第四話 やらかすよ!

 準備を終えたアリエスとジョルジュは、ウェルリアムの転移によって王宮の北にある王族を幽閉するための部屋までやって来た。

転移で移動しているのは、そこに王族、つまりコンスタンサがいることを周囲に知られないようにするためで、食事もウェルリアムが運んでいる。


 「身の回りのこととかは、この宮で働くメイドたちがしてくれているので不便はないですよ。まあ、不満ではあるでしょうけど」

「そりゃそうだろうな。ジョルジュ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ちゃんとやれるよ!今日だけアリーって呼ぶね」

「おう。そんじゃあ、やらかしますか!」


 外側からしか開けられない扉が取り付けられている幽閉用の部屋は、本来ならば外に待機している兵士がいるのだが、ウェルリアムは転移で行き来できてしまうので、誰かに待っていてもらう必要はない。


 部屋の中にいるのは罪人であるコンスタンサだとはいえ、ノックをしてあげるウェルリアムを見てアリエスは、「必要か?」と問うたのだか、それに対して彼は、「一人でシャワーも浴びられなければ服も着られませんからね。入室の可否はメイドに対してしているようなものですよ?」と、疲れたような顔をして答えた。


 どうぞ、というメイドの声で扉を開けて中に入ってきたウェルリアムを睨みつけるコンスタンサは、自分が第一王女として輝かしい生活をしていた頃でも手にすることが出来なかったような、豪華な衣装と宝石で綺麗に着飾ったアリエスと隣に勝ち気そうな顔をして寄り添う美男子ジョルジュを目にして憎悪を募らせた。


 「何の用ですの……?わざわざこんな所まで来て、わたくしを笑いに来たんですの!?」

「あら?何か笑えるような面白いことをしてくださるのかしら?ねぇ、ジョルジュ、見てみたいわね?」

「ふふ、そうだね、アリー。婚約発表を控えているから少し緊張をほぐすのに何か余興をしてくれるとありがたいよ」

「婚約発表……ですって?」

「そうよ?リムの新たな婚約と、わたくしと彼との婚約よ。ふふっ、あなた、まだ気付かないの?彼の名前を聞いて何の反応もしないなんて、リムの情報が間違っていたのかしら?」


 アリエスの嘲笑を浮かべた表情に更に憎悪が増すコンスタンサ。

それを見てジョルジュは内心で「わー、婚約の相手がこの人じゃなくて本当に良かった。夜にトイレに行けなくなっちゃう」と、ズレたことを考えていた。


 水を向けられたウェルリアムは、「それに気付けないような人だから、ここにいるんですよ」と、少し大袈裟にやれやれといった感じで肩を竦め、コンスタンサに目の前の男性が誰なのかを教えることにした。


 「彼は、エントーマ王国王弟ジョルジュ・イレール・マーティア殿下ですよ。精霊眼を持つ王位継承者ですが、ご存知ありませんか?」

「どういう……こと?どうして……?どうして、彼とあんたが婚約するのよ!!?彼はわたくしのよ!!返しなさいよっ!!!」

「まあっ、人を物みたいに言うのね。仮にも王位につける者に対して随分な物言いね?不敬だわ」

「うるさいっ、黙れぇっ!!わたくしが彼と結婚して王妃になるのよ!!お前のようなメイド風情の庶子がっ、その立場はわたくしのものなの!!わたくしこそが相応しいのよっ!!」

「聞き捨てならないわね。訂正してちょうだい。お母様は側室になっているわよ?それに、わたくしは侯爵位と領地もあるわ。罪人がふざけたことを言わないでくれるかしら?」


 コンスタンサの言葉にイラっときて、威圧を放出し始めてしまったアリエスに落ち着いてもらうべく、ウェルリアムはジョルジュへと目配せをしたところ、彼はアリエスの腕に自分の腕を絡めて彼女の肩に頭を預けた。


 「どこまでいっても不敬な人なんだね。アリーのことをそんな風に言うなんて。それに、出自で言えば僕の母は未だに愛人のままだよ。まあ、そんなことはアリーがいればどうにでもなるから気にしていないけれどね?」

「ええ、そうね。エントーマ王国の王太后が何と言おうと、ジョルジュのお母様を側室にしてあげるわ。わたくしには使える権力が色々とあるもの。コンスタンサ、あなたと違ってね?」


 優越感たっぷりの視線を向けられ憤慨するコンスタンサにウェルリアムは、「こんなののどこが良いんだろう?」と、コンスタンサを欲しがっている彼女の専属護衛騎士を思い浮かべた。

100年の恋も冷めそうな形相だが、何と、その専属護衛騎士はちゃんと見ているぞ。どこにいても、何があっても守ると決めているので、常にそばにいるのだ。アリエスが知ればロリコンヤンデレストーカーと呪文のように口にしたに違いない。


 「ねぇ、ジョルジュ。王様になりたい?」

「アリーが王妃になりたいのなら王になっても良いよ?その代わり、僕は側室は持たないからね?」

「あらまあ。ふふ、大丈夫よ。マリーナ様がいるから出産も安心して出来るもの」


 アリエスが続けて「子供は何人ほしい?」と尋ねると、ボフっと音がしそうなほど真っ赤になったジョルジュを見てウェルリアムは、撤収することにした。

どうせコンスタンサは怒りで周りが見えない状態になっているのだから、これ以上ここにいても無意味だと判断したのだ。


 こうして、ギャフンというよりもブチ切れさせる方向で終わってしまったが、ウェルリアムはそこそこ満足したのでアリエスとジョルジュにお礼を言って、あてがわれている部屋へと転移して戻ったのだった。




 

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