第5話

時刻はお昼すぎ、飲食店を後にしたるーちぇとチャッピはニーナの元へ行く手がかりを探そうと例の物販コーナーへと足を運んだ。

広場の物販コーナーは相変わらずファンで殺到しており賑わっていた

「あの、すみません…ちょっとお聞きしたいのですが」

「…」

目が合ったヒトに声をかける、しかしすぐに目を逸らし何故か話を聞いてくれない

「あの、聞きたいことがあるんですが…」

「…アッ、ええと…」

次の人に声をかけると戸惑った様子を見せる

「どうしたんだろう…」

「おねえちゃん」

話にならない様子に今度はるーちぇが戸惑い始める

そんな様子を見ていたチャッピがるーちぇを呼ぶ

「ここのファンのヒトはオタク、オタクはコミュショー。だからそんな聞き方はダメ。もっと優しく単刀直入に」

「意外とファン相手にひどいこと言うんだね」

みててと言いながらチャッピが今度は声をかける

「ねえねえ、まま…ニーナのこと、知りたい」

あんまり変わらない気がすると思いながらるーちぇは様子を見ている、するとファンのヒトがチャッピの方を向き声が掛かる

「ニーナちゃん、ど、どんなこと知りたい?」

「え、声がかかった…?!」

その様子に少し離れたところで驚くるーちぇ


「あのね、ま…ニーナのさっき放送してたスタジオの……」

「そ、それなら………」

「……。」

「……。」

しばらくチャッピとファンのヒトの会話が続く、さっきまでの困った様子もなくむしろイキイキしたように話しかけてくるファンの様子にるーちぇは困惑をする。

やがて話が終わったのかチャッピが小さくお辞儀をしこちらへ戻ってきた。

「どうだった?」

「まま、まだスタジオにいるらしい」

「なるほど…スタジオはどこにあるんだろう」

「スタジオ、近くにある。教えてくれた。バスでいける」

「まって、すごくない!?」

あまりの短時間に聞きたいことを全て聞いてきたようで驚きを隠せず唖然とするるーちぇ。

「と、とりあえずスタジオ行こっか」

「うん」

我に返り早速移動しようとチャッピを抱っこし肩に載せ、広場を後にニーナいる番組スタジオ行きのバス停を目指した。


バス停につき、やがてバスがやって来ると乗り込む2人。

そのまま短時間バスに揺られ2駅超えて教えてもらったスタジオ前に到着する。

入口には大きなモニターがあり何かの番組が流れていた。

「あの、ニーナちゃんに会いたいのですが」

「ファンの方かな?いいですよ。撮影の邪魔はしないでくださいね?」

スタジオに入り受付で手続きを済ませる。

受付のヒトは笑顔を崩さず申請を受理するとあちらのブースですと手を向ける

それに従いるーちぇはブースに足を踏み入れた


見学のファンが何人か居て、みんな静かに番組を生で見ている。

人混みを掻き分け最前列の近くへ進むと目の前では、先程モニターで見たペット番組の撮影がまだ続いておりニーナが司会の横に座っていた。

外見は小柄なヒト型で全体的に黄色味が掛かっている。胴体にやや半透明な部分があって、外ハネの髪型をしており頭にはウサギ族のような耳の形のアンテナが立っている。

「あ…いた!」

ニーナの膝の上で相変わらずだらんとしている、おめかしされたげるまんが心地よさそうに撫でられていた

