百合王子、驚異のパワーアップ!?

「王子、無事なの!?」

 空間を切り裂こうとしてか、ソフィが賢明に剣を振り回す。


 しかし、何の反応もなし。見えない壁に跳ね返された。


「なんとかな。しかし、ここはどこなのか?」


 立ち上がって、周辺を確認する。

 どうやら、全員がそれぞれ別空間に閉じ込められたらしい。


 こちらからも、ソフィたちと接触を図ろうとする。

 だが、見えない壁に阻止されて先に進めない。


「宝箱じゃなくて、部屋そのものがトリックだったとはな。見落としていたぜ」

「ごめんなさい、みなさん」


 地べたに腰を落とし、ついんずが頭を下げる。


「気にするな。誰にもわからんかったのだからな。出口はあっちか。出られる可能性は低いが、行ってみよう」

「みんなバラバラになるけれど、いいの?」


 一瞬だけ、ソフィの視線がツンディーリアに。


 偶然か。ツンディーリアの方も、忌々しげに透明な壁をバンと手で叩く。


 ああ、尊い。離ればなれになっても続く友情とは、かくも。


「にらみ合うなって、二人とも」


 トーモスの言葉に、オレは現実に引き戻された。



 どうやら、トーモスは女子同士が火花を散らしているように見えたようである。距離的に、ついんずを挟んでいるためか。


 ナイスだトーモスよ。この尊さはオレだけのモノとなった!


「まてよ。このシチュエーションこそ試練と言えぬか?」

「言えてるわね。自分の力だけで切り抜けろってことかしら?」

「うむ。ソフィの言うとおりだ。これも試練なら、きっと突破口はあるぞ」


 未知なる世界が相手では、オレの百合魔法も作用するかどうか……。


「オレだけが、犠牲になっても構わん。たとえ、一人になっても脱出するんだ」


「そんな、王子!」と、ツンディーリアがオレに大声で呼びかける。


「いざとなったら、メイドを呼ぶ。行くんだ」


 本当に最悪の事態になったときだが。


「すぐ戻るから、持ちこたえなさいよ!」


 ソフィは、立ち尽くすツンディーリアの腕を強引に引っ張った。


 さて、どうするか。


 段々と、景色がぼやけてきた。

 いよいよ本格的なダンジョンへと変貌を遂げたらしい。

 いったい、どこまでが真実でどこからがウソなんだろう?


 先には進めそうだ。暗い中を突き進むしかないか。

 これも防犯装置の一環だとすれば、とんだ泥棒よけだ。


「また、鍾乳洞じゃないか」


 オレは再び、開けた道に出る。


「ワープエリアか。なるほど」


 さっきの部屋から、瞬間移動で地下へ移動したのか。



 オレに何をさせる気だ?


「なあ、そこにいる人物よ?」



 目の前に、冒険者風の人影が立っていた。

 ボロの上下をまとい、みすぼらしい。

 しかし、手にする得物からは強い魔力を感じる。

 襟の長いコートで全身を覆って、つばの広い帽子を深く被っていた。

 まったく、顔は見えない。


「新たな希望が欲しければ、汝の力を示せ」

 謎の冒険者が、サーベルを抜く。


「勝負か。いいだろう!」


 冒険者とオレが、同時に動いた。


 サーベルの突きをかわし、ショートソードでノドを狙う。

 こいつは幻影だ。危険な攻撃を出しても支障はない。

 

 ソードには魔力を付与してある。

 不確定存在にもダメージが行き渡るはずだ。


 ソードが、首筋にヒットした。

 血液ではなく、瘴気が放出される。


 しかし、相手は構わずにオレの手からサーベルを弾く。

 丸腰になってしまった。


「なんの、百合魔法!」


 コーヒー色の煙を散布し、目をくらませる。


 だが、冒険者は的確にオレへと突きを繰り出した。


「うわっと!」


 紙一重でかわすが、サーベルがオレの頬を軽くかすめる。


 少し出血したおかげで、頭がのんびりモードから覚醒した。


「ふん。おかげで目が覚めたぞ」


 対峙してみてわかったが、相手は瘴気の塊である。

 発生源はわからないが、魔力が形を取って動いていると判明した。


 隠れるのは、ムダか。それなら。


 煙で両腕を包み、グローブ代わりにする。これで、相手のサーベルのいなせるぞ。


 グローブで、サーベルと打ち合う。

 こちらは徒手空拳だが、日頃からメイと鍛え合っているのだ。

 後れは取らない。


 悔しいが、やはりメイの教え方はウマかった。

 相手は相当な実力を持っているが、オレも負けてない。


 冒険者に、焦りの色が見える。


「いい夢を! 【百合紀行リリー・ジャーニー】!」


 コーヒー色の煙に抱かれて、眠るがよい。


 しかし、冒険者は煙の拘束を力だけで引きちぎった。

 寝心地が悪かったとでも?


「生半可な百合魔法では、昇天させることもできぬか」


 では、オレの究極奥義が火を噴くときだ。

 しかし、それをやるとこの一帯が破壊されるかもしれない。


「一か八か。ここでオレが死ねば、魔族が世界を滅ぼしかねない。他のメンバーを信じて、放つ!」


 くらえ、オレの全身全霊を賭けた必殺技を!


「奥義、【百合宮殿リリー・パレス】!」


 エリア全体に、百合の花が咲き乱れる。

 花粉が女体を形取り、冒険者をなで回した。


 空間を百合空間で埋め尽くし、戦意を喪失させる。

 倉庫に現れた魔物にさえ、放つのをためらった奥義だ。


 冒険者も反撃を試みた。

 が、百合の花粉から分泌される精神魔法によって、弱体化している。

 

 やがて、冒険者はサーベルを落とす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る