決戦、魔族と百合テロリスト

「貴様、生きていたのか! このぉ!」

 魔族マントが、身体を反らしてオレに体当たりしてきた。

 マントの端が、鋭利な刃物のようになる。


「とう!」

 オレは、その場から半裸の状態で飛び上がった。ソフィ立ちをかばうように、地面に降り立つ。


 ソフィとツンディーリアが、オレを避けるように遠のく。

 ソフィは顔を大きく横へそらしている。

 ツンディーリアは、指の隙間からオレの身体を覗いていた。


 横にあった木が、中央から切られる。

 ズン、という音と共に、葉の生い茂っていた大木が倒れた。


「そんなトロい攻撃では、オレを捕らえられんぞ!」

 濡れた髪をかき分け、魔族マントとにらみ合う。


「フフフ、このオレの大好物である百合で圧殺しようとは、魔族も考えたモノだな」

 インナー姿のまま、オレは魔族マントを見据えた。


「いいから服を着てぇ!」


 ソフィたっての希望で、オレは仕方なく


 瞬時に制服を乾かし、オレは着替える。


「バカな! 貴様は今頃、オレサマが操っていた生徒の手で肉団子になっているはず!」


 決め手の百合攻撃から脱出され、魔族マントが狼狽している。


「フフ、デンプンだよ」

「デンプンだと! そんなものどこにも!」

「知らないのか? 百合の根からも、テンプンは採取できるのだ!」


 あの【百合散水】は、オレ自身を濡らすためでもあった。さらに、百合の根を使ってデンプンを生成した。再度【百合散水】を展開して、デンプンも活用する。滑りをよくした状態で、脱出に成功したのだ。


「ホントだわ。ちょっとユリアン王子の身体、百合の香りが充満しているわよ」

「きつめの香水みたいな匂いですわ」


 その場にいる全員が、強烈な芳香に鼻を押さえる。


「では、あの女どもは……はあ!?」

 状況を見て、魔族マントが狼狽した。


「彼女たちなら、今ごろ夢の中さ」


 オレをプレスしようとしていた女子生徒たちは、全員が倒れている。


「百合に挟まれて死ぬ。よい考えだった」


 たしかに、百合好きとしては絶好の死に様だろう。


「だが、それは邪道というのだ! 王道を行くオレには、通用せん!」


 オレが指を差すと、マントの紋章が歯噛みした。


「こしゃくな、バルシュミーデの王子め!」

「さて、反撃開始だ」


 間合いを取って、オレたちは向かい合う。


「お待ちを、王子! 相手はわたくしの攻撃すら受け付けません。それに、あなたは戦闘タイプの魔術師ではないでしょ?」

「心配するな。コイツが回避特化なだけ。オレの敵ではない」


 ツンディーリアは火力こそ強いが、スピードがない。そこを突かれたに過ぎなかった。

 ソフィなら、対等に渡り合えるかも知れない。


「始まるわよ、ヘンタイ同士の戦いが」

 ソフィが、息を飲む。


「くらえ!」

 またも、刃物のようなマント攻撃が襲ってきた。


「ふん!」

 オレは腕を回しながら、受け流す。


「当たらなければ、どうにでもなる」

 マントを叩き、張り詰めた箇所を曲げる。

 これで、鋭利さは解消された。


「なんだと? コイツ、魔法だけじゃないのか?」

「貴様の戦闘力など、こんなものだ!」


 別にオレは、特別強いわけじゃない。

 コイツより少し強いだけだ。

 オレの戦闘力は、真面目に戦ってもソフィより劣るだろう。 


「ならば、こうだ!」

 続いてマントは、オレの手首を締め上げようとする。


「さっきも言っただろう? オレはデンプンを塗ったのだと!」


 魔法で、汗を百合から出たデンプンに変換した。滑りのよくなった手首を、マントの拘束から抜く。


「ね、ヘンタイでしょ?」

 同意を求めるように、ソフィがツンディーリアに耳打ちする。


「うへえ! きったね!」

 自分でヌメリを拭うことができないようだ。


「ホラホラ、もっとくれてやろう。貴様も百合まみれにしてやろう!」

 次から次と、オレはデンプン汗をマントに向けて飛ばす。


「げええええ! 匂いがきつい!」

 身体をブルブルっと振って、魔族マントは表面についたデンプンを飛ばした。


「降参しろ。貴様に勝ち目はない」


「へへへ。この程度の攻撃で、オレサマに勝ったつもりか?」


 紋章全体が、妖しげな光を放つ。


「行け。もう一度オレサマの為に働け!」


 女生徒たちが、ムクリと起き上がった。

 オレに向かって、足を引きずりながら近づいてくる。


「精神操作において、魔族の右に出る物はない! お前は、最悪の決断をしたんだ! 仲間の手を借りなかったことを、後悔するがいい!」

 マント如きが、勝利宣言をする。


「やれやれ。まだ勝った気でいたのか」


「なんだと!? 腐っても、オレサマは魔族だぞ。魔族は人間の精神操作なぞ弾き返すのだ! いくら王子が心を操る達人と言えど!」


 自分が魔族だから、人間に負けるはずがないと。

 嘆かわしい。

 呆れて、ものも言えん。


「お前には、万に一つの勝ち目もない。そもそもマインドコントロールでオレと戦おうとした時点で、貴様は敗北しているのだ!」


「負け惜しみを! 見ろ! オナゴどもはお前の元へ……ええ!? ええええ!?」

 予想外のことが起き、マントが女子生徒たちを二度見した。




 女子の群れはオレではなく、マントの方を掴んだではないか。

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