「ちょっと、なにあれ。気持ちよさそうにノビちゃって…」

「…」

その様子になぜだかムッとするるーちぇ

チャッピは大人しく肩の上で番組…というよりはニーナを見ている。

「はいカット、休憩はいりまーす!」

タイミング良く番組が止まり休憩に入る

さっきまで静かだったファンや番組のスタッフがざわざわとなり、ニーナの表情がニコニコ笑顔からスンとすました顔になる

「あっ……げ、げるまんっ、げるまんてば!おーい…!」

るーちぇが煩くない程度に声を出しげるまんを呼ぶ

しかしげるまんには声が届いていないようで相変わらず気持ちよさそうに撫でられている

「んっ」

「わ。…チャッピくん?!」

突然チャッピが肩から飛び降り柵を超えニーナの元へ歩き出した

飛び降りる際にぐらりと揺れバランスを崩しそうになるが体勢を整え、るーちぇは柵の中から声をかける

「まま」

「…あれ?チャッピ?…え?あれ。この子ダレ?」

ニーナの元へ行き早速声をかける。

チャッピに気づいたニーナがげるまんを撫でるのを辞めることなく今の状況に驚く

「……わ、よく見たらチャッピじゃない!」

時間差で撫でるのを辞め、抱き上げて顔を見比べるニーナ

ここでようやくげるまんに気づいたようだ。

「まま、その子。あのおねえちゃんの子」

「えっどこ?」

チャッピがファンの中に紛れていたるーちぇを指す。

ニーナがげるまんを抱っこしたままファン達の近くへ歩き出して

「げるまん!」

ニーナが目の前に来る、ざわざわするファンに紛れてるーちぇがげるまんに声をかける

「この子、貴方のペット?」

「えっと…そ、そうですっ。あの。チャッピくんと入れ替わってたみたいで」

「そっか、気づかなかったよ。ごめんね」

「いえ、わたしも目を離してしまってたので」

「んぁ……るーちぇ?」

柵を間にやり取りをしているとニーナに抱っこされたままのげるまんがハッとする。

「あ、げるまん。目が覚めた」

「げるまんクン、おはよう」

「よかった、じゃあ目も覚めたことですしそろそろ返してもらえま…」

るーちぇが手を差し伸べる

しかしニーナはげるまんを離さずギュッと抱きしめる

「んはぁっ!…い、いいにおいっ!!」

「あれ?」

げるまんが何か変なことを言っているがるーちぇはそれ所ではなく理解が追いつかないようで頭上に疑問符を浮かべる

「ごめんなさい、番組まだ終わってないの。この子、メイクもしたし…。チャッピのメイクし直しする時間もないから、今だけこの子はチャッピで居てもらいたいの」

「…はい?」

「番組が終わったら返すから、だからそれまで…」

「んおおっ」

お願いといい、げるまんをまた強く抱きしめるげるまんが嬉しそうに変な声を上げる

そこへ、

「ニーナさん、休憩終わりますよー!」

とスタッフの声がした。

ニーナはぺこりとお辞儀をする。足元のチャッピには待っててと言い、そのままげるまんを抱きしめながら定位置に戻ってしまった。

チャッピは素直に従い、柵に乗りるーちぇと一緒に番組を見る体制になった。

「まっ……もう。げるまん大丈夫かな」

イマイチ分かっていない様子のるーちぇも、少し時間が経つとようやく理解が追いついたようでとりあえずはどうしようもないから仕方ないと呟き番組が終わるのを待つことにした。


