歪められていた百合伝説
倉庫内の備品を体内に取り込んで、魔物は巨大化していった。
メタルラックが分解され、魔物の骨となる。
体育祭の応援で使うポンポンが、ソイツの背中にへばりついて体毛と化した。
他にもハードルが口になって、チョークの牙が生える。
「むおおおお! ようやく封印が解かれたぞぉ!」
頭をブルッと震わせ、四つ足の魔物がムクリと起き上がった。
「何事です!」
生徒会長並びに生徒会の面々が、続々と空き教室に押し寄せてくる。
騒ぎを聞きつけたのだろう。
「このバケモノは!」
突如部屋に現れた魔物を見て、生徒会の面々が尻餅をついた。
「生徒会! 生徒の安全を確保せよ! ここはオレが食い止める!」
玄関前で、オレは生徒たちをかばうようにして立つ。
「あなた一人ではムチャです!」
「オレの責任だ! オレがカタを付ける!」
この教室は、オレが整頓すると言ったのだ。最後までやり遂げる。
そいつは備品を吸収して、さらに巨大さを増す。
「ワシを封じ込めた、あの忌々しい百合のつがい共めぇ! 今度こそ、始末してやる!」
ポンポンでできた毛並みが逆立ち、その表情は憎しみで歪んでいた。
どうもこの魔物、伝説の百合ペアに恨みを持っている様子だ。
話が違うじゃないか。
「お前は、百合カップルが呼び出した魔物ではないのか?」
「違う! ワシはあの女連中に封じ込められたのだ!」
怒りの籠もった口調で、魔物は語り出した。
「二人の仲を妬む悪しき者共によって、ワシは呼び出された!」
話はこうである。
実は百合つがいの婚約者たちが結託し、魔物をけしかけたのだ。
カップル二人は、魔物を返り討ちにしたのである。
しかし、二人は命を落としてしまう。
事態の発覚を恐れた婚約者たちは、この事件を美談として残したのである。
つまり、これは殺人事件だったのだ!
「度しがたいな。自分の物にならぬから殺してしまえ、など」
百合好きとしては、恥ずべき行為だ。
身体だけではなく、心まで支配しようとしたのか。許せぬな。
「ワシを召喚した代償として、そやつらも早死にしたらしいがな。風のウワサよ」
うれしそうに、魔物が笑う。
「召喚主に敬意はないのだな?」
「敬意だと? 勝手に呼び出されて封じられたのだ! 恨まずにいられるかぁ!」
魔物が激高し、窓ガラスが弾け飛んだ。
「それ以来、ワシはヤツらに復讐することだけを考えて、屈辱の日々に耐えてきた! 長かった不自由な生活も、今日で終わる! 幸い、肉体も手に入るからな!」
魔物の照準が、オレに合わさる。
「まずは貴様を始末して、けしかけたヤツらも同じ目に遭わせよう」
「もう数百年も時が過ぎた! 関係者も生きてはいまい」
圧倒的な魔力を放ち、魔物が威圧してくる。
「ようやく出ることができたのだ! 貴様の肉をいただいて、より身体の構築を安定させるとしよう!」
テントのペグを爪の代わりにして、魔物が斬りかかる。
「なんの!」
オレは床に滑り込む。
「【打撃
魔物のノドに、ドロップキックを浴びせた。
しかし、利いている様子はない。この魔物は霊体。実体がないのだ。
「バカが!」
踏み潰し攻撃が降ってくる。
身体を捻って、踏みつけを回避した。
床が抉れる。
紙吹雪のブレスが飛んできた。目潰しか。
「こっちもだ。【
ポスターに魔力を注ぎ込んで、硬度を増す。クルクルとポスターを回して、ブレスの軌道を変えた。
しかし、壁際まで追い詰められる。
途中、分厚い本につまずきそうになった。
魔導書だろうか? これは使えそうだ。
「もう逃げ場はないぞ! おとなしくワシに身体を明け渡すがよい。有効活用してしんぜよう!」
魔物が、大きい腕で突きを繰り出した。
「それはどうかな? それ!」
回避してオレは、ポスターを放り投げる。
魔力を失い、バッとポスターが広がった。
「ここにきて目くらましなど」
哀れ、ポスターは壁役を果たさない。突きによって、大きな穴が開いてしまった。
そのスキに宙返りをして、オレは前転する。
爪攻撃をよけつつ、側にあったぶ厚い本を上空に放り投げた。
前転の速度を乗せたカカトで、書物を蹴り飛ばす。
「んご!?」
堅い本がノドにクリーンヒットして、怪物は黒板まですっ飛んでいった。
あの本は、相当魔力の高い代物だったのか?
「なぜだ! 実体を持たぬワシが、ダメージを?」
目を回しながら、魔物が後退する。
凄まじい威力だ。
せめて、魔物が後ろへ吹っ飛んでくれたらいいと思っていたが。
オレは何を投げたんだ?
正体は、表紙でわかった。
この独特な手触り、デカデカと刻印された校章。
これは。
「おお、卒アルか!」
オレが蹴り飛ばしたのは、卒業アルバムだった。
それも、一期生と書いてある。魔法学校でもっとも古い。
アルバムが落ちた拍子に、ページがめくれた。
挟んであった一枚の紙切れが、ヒラヒラと床に舞い降りる。
写真のようだが、随分と古い。白黒だぞ。
「これは!」
内容を見て、オレは愕然となった。
写真に写っていたのは、オレのよく知る人物二人だったのである。
「ソフィとツンディーリアじゃないか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます