百合テロ部 活動開始!

 残った物資はもう少しだったので、ソフィたちには掃除を頼んだ。


「最後の備品、運び終わったぞ」

 作業を終えたオレは、部屋に戻った。


「お疲れさま」

 雑巾で窓を拭いていたソフィが、手を止める。アイスカフェオレを淹れてくれた。


「ありがとう。おお、ようやく部室ぽくなったな」

 カフェオレで身体の熱を冷ましながら、部室を一望する。


 感無量だ。自分の城を持つというのは、こんな感じなのだろうか。


「片付けたのに、随分と狭いな。だが、これでもゼイタクか」


 コーヒーセットを置くだけでも、十分に場所を取ってしまう。


「狭いくらいが丁度いいわ。空き教室だと、だだっ広くて気を使うし」

「この近い距離感が、なんともいえませんわ」


 ソフィとツンディーリアが、窓枠に添えた手を取り合った。

 他の部員から見えないように。


 夕焼けに照らされて、実に尊い。


 いかん。ついんずに感づかれてしまう。


 咳払いをして、双子の注意をオレに向けさせる。


「どうした? カゼか?」

「いや。やけにホコリっぽいからな」

「そうか。掃除が行き届いてなかったのかもな。悪い悪い」

「オレも手伝おう」


 雑巾を借りて、一緒に拭き作業を始めた。


「よし。今度こそ準備完了だな」


 全員で拍手をする。 


「改めて、余が部長のユリアンだ。よろしく頼む」


 パチパチ、とささやかな拍手が送られた。


 続いてソフィ、ツンディーリア、トーモスと妹のイモーティフの順に、自己紹介を終える。


「えっと、ウチがメイディアや。よろしゅう。部活動やけど、火を扱うときだけ立ち会うさかい。それ以外は好きにしてや。火はアカンからな! それだけ守ってな」

 最後に、メイディアが念を押す。


「で、何をするんや?」


「表向きは、飯テロ同好会だからな」


 とにかく、メイ改めメイディア先生が入ってくれたおかげで、百合テロ部が活動を始められる。

 同好会でいいと思っていたが、部にまで昇格できるとは。「モグモグついんず」には感謝しかない。


 また、思いのほか濃いメンツが揃った。


 これなら、新規で入ってこようとする生徒もいないだろう。

 事実、ツンディーリアの取り巻きは一人も入部していない。


「お菓子をお持ちしました。みなさんでどうぞ」

 アイテムボックスから、ツンディーリアが焼き菓子を出す。


「ウワオ! いただきます!」


 ツンディーリアが包みを開けると、早速ついんずが食いついた。


「これはウマイ!」

「サクサク!」


 食べるのかしゃべるのか、どちらかにして欲しい。


「でも、失敗しまして。焼きすぎたのです」

「いや、これはこのくらいがいいわね。焦げてる方が香ばしくなって、おいしいわ」


 うむ。ソフィの言うとおりだ。ツンディーリアは、望みが高すぎるのだ。


「せやな。ウチのクッキーとは味わいが違うけど、初々しくて好きやわ」

「先生も、お料理をなさるので!」


 しまった。

 彼女たちには、こいつがメイディルクスだと教えてないんだ。

 うかつ!


「あ、いや。ウチかて乙女やしな? 浮いた話も多少はあってんよ」

 正体がばれそうになったメイは、架空の恋バナでごまかす。


「当時の殿方のために、腕を振るっていたと。なるほど」


 ソフィは、信じ切っているようだ。よかったな。


「是非、お教えください! どうすれば、素敵なカップケーキを作れるんでしょう?」

「えらい乙女チックなモンを、王子に食べさそうとしてるんやな?」

「おおお王子のハートを射止められる、お菓子ってどんなのでしょうか!?」


 危うく、ツンディーリアの百合趣味がダダ漏れするところだった。


 今日の部活は、お菓子の飯テロになりそうである。


 女子たちは、メイディアを囲んでお料理の手ほどきを受けていた。料理なんて使用人がやるだろうに、まるで花嫁修業の光景である。だが、それがいい。


 オレとトーモスは離れた位置で、その様子を眺める。実に至福のひとときだ。


「尊いな」

「ああ。女子がこんなにも集まっているだけで素晴らしい」


 この部を立ち上げて、本当によかった。


 ソフィらの関係もカモフラージュできているし、言うことナシだな!


 しかし、何か忘れているような気がする。

 辺りを見回して、抜かりがないか確認をした。


「お、そうだ。看板!」

 倉庫の看板が、そのままではないか。


「急いで、百合テロ部の看板を作らねば!」


 備品をまた漁ることになろうとは。


 部室を出ようとするオレの肩を、トーモスが掴んだ。


「待てよ。ここは飯テロ部だぜ。百合テロなんて書いたら、それこそまた生徒会ににらまれるぞ」

「うむ。百合テロの看板は、オレの心の中に!」


 オレは胸をドンと叩く。廊下へと出て、看板を取り外す。


「よし。これでここは飯テロ部だ!」


 トーモスと二人で、拍手をした。


「さて、オレは倉庫の方へこれを取り付けてくる」

「一人で大丈夫か?」

「任せろ。さっきも一人で行ってきた」

「気をつけてな」


 空き教室に向かい、急いで看板を外した。


「あとは、ここに倉庫の看板を……む?」


 なぜだ。魔族の反応が! さっきまでなかったのに!


 魔族の反応を示しているのは、なんと教室の看板を外した跡からではないか!

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