「…っ、……ッ!」

げるまんがニーナの膝の上でほんのり頬を赤くしながら硬直している、ようやく自分の置かれた状況が分かってきたようで改めてかなり緊張しているようだ

そして、番組はまだまだ終わりそうにもなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


番組が終わったのはあれから1時間後、終わり際に控え室に案内されたるーちぇはチャッピと共に部屋でニーナを待っていた。

廊下がだんだんと賑やかになる、番組が終わったのだろう、やがて控え室のドアが開きニーナとげるまんが現れた

「やっと終わった」

「まま、おつかれさま」

げるまんを撫でながらホッと一息を着くニーナ

チャッピが歩み寄りボクも撫でてと甘える

「えーと、げるまんクンありがとう、本当にごめんなさいこんな形になってしまって」

「あ、いえ。大丈夫です…ってまた変な顔してる」

はいとようやく渡されたげるまんをるーちぇが抱き抱える、相変わらずなんともいえない心地よさそうなだらしない表示を浮かべており、なぜだかムッとし頬を軽く抓る

「あでででで、なにすんねんっ」

「…べつにー」

るーちぇはつんと素っ気ない素振りを見せるも戻ってきたことには安心したようで頭をポンポンと叩く

「げるまんクンもお疲れ様。いろいろあって疲れたでしょ。こっちの都合に巻き込んでしまったのもあるしお詫びって事でちょっとあたしの船でお茶でもしませんか?」

2人のやりとりにフフと微笑みながらニーナがそう言うと懐から携帯端末を取り出しどこかに連絡をする

「あ、ゲイナー?あのネ、今からそっちに客人を連れてくヨッ!紅茶を用意して貰えるカナ?」

「?!」

途端に喋り方が変わった、不思議な語尾上がりにるーちぇは戸惑う

「アッ、あはは、びっくりシタ?普段はこういう喋り方でネ…こほん。メディアに出る時はこういう風に普通に話すの」

その様子に気づいたニーナが咳払いひとつで器用に喋り方を切り替える。

「そ、そうなんだ…」

「せやで、ニーナちゃんはメディアと普段とで切り替えてるんやで」

「そういやげるまんはファンだったね…」

ニーナの切り替えに我が物顔ですごいやろと解説を入れるげるまん、

るーちぇは微笑しまたげるまんの頭をポンポンと叩く

「でも、ニーナちゃん、お茶なんてそんな…いいんですか?」

「いいノ、いいノ!お詫びをしたいシ、少し位ならマネージャーも許してくれると思うヨ!」

さっきまでの清楚な感じではなく元気いっぱいの笑みを向けるニーナ

どこかやりにくさを感じながらもるーちぇはそれじゃあと言葉に甘えることにした。


「じゃア、転送するヨ!」

端末から何かを打ち込むと突然光り輝き出し視界が奪われる

直後足元がふわと浮き宇宙船内部の反重力の感覚に切り替わる

やがて光が収まるとそこはさっきまで居た控え室からどこかの宇宙船内部に変わっていた

おそらくニーナの船だろう。

「わぁ…」

「に、ニーナちゃんの船や…っ!!!」

大気圏外で停泊している船に一瞬で転送されたことに唖然とするるーちぇ。

げるまんはさっきからテンションが高い


「ようこそお客人ボクの船へようこそ、まずは紅茶をどうぞ」

どこからともなく男性のような機械音声がすると

船内のアームが動き出し2人の前に紅茶が入ったティーカップが差し出される

「ゲイナー、アタシのハ砂糖いっぱいにしテネ!」

「はい、かしこまりました」

ニーナの応答に律儀に答え船内のアームがせわしなく動き紅茶を煎れ始める。

「ネ、せっかくだかラサ!2人の旅の話聞かせてヨ!」

突然ニーナがるーちぇにぐいと接近し期待の眼差しで見つめる

顔がかなり近くたしかにいい匂いがしたことにるーちぇは若干頬を染める

「…あれ?私たちが旅人ってどうして分かったのですか?」

「キミの話してる言語がネ、聞いた事ないかラ。おそらく遠くのホシからやってきた旅人なのかナー?ってネ?!」

「言語って…もしかしてニーナちゃん、翻訳機使ってへんのか?!」

ニーナの話にげるまんが驚く


この世界では皆、星が違えば言語が違う。その為通常ではコミュニケーションが取れないのをこの銀河中の星の翻訳機能が備わった特殊なアクセサリーを身につけ、話は勿論、文字や記号等もリアルタイムで自国の言葉に変換されコミュニケーションが取れるようになっている。

勿論るーちぇも腕輪を常時しておりそのお陰でいろんなヒトと会話が出来る。

げるまん等のドールはアクセサリーが内蔵されている為装着することなく翻訳が出来るようだが、

ニーナはそもそも翻訳機を付けていないようで2人の話す会話が母星の言語のまま聞こえていた。

「アタシたちのホシは電子の星だからネ、そもそも電子生命体のアタシらハ翻訳機が無くテモ、こうしてみんなの話す言語を理解できるんダヨ!賢いでショ!」

と言うと突然容姿が小さくなり、げるまんやチャッピと同じサイズになる。外見はまるでクリオネのような足が無い格好をしており外ハネの髪型のような形はしてるものの全体的にデフォルメのような見た目に変わる。

