ドキドキ中間試験!

 中間試験の会場は、山奥の洞窟である。


「さっそく合流できたな」


 我らメンバーは、ソフィ、ツンディーリア、ついんずだ。


「まさか、お前まで参戦してくれるとはな」


 最後のメンバーは、なんとライバラである。


 道中の山道は、獣道と形容してもいいくらい鬱蒼としていた。


「くるぞ!」

 先頭を歩くトーモスが、土着モンスターとエンカウントした。


 いっても、ポヨンポヨンスライムが跳ねる程度だが。


「戦闘力は皆無だが、油断するな。集団になると窒息攻撃をしたりするからな」

「任せろ!」


 武器を手に、ソフィやトーモスが大活躍する。

 オレのアドバイスなど、必要ないな。


 ちなみに、ツンディーリアには戦闘を自粛してもらった。

 森の中を抜けるので火を放てない上に、彼女自身もまだ火力調節がうまくいかない。

 広い平野ならともかく、狭い屋内で戦えば山を吹き飛ばしかねなかった。


 この戦闘訓練で、何かを掴んでくれたらいいが。


 オレも、トレントやコウモリを百合魔法で眠らせて無力化する。


「後ろですわ王子!」

 いきなり、オレの横っ面めがけてツンディーリアが杖を振り上げた。


「うわっと!」


 オレがしゃがみ込むと、杖の先端が何かを打ち抜く。


「カッキーン」と軽快な音が鳴って、物体が吹っ飛んだ。

 そのモンスターは木にぶつかって、目を回す。


 よく見ると、角の生えたウサギだった。


 後方からオレのノドをめがけて突撃してきたらしい。



「危機一髪でしたわ」

 腕で汗を拭い、ツンディーリアがやりきった顔をする。


 オレは全身薄いコーヒー雲で膜を作っているから、ダメージは気にしなくてもいいのだが。

 とはいえ、殴りメイジか。やるな、ツンディーリアも。


「ナイスよ、ツンディーリア」

「わたくしだって、やればできますわ」


 ハイタッチで、ソフィとツンディーリアがお互いをたたえ合う。


「お見事ですが、ツンディーリア王女。いつの間にお二方は仲良くなられたので?」

「へ?」


 ついんずは、二人の事情を知らない。

 実は、両者が陰で交際をしているなど。


「あ、いや。部活を立ち上げたでしょ? その間は、休戦しましょとなりました」

「そ、そうですわそうでしたわ! はははは」


 乾いた笑いを浮かべて、両名はごまかす。


「ちょっと待ってくれ。なんか強そうなのがいるぜ!」

 トーモスの前に、フクロウの頭を持ったクマが出没した。


「オウルベアだ!」


 四体のオウルベアに、囲まれてしまう。


「結構、大物だな」

「それにコイツら、授業で習ったよりデカくね?」


 トーモスの言うとおり、眼前のオウルベアは普通のクマサイズではない。まるで岩の壁だ。


 大木のような腕が、振り下ろされる。


「甘い!」

 オレは、特大の雲を展開した。


 攻撃の勢いが強いほど、敵は大きくバウンドする。


「お待たせだ、ツンディーリア!」

 大きく打ち上がった怪物を指さす。


「はい、でやあああ!」

 待ち焦がれていたとばかりに、ツンディーリアが杖に魔力を流す。

 バ火力ブレスを、上空のオウルベアに打ち込んだ。


 チリ一つ残さず、魔物は燃え尽きる。


 だが、敵さんに怯む様子はない。むしろ、仲間を撃退されて興奮していた。


 一体が、ついんずに飛びかかる。


 オレに向かってくるのは、二体だ。


「いい夢を見させてやろう。魔物も百合の夢を見るのかな?」


 精神操作を喰らわせるため、オレは魔力を練り込む。


 しかし、オレの手から百合魔法が放たれることはなかった。


 ソフィが、一体をカウンターで仕留める。


 もう一体は、白目を剥いてドシンと前のめりに倒れた。


 オウルベアの背後には、刀を収めたライバラが。


「無事か?」

 小さい声で、ライバラが呼びかけてくる。


「問題ない。強いな。太刀筋が見えなかった」


 残るはトーモスたちだけだ。


 ついんず妹のイモーティファが、オウルベアを投げ飛ばす。

 兄トーモスが長剣で、落ちてきた魔物の心臓を突き刺した。

 危なげなく、ことは終了する。


「一丁上がりだ」


「ですが、どの魔物も瘴気が強すぎます。食材にはなりませんね」

 ティファは、もう食べることを考えていたとは。

 

 二時間ほど歩いて、ようやく目的地に辿り着いた。


「お疲れさまでしたぁ。うわあ、なんかボロボロじゃないですかぁ」

 担任のポロリーヌ先生が、オレたちを労う。


「他のクラスは、みんなアイテムを取ってきましてぇ、お昼ごはん中でぇす」


 あとは、オレたちだけらしい。


「質問だ先生。生徒の戦闘レベルに応じて、放った魔物に違いはあったりするか?」

「ええ? どういう意味でしょうか?」


「実は」と、オレは事情を説明する。


「それは大変ですねぇ! 確認しておきますよぉ!」

 ポロリーヌ先生が、他の教師と相談し合った。


「さすがに安全面も考慮して、中止にしましょうかぁ?」

「いや。最後までやり遂げるつもりだ」

「そうですかぁ。でも、無理はしないでくださいねぇ。先生、ここでみんなの帰りを待ちますのでぇ」


 言いながら、先生の腹が鳴る。


「ごはん食べておいてくれ、先生。やりにくい」


 先生がこんな調子なので、オレたちは先に昼休憩を挟んだ。

 さすがに、疲労もたまっている。

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