ギャル魔王の驚異と、百合王子の意地
「貴様も、見た目はギャルにしか見えんが? 自分は無害ですアピールか?」
「この見た目は動きやすいのだ。潜伏にも役立つ」
オレの軽口にも、ギャルルは動じない。
さすが魔王だ。
オレだって、言葉で相手を翻弄することくらい造作もないのだが。
事実、オレが睨んだだけでモンスターの一部が逃げていく。
「自分で正体を晒しては、無意味だな」
もっとも、見る人が見たら気配でわかってしまうが。
メイとか。
「王子、加勢を」
「無用だメイ……ディア先生! 残った生徒を頼む! ここは、オレに任せろ!」
思わず、メイを呼び捨てしかけた。
咳払いをして、魔王とにらみ合う。
「よいのか? 偉大なる冒険者の力を借りなくて。余はいつでも相手になってやろうぞ?」
魔王ギャルルが、手招きをする。
「やけに挑発的だな」
オレは、突撃しようとするメイを目で制した。
「ふん。腰抜けが」
「その割りには、ホッとした様子だな、おい?」
クククと、オレは邪悪に笑う。
「安心しただろう、魔王! お前が恐れている冒険者殿は、人命救助で必死だ!」
ギャルルの眉が、ピクリと動いた。
「その減らず口を二度と聞けなくしてやる。かかれ!」
オレに差し伸べていた手を引っ込めて、魔王ギャルルが号令を掛ける。
ガイコツの騎士が、ゾロゾロと押し寄せてきた。
狙いは、精神を汚染されて立ちすくんでいる生徒たちである。
トーモスとメイディアが、怯えている生徒たちをカバーに向かう。
「お前らも魔法学校の生徒だろ? 立って戦え!」
学友たちに向けて、トーモスが呼びかけた。
「あかん。強力な魔力で、精神が押さえ込まれとる!」
どの人々も、目に覇気がない。
身体を震わせ、縮こまるばかり。
「大将を倒せばいいのよ!」
桜花剣を発動させ、ソフィが鬼の形相で魔王に剣を振るう。
「待てソフィ、不用意に近づくな!」
「今動かなくて、誰が魔王を倒すのよ? 覚悟なさい魔王!」
オレの制止も聞かず、ソフィが魔王ギャルルに剣を打ち込む。
「ぬう、ヴェリエの小娘、強くなっている!」
最強装備の加護もあって、魔王も攻めあぐねている様子だ。
とはいえ、相手が相手である。
ソフィは、軽くいなされていた。
優等生でさえ、ここまで差があるのか。
ウルトラレアの装備がなければ、瞬殺されていただろう。
「どきなさいませソフィ。行きます!」
ツンディーリアが、大砲を腰に構えた。照準を魔王に向ける。
龍の口を模した発射口が、上下に開く。
瞬間、「ズウン」という重い音が鳴った。
広範囲のブレスが、発射口から噴き出す。
ブレスは、魔王をモンスターもろとも巻き込んだ。
「きゃああ!」
あまりの勢いに、ツンディーリアの方が吹っ飛んでしまう。
調整が甘すぎたのだ。
「ツン!」
身を挺して、ソフィがツンを身体で受け止める。
「大丈夫?」
「ええ! ソフィもよく無事で!」
モンスターの群れは、あらかた灰になった模様である。
それ程までの攻撃を受けたにもかかわらず、魔王は焼け野原に一人立っていた。
「ならば……あれ、どうして!?」
いくらツンディーリアが力を込めても、大砲はさっきのように動かない。
「クールダウン中ですわ。しばらくは使えないようですわね」
「再起動するまで、私から離れないで!」
円を描くように動きながら、ソフィがツンをカバーする。
同時に、ツンの方もソフィの背中を守っていた。
愛する人をかばい合う百合二人の尊さ……いや威圧感に、魔物も近づけないらしい。
しかし、どうする?
魔物の数は減っているが、こちらも戦意喪失者が多すぎた。
戦況は劣勢だ。
「余を退治した聖女バルシュミーデの小僧よ、おとなしく我が魔王の軍門に降れ。今なら、悪いようにはしないぞ? 兵も下げてやろう」
確かに、今は押されている。
引いてくれるのはありがたい。
とはいえ、それはオレが魔王に屈したらの話だ。
「どうして聖女の血を持つオレが、貴様なんかに従わねばならん?」
「貴様、今の状況が気に食わぬのだろう?」
鋭いな。オレの境遇を見抜いていたか。
「ミケーリとヴェリエ両名に言い寄られて、貴様は心底ウンザリしている」
よく調べている。
「だとしたら?」
「余と組めば、両方とも蹴散らせるぞ」
オレに向けて、魔王が手をかざす。
蠱惑的な、黒い爪をきらめかせた。
コイツと手を結んだら、オレの魔力もあの爪のようにどす黒くなってしまうのだろう。
「世界の改革に、余が手を貸してやるというのだ。感謝するがいい」
「ふざけるな。何が改革だ」
さっきまで笑みを浮かべていた魔王が、真顔になる。
逆にオレは、奴の提案を鼻で笑った。
「オレの目的は、手を血に染めず、誰の血も流さずに世界を変えるということだ。貴様のような力押しでは、世界を変えることはできても、人の心まで動かすことなどできまい!」
「愚かな。ならば死ぬがよい」
魔王ギャルルが、手をかざす。
紫色の砲撃が、オレに襲いかかる。
ガイコツ剣士たちが、トーモスたちの攻撃をすり抜けてオレに押し寄せてきた。
前方には闇色の巨大火球、両サイドからガイコツの軍勢だ。
さばききれるか?
しかし、ファイアーボールは桜色の軌道によって真っ二つに。
ガイコツ共は、オレの眼前で破壊される。
オレは、何もしていないのだが?
「王子には、指一本!」
「触れさせません!」
ソフィとツンが、オレをかばうように立ち塞がる。
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