第二話 王女が描かれた絵
婚約発表の夜会が開かれる前日、アリエスはジョルジュとロッシュを連れて、ウェルリアムの転移でハルルエスタート王国の王城へとやって来ていた。
アリエスが欲しがっていた、第三王女フェリシアナを温室にて描いた絵が5枚完成したので、どれを持って帰るか選びに来たのだ。
今日はそのまま王城へと泊まり、翌朝は早くから女官たちによって磨きに磨かれる予定なのだが、茶番を行なうために少し早めに仕上げてもらうことになっている。
第三王女フェリシアナを描いた絵は、城の客間に並べられており、一番大きなサイズが横4m縦2.5mで、薄紫とピンクのグラデーションになった花が咲いた木々から陽の光が差し込み、花びらが舞う幻想的な光景の中でドレスに結ばれているリボンを妖精の羽のように靡かせている姿のフェリシアナが描かれたもの、次が横3m縦1mでその木々の下で白を基調としたテーブルセットでお茶をしている姿、縦横1mのサイズで花びらが舞う中で木に手を添えて微笑む姿、直径1mの丸いキャンバスには花びらを巻き上げるようにして父親である王太子アルフォンソと微笑みながらダンスをする姿が描かれており、二人のことを知らぬ者が見れば、うっとりと見蕩れてしまう仕上がりであった。
最後の一枚は縦横70cmのキャンバスで、第三王女フェリシアナは"はしたない"と最初は嫌がっていたのだが、画家の強い要望で、花びらを両手ですくい上げて放り投げ満面の笑みを浮かべる、王女というよりは少女らしい姿が描かれていた。
最後の一枚を見たアリエスは、「私はコレ好きだけど、王女としてはダメなやつなんだろ?」と、ロッシュに尋ねた。
「はい、
「いや、でもさぁ。案外、フェリ様の婚約者とか喜びそうじゃね?本人が贈るのはアホっぽいけど、私がコソっと贈るのは有りなんじゃないかと思うんだよねぇ」
アリエスの思いつきで、満面の笑みを浮かべた姿が描かれた絵は、秘密裏に第三王女フェリシアナの婚約者であるルナラリア王国王太子へと贈られることになった。
しかし、黙ってそういうことをされると困るだろうと、第三王女フェリシアナの本性を知っているロッシュは、この絵を贈ることを前もって伝えてあげることにしたのだった。
ここまで大きな絵を見たことがなかったジョルジュはというと、客間に入ってから、今もポカーンとしている。
最初は大きさに圧倒され、次は幻想的な絵にうっとりし、描かれているのがアリエスの異母兄と姪っ子であると知って、「え?描かれてるのって人間なの?」と驚いたのだ。
「ふふっ、確かにな。兄貴もフェリ様も綺麗だからな。でも、父ちゃんはもっと凄いぞ?」
「え?そうなの?あっ、ロッシュさんは叔父さんにあたるんだもんね。ということは、ロッシュさんみたいな感じ?」
「おう、そんな感じ。ただ、もっと美しく色気がマシマシになってるけどな」
「うわ、そうなの!?いいなぁー。僕もロッシュさんみたいな大人の男に憧れるよー」
僕も歳をとったらなれるかな?と首を傾げるジョルジュにアリエスとロッシュは苦笑し、「ジョルジュは、ジョルジュらしくいれば良いんだよ」と、言葉を少し濁したのだった。
アリエスが選んだのは一番大きなサイズの絵と、木に手を添えて微笑む姿が描かれた絵の二つで、丸いキャンバスは第三王女フェリシアナの母親である側室パウリーナにあげてはどうかと提案した。
「左様でございますね。娘の第三王女フェリシアナ様が嫁がれてしまわれると寂しく思われる日もありましょうから。きっと、お喜びになられることでしょう」
「よし、じゃあ、そうしよう!あ、そういえば、パウリーナ様って具合はどうなんだ?かなり悪かったよな?」
「元凶である呪いから解放された後、きちんと療養し回復なされたと聞き及んでおります。今は穏やかにお過ごしになられているとのことです」
「そっか、よかった!元凶は、どうなった?」
「頬に
「あ、そうなんだ。じゃあ、もう気にすることはないな。まあ、今の今まで忘れてたけどな!」
問題が解決しているのならばそれで良いと、アリエスは自身が選んだ絵をインベントリへと片付けた。
選ばなかった二番目に大きなサイズの絵は、「城に飾ると映えると思うんだよね」というアリエスの一言で、賓客用の宮へと続く回廊の一番目立つところに飾られることになった。
時期によって飾られる絵画や調度品は変えられるため、この絵が飾られるのは来年の春先になる。
アリエスお気に入りの王女ということと、ルナラリア王国との仲を深めるためという役割を持つ優秀で努力家な第三王女フェリシアナを国王も王太子も目をかけている。
本来ならば嫁いでいった王女が描かれた絵が輿入れ後も飾られるということはないのだが、この絵に関してだけはアリエスのお気に入りということで、春先になるとどこかに飾られるようになるのだった。
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