百合王子、絶体絶命?

 オレが写真に夢中になっていると、魔物の豪腕が襲ってきた。


「うご!」

 腹に、いい攻撃をもらってしまう。

 オレは、天井へ叩き付けられた。

 勢いのまま、ゴミ山へ転落する。


「フハハ、ワシを舐めるからこうなる!」

 魔物が勝ち誇っていた。こちらがほぼ無傷なのも知らずに。


「いってえ」

 背中の痛みを治癒魔法で和らげ、頭を振る。


「なんと。まだ息があるのか。しかも、たいして利いていないだと? どこまで頑丈なのか」


「あいにく、丈夫なだけが取り柄でね」


 オレは防御や治癒、精神攻撃なら得意だ。

 瞬間的にコーヒーの雲で防御障壁を作り、身体全体を覆ったのである。

 おかげで、軽く脳が揺れただけで済む。


 とはいえ、何か打つ手はないか?


 オレには、もっともらしいフィニッシュホールドがない。

 浄化が専門で、相手を殺すつもりがないからだ。

 ジワジワと弱らせて、倒すしかないのか?


「王子、無事!?」


 ソフィとツンディーリアたちが、空き教室に入ろうとした。


「生徒たちの避難は整いましたわ! ついんずさんがついてくれています!」


 でかしたぞ、ついんずよ。


「なんなのコイツ!」

 入り口で、ソフィが後ずさりする。

 しかし、学校を脅かす敵と認識したのだろう。恐れを振り払って中へ。


「今、助けるわ!」


「来るな!」

 オレは手で制しようとしたが、遅い。


「どういうこと? 何があったの?」

 ステッキから光線の刃を発生させて、ソフィが身構える。


「ただならぬ気配を感じますわ!」

 魔法の杖となったステッキをクルクルと回し、ツンディーリアも戦闘モードへ。


「コイツは、キミらに用事があるらしい!」

 ソフィらのを見るや、魔物の目つきが変わった。 


「貴様、ヴェルデの血筋か! それに貴様は、ミケーリの!」

「やはり、ソフィの家族を知っているのか?」


 尋ねると、オレの顔を見ながら魔物は口を歪ませる。


「忘れぬぞ、その自信に満ちた瞳! ヴェルデとミケーリの血族だ! 間違いない! 二人はまさに生き写し!」


 なるほど。ソフィとツンディーリアが結ばれるのは必然だったと。


「あの魔物の狙いは、私たちだとでもいうの?」


 それについては、オレも聞きたいことがあった。


「こういうことだ」

 例の写真を、オレは二人に見せる。


「わたくしたちに、そっくりですわ!」

「おばあさま……ではないわね。こんな古い写真が、存在していたなんて」


 二人も、写真の人物に見覚えはないようだ。肉親であることは間違いないようだが。


「写真の中にいる二人は、この魔物を封じて力尽きた。おそらくキミらの親族か何かだろう」


 もっと調べる必要がある。しかし、今は魔物の退治が先だ。


「となると、この魔物は私たちにとって、因縁の相手というワケね?」


 だろうな。


「会いたかったぞ、我が仇! 封じられた恨みを今こそ晴らす!」


 怒りを増幅させて、魔物がソフィらに突撃する。


「望むところよ! 覚悟しなさい!」


 ソフィと魔物が、斬り合いになった。


「ほほう、昔はそんな器用な技は披露せなんだ。ますます手強くなったなヴェリエの子孫!」

「くっ、強い!」

「魔王のペットの座を、あのファフニートと争った身よ」


 その魔物の名は、以前のヘンタイマント事件でも出てきたな。


「魔王サマが『ファフは虫が食えるから、部屋がキレイに保てる』という理由だけで、ファフに後れを取ってしまったが!」


 心底、どうでもいい。


「だが、実力は伯仲していた。むしろ、ワシの方が凌駕していると言ってよかろう!」


 強烈な横凪ぎによって、ソフィが弾き飛ばされる。


「ソフィ、離れてください!」

 そのスキに、ツンディーリアが火力弾を形成しようとした。


「やめろツンディーリア! キミが攻撃したら、教室が吹っ飛ぶ!」

「ではどうしろと!?」


 足下に向かって、メタルラックの舌が伸びる。


 小型の火炎弾をラックに撃って、ツンディーリアは跳躍、避難した。

 しかし、集中していた魔力は霧散してしまう。


「ここは、任せろ!」


 オレは二人の前に立つ。


「貴様の相手は、このオレだ!」

 コーヒー色の煙を放出し、魔物の行く手を遮った。


 煙に阻まれ、魔物がバウンドする。


「邪魔するな若造! これはワシと女共との戦いなるぞ!」


「百合を穢すヤツは、許さん! 【百合三昧リリー・サマディ】!」


 コーヒー色のシャワーを、魔物に浴びせた。


「ぐう! この程度!」

「しぶといな。では。【百合紀行リリー・ジャーニー!】


 煙を直接、魔物に吸わせてやる。


「けえーいっ! 邪魔だ!」

 オレの必殺技を、魔物はことごとく弾き返す。


「この程度の魔法など……なに、剥がれぬ!」


 コーヒーの色をした雲に囲まれ、魔物は小さくなっていた。

 束縛を振り払おうとして、魔力を大量に使ったせいである。

 煙に身体を拘束されて、身動きも取れていない。


「ごおお、おのれええ、バルシュミーデの子孫めえっ! エラそうなハリボテ王国の分際でぇ!」

 煙に巻き付かれて、魔物がもがく。


 勇者と共に世界の危機を救ったバルシュミーデ国は、コイツがいた時代から方々で恨まれていたようだ。


 確実に、技は利いている。

 が、致命的なダメージは与えられていない。

 コーヒー雲の拘束も、いつまで続くか。



「なあ王子、何をためらってるんや?」

 メイ、いやメイディアが、オレの隣に立つ。

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