第五話 実は、そういうこと

 城にあてがわれている部屋へと戻ってきたアリエスたちは、ロッシュが入れてくれたお茶で少し休憩をすることになったのだが、アリエスが椅子に座る際に中椅子というドレスの中に入れて使う椅子をメイドが持ってきてくれた。

それをドレスの中に入れて座るとドレスがシワにならずに済むのだが、アリエスは面倒くさがりなので、そのままソファーに座ってしまった。


 その様子を表情を変えることなく受け入れたメイドは、一礼して何事もなかったように控えの間へ退室していったのだが、それはシワになったドレスに洗浄魔法をかければキレイに元通りになるからである。

もちろんアリーたんはメイドさんにしてもらわずに、自分でするからソファーにどさっと座ったのだ。


 「それで、リム?思ったような結果にはなったのか?」

「そうですねぇ……、まあ、ちょっと思ったのとは違う結果になりましたが、それは僕が彼女のことをほとんど理解していなかったからなんでしょうね。でも、スッキリしましたので、本当に今日は、ありがとうございました」

「そうか。まあ、それなら良いんだけどな。監視は付くんだろ?」

「もちろんです。まあ、あまり意味はないかもしれませんが……」


 コンスタンサが専属護衛騎士に軟禁されることになっているのを言えなかったウェルリアムは、言葉を濁したのだった。


 時間になったのでアリエスはジョルジュにエスコートされて会場に向かった。

今日のためにエスコートの仕方もロッシュから習い、頑張ってきたジョルジュであったが、先程の「子供は何人ほしい?」というアリエスのイタズラにまだ思考は停止中である。


 「おーい、ジョルジュ。大丈夫か?」

「ハッ!?だ、大丈夫……ですっ。はふぅー」

「アリエスさんがあんなこと言うからですよ?」

「だな。ちょっと刺激が強過ぎたか。ところで、ジョルジュ。お母様のことは、どうするんだ?修道院にいるんだろ?」

「えっ、ああ、母さん、いえ母上は修道院から出ないと思いますよ?」

「え?出ねぇの?」

「はい。その……、そこに好いた方がおられるそうで、お二人で神に祈りを捧げながら寄り添っていかれるみたいです」

「修道院にいるんだよな?……あ。百合の住人なのか」


 この世界でも百合とか薔薇の住人といった人たちはいるのだが、あまり歓迎はされないだけで、非難されるところまではいっていない。

要するに、誰にも迷惑をかけず、責務を果たしているのならば、目をつむるといったところだ。


 ジョルジュの母親は、どちらかといえば百合の世界に近いところにいたのだが、国王であった男に愛人にされ、子を産まされたことで完全に百合の住人となってしまったのだ。

ジョルジュの父親である国王だった男は、よく自分の方を見てくる愛らしい令嬢の視線を勘違い・・・して、自分を恋い慕っているのだと思い込んでしまい、彼女に手を出したのだ。


 嫌よ嫌よも好きのうちなのだろう?と、ゲス親父な発言をかまして関係を持ったのだが、ジョルジュの母親が熱視線を送っていたのは王妃、つまり今のエントーマ王国王太后であった。


 身篭ってしまったものは仕方がないと、頑張って産んだ我が子は可愛かったのだが、まさかの精霊眼持ち。

当時王妃であった王太后が愛人やその間に生まれた子を秘密裏に始末していると囁かれていたこともあって、ジョルジュの母親は彼女に手紙を出した。「あなたの手にかかるのならば本望です」と。


 そこで、ジョルジュの母親が向けていた熱視線が夫ではなく、自分に向けられていたことを知った王太后は、彼女に手を出すことはしなかったのだが、それはヤンデレ風味が漂っていてちょっと怖かったのもあったのだろう。

ジョルジュの母親が王太后に熱視線を送っていたことや、手紙の内容は誰にも知られていないため、周囲は王太后に怯えて修道院から出て来ないのだと思っている。


 「ということで、叔母が母から受け取った手紙を送ってくれたのですが、そこには、祖母の勧めもあって身を移した先の修道院で、運命の人に出会っちゃったとありました」

「そうなのか。まあ、何にせよ幸せそうならそれで良いのか」

「はい。戒律の厳しい修道院ですので面会は出来ないのですが、母が幸せならばそれで良いと思っています」

「戒律の厳しい修道院なのに、百合はいいのか……」

「男性との接触を一切禁ずる、ということでして、自身が産んだ息子であったとしても手紙のやり取りすら出来ないのですよ」

「ただの百合天国か?」


 アリエスが言うように百合天国などといったことはなく、早朝から起きて季節に関係なく水で身体を清めた後、聖堂にて祈りを捧げ、食事も質素なものが多い、ちゃんとした修道院である。


 ちなみに、今回のアリエスたちの婚約発表だが、招待状は王家から出ている。

本来ならば当事者とその親が一つ一つ丁寧に書いて出すのだが、アリエスがそんな面倒なことをするわけもなく、王家が招待状を出すときに使われる部署から送られている。


 紙質に始まり、装飾や香り付け、インクと字体の種類などを相応しく組み合わせ、時候の挨拶を考えてひな型を作ってくれたのは、アリエスの第二の母と自負しているハルルエスタート王国王妃であった。

そのひな型をもとに文官たちが招待状を仕上げて、それを王妃が一つ一つ確認した上で送っている。


 ウェルリアムと第四王女アウレーリアも今回の夜会で婚約が発表されるのだが、こちらはアウレーリアがまだ未成年のため夜会に参加できないことから、後日、茶会が開かれることになっており、その招待状は、きちんとアウレーリアとウェルリアムによって準備され送られている。


 つまり、アリーたんは招待客のリストなんぞ頭にないのであった。





 

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