが構える。


「キミたちまで失ったら!」


 オレの言葉を、ソフィはキッと鋭い視線で斬り捨てた。


「死にになんて行かないわっ! 王子もフォローするの!」


 そうかよ。オレも含まれているよな。


「三位一体ですわ! 我々は、全員でチームですもの!」


 ツンが、大砲のエネルギー残量をチェックした。

 しかし、チャージにはまだ至っていない。

 相変わらず、ツンは抜けている。


「ですがこの武器、どうにかなりませんの?」

「そういえば、ツンよ。その大砲だが、グローブ状の持ち手なんだな?」


 引き金を保護するガード部分が、肘を曲げている腕の様に見えたのだ。


「はい。ゴーレムみたいで……ん?」


 試しに、ツンが大砲を分離させてみた。

 引き金のガードだと思っていた部分が、カチッと外れる。


「なるほど、こういうことですね? なにか、使い方がわかってきましたわ!」


 二分割した大砲を、ツンが両の腕・脚にプロテクターのごとくはめ込む。

 大砲と思っていたのは、ヨロイだったらしい。


「やっぱりですわ! これは、こうやって使うのですわね? 王子、助言感謝致します!」

 シャドーボクシングで、ツンは感触を確かめた。


 魔剣を振り回し、魔王ギャルルの方もやる気になったらしい。


「インファイト勝負ですわ、魔王のお嬢さん!」

 一瞬で、ツンは魔王の懐に飛び込む。アッパーカットこそ避けられたものの、相手を驚かせることには成功する。


 内蔵された魔力を、速度に変換したようだ。


 相棒のソフィも、ウルトラレア装備に活路を見いだそうとしているらしい。


「このアーマーは何ができるの? 防御するだけじゃないわよね?」


 ソフィが念じると、アーマーが身体から離れた。


「桜花剣に、アーマーが集まっていく!」


 アーマーが、光線剣を覆う。

 最初からそういう武器だったかのように。


 顕現したのは、羽根の生えた剣である。

 翼をはためかせる様は、まるで生きているような。

 いや、生命を持っているのだ。温かい魔力の波動を感じる。


「これを、魔王に撃ち込めばいいのね? やあ!」

 縦一文字に、ソフィは剣を振るった。


 翼が羽ばたき、魔王へと飛翔する。

 必殺の力を振るっていながら、その姿は浄化の神秘性を漂わせていた。


「があああ!」

 魔王も、本気にならざるを得なかったようだ。魔剣を両手で、支えるように掴んだ。


 翼状の衝撃波と、魔剣とがぶつかり合う。


「なんと、ぎいい!」

 歯を食いしばり、魔王も耐えている。


 一瞬、聖剣の方がギャルルを押す。しかし、甘い。


「そんな!」


 ソフィの全力を掛けた攻撃も、魔王の剣戟によって弾き飛ばされる。


「なんという、威力。しかし、まだ、未熟! 魔王に、傷一つ、付けられぬぅ!」


 魔王も、無傷とは言わない。大きく、肩で息をしている。多少は、消耗しているらしいが。


「無謀なり、バルシュミーデよ。自らの意志で、余の提案を退けるとは」


「貴様の手なんざ借りずとも、人々は百合で幸せになれる!」


 意味が分からないとばかりに、ギャルルは冷たい視線を向けた。

「この光景を見よ」


 オレは、周囲を見渡す。


 未だ、状況は芳しくない。


「人を恐怖によって、縛り上げる。それで済むこと。絶望こそ、人を人たらしめるに相応し――」

「まったくもってナンセンスだなぁ、おい!」


 人が見たら、オレは魔王以上に邪悪な笑みを浮かべていることだろう。


「すべての人間が、恐怖にたやすく屈するとでも思うのか? そんな短絡的思考だから、お前は負けたのだ」


 百合魔法で、迫り来る魔物たちを浄化していく。


 オレには仲間がいる。先生たちも、フォローに回っているのだ。


 だが、生徒全員を守るには荷が重すぎる。動ける数が、少なすぎた。


「こうなったら!」

 無防備のまま、オレは詠唱を始める。


「王子、どうするの?」


「決まっているだろう。頭数を増やすんだ」

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