「く、クルオネ?!」

その外見をみたるーちぇが珍しそうにしながら声を出す

「ソウ!アタシたちはクルオネ!賢くて、可愛くって、カッコイイんだヨ!」

くりると空中に浮かびながら一回転をし誇らしげにするニーナ、そのまま同じサイズのチャッピにぎゅっと抱きついた。

「…う。うらやまし」

「…なるほど電子生命体のクルオネだから、翻訳機が無くてもこうして会話が出来るんだ…そうだったんだ」

ボソリと羨ましそうに呟くげるまんに黙って頬を軽く抓りながらるーちぇはひとり納得をしている。

「そゆこと!だからホラ!旅の話を聞かせてヨ!」

くるくると何回も宙返りを行いながらやがて見た目が元に戻るニーナ

同時にアームが紅茶を入れ終えたようでニーナに差し出し、ニーナはそれを受け取りさっそく1口飲む

「いてて…た、旅ってゆーても最近始めたばっかりやからなぁ…なんて言うか。ファントム探し?」

「ちょ、げるまん!」

抓られた頬を撫でながらげるまんが軽いノリで旅の目的を話す。

同時にるーちぇが一喝をする

「ええやんか、警備隊じゃないんやし」

「だからって言っちゃダメだよ!もう!」

「ふぁん、とム?」

2人の様子にキョトンとした顔のまま首を傾げるニーナ

「せやで、なんていうか秘密のお宝みたいなもんや!」

「ふーン、お宝…じゃア2人は旅人じゃなくテ、海賊?」

「ち、ちがうよっ!深くは言えないけど事情あって手に入れるってよりは探してるだけっ」

物騒なニーナの回答に、動揺し紅茶を飲み終えた空のカップがカチャと音を立て揺れる。

「じゃア、探検家?」

ニーナも紅茶を飲み終え、アームを片手間で呼び出し空いたカップを2つ回収する

「…そんなところかなぁ」

「ファントムってお宝が何なのか分かんないケド、見つかるといいネ!」

「ニーナ、地上から呼び出しだ、そろそろ解散したほうがいい」

まだまだこれからと言う所で、機内アナウンスがニーナを呼ぶニーナは端末を見ると、誰かから着信が掛かっていたことに気が付く

「ざんネン、この話の続き、よかったらまたいつか聞かせてヨ!」

会話を中断させられたことに少し悲しそうにしながら握手をしようとるーちぇに手を差し伸べる

るーちぇはそれに答えるようにぎゅっと小さな指先を包み込む

「もちろん、いつか出会えたらね!」

「きっと出会うヨ!アタシたちはもう友達ダカラネ!」


握手を交わしニーナが端末に数字を打ち込むと、また周りが光に包まれる

転送が始まり宇宙船から地上へと移動する


地上の先まで居たスタジオに戻るとマネージャーらしきヒトがニーナを見つけ、開幕叱りだしたがニーナははいはいと流し聞きをする。

げるまんと間違えてないか確認をしつつチャッピを抱き抱えまたねと2人に挨拶をし、るーちぇもスタジオを後にしようとした時だった


「そうダ、コレあげルヨ!たまたま貰ったんだけどアタシよりは2人の船につけた方ガ、きっと役にたつと思ウヨ!」

スタジオ入口あたりで後から慌てたように追いかけてきたニーナが2人を呼び止め何かのチケットを手渡す。

「これって」

見るとそれは、パーツショップの優待チケットだった

「ソレで旅に役立つパーツを買っちゃイナヨ!2人の旅が上手くいくことヲ見守ってるヨ!」

後ろの方からニーナ!と呼ぶ声が聞こえる、おそらくさっきのマネージャーだろう

ニーナも流石にマズイと察したのかじゃあねと一言添えると慌ててスタジオの中に入ってゆく

「アイドルって、忙しいなぁ…」

「うん…必ず、また会いに行こっか」

嵐の如くやってきてすぐに去ってしまったニーナを唖然としたまま見送る2人

るーちぇは受け取ったチケットを仕舞い、歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから惑星調査を済ませ報告書をるーちぇの勤めている調査本部へ送信し、報酬の入金確認を済ませその足で買い物を行った2人。


荷物を持って元きた軌道エレベータを登り発着場前ゲートと通過し自分たちの船に乗り込み、座標を近くのファントムへ打ち込んでから発着場を離れる。


リミナルドライブを発動し高速航行へ移行したのを確認し、るーちぇは購入した日用品や消耗品を各棚に仕舞い込みひと段落ついたのを確認し終えた後、操作室に戻りドライブ状況を確認した。到着予定時刻に余裕があることを確かめると今度はシャワーを浴びようと座席を立ち、操作室を後にする。

さも当然のようにげるまんはその後から着いてくるがあっさりとシャワー室前で追い出され鍵を締められる。

「ち、バレたか」

仕方ないと諦め、自分の部屋へ向かいげるまんサイズの小さいベッドに寝転がり時間を潰す

ふと小窓を覗き高速航行を行っている空間を眺めていると違和感に気づく

明らかにこちらの船と全く同じ速度、方向で高速空間をさっきから併走している小さな船が1隻あった。

げるまんはぼんやりとしたままその船を見つめているとやがて違和感の正体に気がついた。


「あれは…!」

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