第八話 幸を願う
アリエスとジョルジュが挨拶を受けていると、そこへ国王がやって来た。
婚約したのに、ジョルジュが会うのは初めてだったりするのだ。
遠目から見ていても凄かったのに近くで見るともっと凄いと、キラキラした目で見てくるジョルジュにペット風味を感じた国王は、「これは、男女の仲にはならんな」と思い、自身の中でもペット枠にカテゴライズしたのだった。
「リゼ、踊るぞ」
「はーい。ジョルジュ、ちょっと待っててな」
「うんっ。いってらっしゃい」
国王とアリエスが踊るとあって、ダンスフロアでは人が少しずつ優雅に場所を空けていった。
ジョルジュと踊ったときよりも速いステップでフロア内を泳ぐアリエスたちにジョルジュは、目を更にキラキラさせていたのだが、それに気付いた国王はちょっと面白くなかった。
「父ちゃん、ティアラありがとうな」
「ああ、良く似合ってる。……あれと結婚するつもりか?」
「父ちゃん、アレって。ふふっ、どうなんだろう。想像つかないけど、なるようにしかならないよ」
「フンっ。まあ、良い。そのことはリゼに任せる」
「認めてくれるんだ?」
「さあな」
娘の結婚を認めたくないテンプレな言動にくすぐったくなったアリエスは、楽しそうに、そして、幸せそうに笑ったのだった。
国王と踊った後は、先代国王である祖父とも踊ったアリエスは、ドレスのお礼を述べた。
「なに、余にかかればどうということもない。よく似合っておるぞ、アリーよ」
「ありがとう、お祖父様!」
どうということも大ありだったことを知っているのは、ロッシュとウェルリアムだけなので、そういうことにしておいたのだった。
第一王子バニュエラスとその妻ベレニーチェがやって来たときは、祝いの品の方向性がちょっと違ったことを謝罪したアリエスであったが、二人の様子にアレ?となった。
ベレニーチェは扇を広げて目だけを出したので、ロッシュはアリエスにこしょっと「気付かなかったフリをしてください」と伝えた。
なんと既に第一王子妃であるベレニーチェは夫である第一王子の子を身篭っていたのだ。
なんという早業。さすが、ハルルエスタート王国の王位継承者。国の未来は安泰である。
色々な人に挨拶を終え、ダンスのお誘いをそこそこ受けてから王妃がアリエスのもとへとやって来た。
優しくアリエスとジョルジュに微笑んだ王妃は彼女が身にまとっているドレスを近くで見て、「これだから男親は……」と、内心でため息をついた。
これほどまでの逸品を用意されてしまえば、婚礼衣装を探すのは至難の業となることは分かりきっていた。
後ろで涼しい顔をして控えているロッシュに呆れた視線を僅かにだが向けると、王妃はアリエスとジョルジュに小さな提案をした。
「婚礼衣装が間に合わなかったら、いつでも言ってちょうだいね。わたくしのをお直しして着るという手もありますから」
「アンリエット王妃様のを?」
「ええ。母から娘へ託すものに価値など付けられませんもの。誰に何を言われることもないわ」
「母から娘へ……?私のことを娘だと思ってくれるの?」
「もちろんよ。こんなおばあさんじゃ嫌かしら?」
「ううん。ううん、そんなことないよ!えへへ、嬉しい……」
「喜んでもらえて嬉しいわ。ジョルジュ殿も、わたくしを第二の母と思ってくれると嬉しいわ」
「は、はいっ」
照れ照れしているジョルジュの小動物感に、「こういう感じの男性の方がやる時はやるのよね」と思い、女性の頂点に君臨する王妃アンリエットは自身の勘に頼ることにした。
二人の手を同時にそっと優しく握り込み身を寄せると、小さな声で「わたくしの手を取るのは最終手段よ」と、微笑んだ。
つまり、最後まで足掻け、ということである。
ジョルジュが自力で用意出来るか、それともアリエスが暴走して作ってしまうか、それは分からないが、二人が結婚する意思を固めたのであれば、その後押しをしようと思ったのだった。
ロッシュはアリーたんが幸せならばそれで構わないため、二人が結婚することにそれほど拒否はないが、立ちはだからないとは言っていないのだ。
アリエスとジョルジュが王族専用スペースから出なかったため、ご新規さんたちは結局声をかける機会を得られずに夜会は終了した。
アリエス自身が社交をしないため新たに友好関係を築くようなことはないのだが、既にそれなりの人脈があるため必要なかったりするのだ。
貴族の序列一位ヤオツァーオ公爵家、辺境の地ミースムシェル公爵家、盛り返し始めた食料庫グラントゥルコ侯爵家、守護神から力を賜わりしプロメッサ侯爵家、ダンジョンを抱えているシルトクレーテ伯爵家、保養地として舵を切り始めたミーテレーノ伯爵家、ウェルリアムの母親の祖父母にあたる伯爵家と男爵家、ハインリッヒの両親と弟である子爵家と男爵家、暗部に身を置くレベッカなど、高位から低位まで幅広く人脈がある。
ここに、王妃アンリエットやパウリーナなどの妃や側室の実家も加わるのだ。
気の向くままに好き勝手しながら繋いできた繋がりがここまで大きくなったのだ。
アリエスは、これからも好き勝手に楽しく生きることだろう。
時には人を巻き込み、知らないうちに誰かを助け、そうやって繋がっていく彼女の見据える先には何があるのだろうか。
それは、神にも分からない。
アリーたんよ。人生を楽しんでおくれ。
たまには、テレーゼの手料理をお供えしてくれると嬉しいので、バウディスタ、君の父親である国王に頼んでおこうかな。
君の人生に幸多からんことを願う。
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