尊い兄妹

 今日は、球技大会である。

 一年生の種目は、ドッジボールのクラス対抗戦だ。


 やる気なさそうに、メイディアは適当にホイッスルを吹く。


 オレも、「球技で団結力が身につく」とは思っていない。

 他の生徒も同意見だろう。単にダルいだけだ。


 ティファのクラスは、ツンディーリアのクラスに大差を付けられて敗退した。


 オレのクラスは勝ち残り、決勝に上がっている。

 

 正直、オレも休みたかった。


 しかし、我がクラスの女帝が黙っていない。


「さて、この調子でガンガンいきます!」


 ソフィが、一人だけ張り切っている。

 ツンディーリアと試合できるのがうれしくてしょうがないらしい。


「お兄ちゃーん」


 早々と敗退したティファが、見学スペースからトーモスに手を振る。


「任せろティファ。お兄ちゃんが華麗にシュートを決めてのわあ!?」


 言ってる側から、トーモスが場外へ。何をやっているんだか。


 ライバラか、撃ってきたのは。

 あいつ、トーモスを目の敵にしていないか?

 同じフード業界だから、思うところがあるのかも知れない。


 それにしても、我が妹にあんな尊い友垣がいるとは。

 将来有望だな。百合の優等生の称号を授けたい。


「おいユリアンッ! 前、前!」


 向かいの外野から、トーモスがオレを呼ぶ。


「んあ?」


 オレの眼前に、ドッジボールが飛び込んできた。

 当たっても顔面セーフだが、鼻を撃つのは避けたい。


「おっと」


 両手にすかさず、コーヒー色の雲を召喚した。正面から受け止めて、ボールを掴む。


「オレにボールを投げたのは?」

「ライバラだよ!」


 向かいのコートに視線を移す。


 ライバラが、無表情でボールを投げたポーズで固まっていた。

 相当強い力で投げたらしく、硬直したまま動かない。


 味方側の外野にいるトーモスが、ライバラを指す。

 向こうの陣地にはもう、ライバラしかいない。

 他の生徒は外野に回っていた。


「やるなぁ、ライバラ。しかし、オレを敵に回したことを後悔させてやろう!」

 アンダースローで、オレはボールを投げ返す。


 両足を肩幅より大きく広げ、ライバラは腰を低くした。

 あれは、居合いの構えである。


「気をつけろ! みんなそいつでやられたぞ!」

 トーモスからアドバイスが飛ぶ。


 その刹那、ズンとオレの腹に重い一発が。


 ゴムボールをキャッチした瞬間に、投げ返したのか。早いな。


 今のは、カバーしきれなかった。

 オレの足下に、ボールが跳ねる。


「むう、見事だ。しかし!」


 そんなことくらい、オレは計算済みだった。その場を跳躍する。「背後にいる味方」が、球を捕りやすいように。


「ソフィ、今だ!」


「やあっ!」

 足下に向けて、ソフィがボールを超低空に放った。


 ライバラは居合いの姿勢で硬直している。

 回避は不可能だった。

 爪先にボールが当たり、ゲームセット。


「いやあ、見事なカウンターだった。諸刃の剣とはいえ、追いつけなかったぞ」


 オレは、ライバラと手を握り合う。


「そちらこそ。二人いたことはわかっていたが、対応は難しかった」


 ライバラの方も、強い力で握手を返す。

 細いながら力がある上に、骨張っていた。

 

 授業が終わり、昼食の時間となる。


 オレたちは学食に向かうが、校庭にライバラがいたのを発見した。


「すまん、先に行っていてくれ」

 ベンチに一人座るライバラに、オレは近づく。


「何の用だ?」

 頭や手で覆い、ライバラは中身を隠す。


「いや、特には。それは弁当か?」


 ライバラの手には、弁当箱が。食べ盛りの少年が摂取するには、小さかった。


 いわゆるキャラ弁というヤツで、海苔で兄と妹が描かれている。


「妹の手作りだ。変だろ? 俺はいいというに、渡してくるのだ」


 卑屈なライバラの言葉に、オレは首を振った。


「とんでもない。簡素ながら、作り主の丁寧さが窺える。実に尊いぞ」

「バカにするわけでは、ないのだな?」


 なるほど。からかわれると思っていたのか。


「この弁当を笑うヤツらは、相手にしなくてよい。人の愛情をおちょくるヤツは、その程度の人間だ」

「……感謝する」

「長居すると食べづらいようだな。失礼する」


 オレはライバラに背を向けて、学食へ。

 

 全工程が終わり、終わりのHRが始まった。


「皆さん、次回はいよいよ、中間試験でぇす」


 試験は、班ごとに行動する。


 ダンジョンに潜り、指定の魔物を倒すこと。


 マップを記載する係、ワナの解除係、アタッカーなど、生徒にはそれぞれ役割がある。


 この試験をパスできないと、補習を受けることになる。

 試験休みが潰れてしまうのだ。

 また、「成績下位のモノは、部活動謹慎」という支障が出る。


 オレ、トーモス、ソフィが同じ班となった。万全ではないか。


 この試験は、クラス対抗戦ではない。

 有事の際は、よそのクラスと協力してもよいのだ。

 むしろ勝手判断は、生存率が低くなるため減点対象になる。


 我々はツンディーリアたちと共同で、ダンジョン試験を攻略しようとなった。


「本格的な戦闘訓練って、初めてじゃない?」

「うむ。緊張してきたぞ」


 試験内容は、難しくしているという。

 魔族の出現に伴い、実践力が必要だと学校側が判断した。

 生半可ではないだろう。

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