百合王子、ダンジョン攻略

「凄まじく、雰囲気が出ているな!」

 腕を組みながら、ダンジョンの入り口に仁王立ちした。


 オレたちが入る迷宮は、いつからあるかわからない古代遺跡である。大木の根に入り口があった。

 といっても、さして貴重な財宝や文献が遺っているわけでもないらしい。古代人の墓でもありそうな外見だが。


「以前は、ただの観光地だったそうですよぉ」


 大昔に住んでいた魔法使いの住居に、大木が根付いただけ。

 ポロリーヌ担任が言うには、そんないきさつがあったとか。

 いわゆる廃墟だな。


「この奥に宝箱がありまぁす。魔法装備や魔法の力が籠もった宝石・鉱石があるので、取ってきてくださぁい」


 この古い洞窟には、魔道士の隠し財産が山ほどあるという。

 種類は、自身の魔力や魔法の熟練度、戦闘経験などで変わるらしい。

 ウルトラレアがあるとか。


 他の生徒の様子も伺う。


 大半の生徒が「ハズレア」、いわゆるハズレのアイテムを手にしていた。

 中にはウルトラレアの【ミスリルの鉱石】や【聖剣】が出たと、喜んでいる女子もいる。

 しかし、そんな超貴重レアなどはめったに出ないらしい。

 期待しても損をするだけか。


「何が出るかは本人の魔力と運次第ですぅ。でも、運を味方に付けることも、訓練の一環かとぉ。だからぁ、宝箱を設置した教師のせいにするのはよくないと思いまぁす!」


 おそらく、クレームが後を絶たなかったのだろう。


「うむ、承知した。とにかく行くか」


 何が出るかわからないアイテムに一喜一憂しても仕方ない。


「他の生徒は、下山させておきますよぉ」

「よろしく頼む」


 ポロリーヌ先生に生徒たちを任せて、オレたちは暗い洞窟へ。


 各々が明かりを付けて、周辺を探る。


「狭いわね。くっつかないでよね」

「わかっているが、早く進んでくれ」

「急いでいるんだけど、警戒して前進しているから簡単にいかないわよ?」


 ソフィも、注意しながら足を速めた。


「待って王子。段々、明るくなってきたわ」


 開けた場所まで出ると、明かりが灯った場所まで着いた。


「どこです、ここ? こんなに広いエリアなんて、マップには載っていませんよ?」


 地図を広げて、ツンディーリアが首をかしげる。


「どこかで迷ったのか、自動生成のダンジョンなのか」

「おそらく、後者ですね。ここは、侵入者の魔力に応じて形を変えるそうです」


 イモーティファが、壁に掛けられた注意書きを見つけた。


「どうしてそんな構成になっているのだ?」

「防犯措置って書いてますね。『せいぜい苦しめウヘヘー』とか、イヤミも添えられています」


 よっぽど、空き巣に困っていたらしい。


 それにしても、恐ろしい執念だ。

 未だに、ここまでの影響力を及ぼすとは。


「魔物だ!」


 大コウモリや、泥人形が行く手を遮る。


「なんのこれくらい!」


 オレだって、戦闘くらいやれるのだ。

 ショートソードで泥人形の首をはね飛ばす。


「ですよねー」


 泥人形はノーダメージで、身体を再生させた。

 その後、何度斬りかかっても同じである。


「コアは……ないか。一体一体に術が施されているぞ」


 ただ闇雲に、オレは攻撃をしていたわけじゃない。

 相手の特性を探っていたのだ。


「となると大元は、あっちね!」


 ソフィが、上空の大コウモリを指さす。


「ツンディーリア、あいつを撃ち落とせるか?」

「任せてください!」


 小型のファイアーボールを、ツンディーリアが手の平に作り上げた。上空にフワリと放り投げる。


「一撃で仕留めます!」

 杖を展開して、ツンディーリアは先端の宝玉でファイアーボールを打ち抜いた。


 快音が、洞窟内に鳴り響く。


 見事、大コウモリの丸い腹にブチ当たる。


 直後に、泥人形たちがタダの土くれへと変わった。


「やはり、魔力は上から来ていたか」


「ちょっと待って。一旦留まりましょう」

 先を急ぐオレたちを、ソフィが制する。


「まだ、何かあるのか?」

「この部屋を覆っていた魔力の質が、変わったわ」


 トーモスが聞くと、ソフィはそう答えた。


 さっきまで開けていた場所が、一気に縮んでいく。

 まるで部屋を覆っていた泥が落ちていくかのように。

 鍾乳洞だと思っていたのは、玄室だったようである。

 一見すると、普通のリビングみたいだが。


「見て。宝箱よ」


 五人分の箱が、部屋の隅に置いてあった。


「ワナは、かかっていないみたいです」


 仕掛けがないか、ついんずが確認する。どうやら安全らしい。


「王子は……どういうことなの?」


 ソフィが箱の中身を見て、硬直した。


「中身が、ないぞ」


 宝箱には、何も入っていない。


「あ、あんたはもう十分に強い……って意味じゃないのかしら?」

「そうですよ! これまでも、王子はわたくしたちの危機を救ってくださいましたわ!」


 みんな、オレを慰めてくれている。

 その優しさが、逆に辛い。


「オレだけ失格か」

「いや。全員だ」


 ライバラが言うとおり、ついんずもソフィもツンディーリアも、宝は空だった。


「おかしい。こんなことがあるのか?」


「俺とイモーティファならともかく、成績上位のソフィさんたちまで何もナシなんてな」

 トーモスも、首をかしげる。


「……離れろ、王子!」


 ライバラが、オレの肩を押した。


 しかし、見えない壁に行く手を阻まれる。

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