13 嫁ぐ娘

第一話 出来上がり!

 ドレスが完成し、最終的な調整を終えたアリエスは、ジョルジュが見つけてくれた最高品質のダイヤモンドを使ったネックレスとイヤリング、ペアの指輪をつけて全体の確認をされていた。

しているのではなく、されているのは彼女には何がどう違うのか分からないからである。


 ティアラは、デビュタントの夜会に参加したときにつけていたものをそのまま使うのかと気にしていなかったアリエスは、最終確認のときに父ちゃん国王から新たに贈られていたことを知って困った顔をしていた。

今回の装いに自分が贈ったものが一つもないのは嫌だという理由を聞いたからではなく、「ティアラなんて1個あれば良くね?」と思ったからである。


 「おー、ドレスがヒンヤリしてる。なんだ、これ?ラップみてぇ」

「ちょっ、アリエスさん!ラップとか止めてくださいよ!それ、氷絹っていってめちゃくちゃ高くて希少なんですから!!」

「ラップって、なーに?これ、すごいねぇ。ふわーふわーって、アリエスさん似合ってる。かわいいっ」


 頑張ってアリエスを可愛いと褒めたジョルジュ。

しかし、真っ赤になって照れているそんな彼を見てウェルリアムは、ジョルジュの方が可愛らしいと喉まで出かかっていたが、言わなかった。

 言えばロッシュに笑顔でシバかれるのは、考えなくても分かるからである。


 アリエスのドレスに使われている金色の生地は、蜘蛛型の魔物の餌に純金を混ぜて与えることで金色の糸を吐き出させ、それを紡いだものが使われている。

そして、その生地よりも妖精の衣の方が高く、氷絹は更に高い。


 「え。ラップとか言ってゴメン」

「本当に勘弁してくださいよ?まあ、ラップと言って通じるのは僕と先見さきみのマディアくらいのものでしょうけど」

「まあな。ロッシュ、ありがとう。んふふっ、シャボン玉のお姫様みたい!」

「お気に召していただけたようで何よりでございます。弾けて消える際は是非ともお供させてくださいませ」

「あははっ、ロッシュはどこまでもついて来てくれるもんな!」

「ええ、もちろんですとも」


 外せない用事がなければアリエスに侍っていたいロッシュとテレーゼ、ハインリッヒ。

そこに、クララとクイユが加わり、ジョルジュが追加された。


 ジョルジュの側近たちには、アリーたんの魅力がイマイチ伝わっていないのだが、彼らは坊ちゃんジョルジュが幸せならそれで良いのだ。


 側近たちには、既にエストレーラ侯爵領の平民籍が与えられており、畜産の仕事をしていることから給料が支払われているのだが、来年からはその給料から人頭税が天引きされることになっている。

天引きが来年からなのは、家族を呼び寄せて生活するのだから、その準備にお金がいるだろうというアリエスの心遣いである。


 ちなみに、ジョルジュはエントーマ王国王弟となったことで王家から予算が配分されたのだが、それはエントーマ王国王城まで取りに行かないといけないため、まだ手元にはない。

アリエスが必要なお金は出してやるから遠慮するなと言い、配分された予算は側近の家族を迎えに行ったときにでも貰ってくればいいだろうということになった。


 王弟としてアリエスのもとへ婿に行くため、結婚する際には持参金も王家から出るのだが、ジョルジュはそれを「僕には必要のないお金なので、国のために使ってください。お金が必要なのであれば自分で稼ぎます!」と断っている。

というのもアリエスが王侯貴族のような生活をしていないため、持参金が必要な生活にはならないからである。


 仕立て屋で試着を終えて衣装を受け取り、研究所まで戻ってきたのだが、アリエスが「何の研究もしてねぇし、研究員もいねぇのに研究所っておかしくね?」と、ポツリとこぼした。


 「確かに、そうでございますね」

「……独身寮でいいか」

「アリエスさん、研究所を独身寮と呼ぶのはいいとして、この場所の名称はどうするんですか?調査村はクラウス村に変更したんですよね?」

「ああ、あっちはクラウス村に変更してある。……よし、じゃあここは『アデリナ地区』にしよう!ロッシュ、手続きお願いな!」

「かしこまりました」


 研究所は独身寮に、遺跡があった場所はアデリナ地区となった。


 戻ってきたアリエスたちに気付いたテレーゼが、夕食にシーララースを使った料理を出せると報告してきた。

シーララースは、アリエスが滝壷で凍らせてしまったレア物で、テレーゼが村人から調理法を聞いて対処していたのだが、食べられるようになるまでかなりの日数を要した。


 内蔵を取って丸一日水に浸し、干す、茹でる、水に浸して、また干すの繰り返しで、それに使った水や茹で汁も料理に使える。

何故そんなことを繰り返すのかというと、シーララースは旨味が強過ぎて、そのままでは旨味調味料をムシャムシャしているような感じなのだ。


 そのため、出汁を抜き取るような感じで水に浸したり茹でたりを繰り返して、ようやく本体を食べられる。

その頃には、骨まで柔らかくなっているので、気にせずかぶりつけるのだ。


 ただでさえ美味な素材シーララースがテレーゼとアリエスのお買い物アプリで購入した材料によって更に進化し、食べた者たちはこれ以上美味しいものはないと断言するほどの仕上がりであった。


 何種類もの野菜と肉と一緒にシーララースを炊きあげた後、醤油に香辛料とニンニクを入れたタレで絡め、表面を軽く炙ったことで香ばしさも添えられている。

表面は噛めばぷっつりとした食感で、身はホックリとしているが滑らかさもあり、噛めば噛むほど野菜と肉との旨味と一緒にシーララースの旨味も出てくるのだ。飲み込むのがもったいなく感じるほどである。


 もちろんアリーたんは、いい子なのでそれをお供えしてくれている。

周囲から嫉妬混じりの怨嗟を感じながら、ハルルエスタート王国の守護神は妻と子と共にそれを堪能したという話を国王は後になって聞かされた。


 しかし、心配はいらない。

アリーたんは、シーララースと出来上がった品とをクラウス村にある商店に売り、それを買い取っているので、いつでもお買い物アプリで購入できるようになっている。

 そのため、近いうちに父ちゃん国王にも振る舞ってくれるだろうが、いいように使われたクラウス村の商店の店主はワケが分からなくて混乱したままであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る